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月夜と黒猫  作者: 陽夜
第1章
14/24

Mission12 街

「どうしよっかなあ……」


 無事に服も選び終わり、次に立ち寄ったのは魔法具店。魔法を行使するのに欠かせない杖や魔法を学ぶための教科書、『意中の彼を振り向かせてみせる! 絶対に効くおまじない』……なんて明らかに怪しい指南書など色々なものが置いてある。

 面白そうだけれど今日のお目当ては杖の代わりになるアクセサリー探しだ。


 曰く、魔法を使うのには自身の魔力を魔法に変換する必要があり、魔法を主な攻撃手段として用いる魔術師は魔力を変換して魔法として放出するために杖を使う。すなわち、杖は魔法の出力器という訳だ。

 形が杖でなくとも、銀などの金属、御神木など昔から神聖視されている樹木、宝石などといったいわゆる“力のあるもの”を使ったアクセサリー類でも十分に出力器としての役割は果たすことができる。


 それなら何が違うのかというと、一度に出力できる魔力の量だ。だから魔術師はもちろん杖を使うが、武器を手に戦う人にはそこまで規模の大きい魔法は使う必要がない。魔法はあくまで補助でしかないので、武器科の人はわざわざ大きくて邪魔になる杖を使わずにペンダントやブレスレットなどを身につけるという訳だ。


 あたし達が今日これを求めているのは、今度副科魔法の授業で使うから用意して、というアナウンスがあったからだ。基本的にアクセサリー類で戦闘の邪魔にならないものならなんでも良いという話なのだが、いまいちピンとくるデザインのものが見つからない。

 あれでもないし、これもなんか違うし……と一人うんうん唸っている間に海とゆかりは決まったらしく、さっきの怪しいコーナーに行って盛り上がっている。


「どう? 決まりそう?」

「うーんどうにもこれ! って感じのがなくてさ……」


 後ろで別のものを見ていた澪が声を掛けてきたので、あたしは素直に答える。


「そういえば始業式の日に澪に空飛んでもらったけど、あの時は杖持ってなかったよね?」


 副科魔法の授業が始まってから疑問に思っていたのだ。魔法科選択の澪が杖を持っていないはずがない。


「あの時はちょっと使ってみせるだけだったからこれで事足りたの」


 そう言って澪は編み込んである左側の髪を耳にかける。出てきたのは瞳と同じ藤紫色をした一粒石のピアスだ。


「杖は管理室に預けてあるから普段は使えないでしょう? だから魔術師でもこういう風にアクセサリーを身につけてる人は多いのよ」

「なるほど……」


 耳にかけた髪を再び下ろすと、澪はまた口を開く。


「決まりそうにないなら今日無理に決めなくてもいいんじゃない? まだ授業は先なんでしょ?」


 そう、今日用意したとしても実際に授業で使うのは六月になってから。それまでは教室で、初等部と中等部の生徒に混ざって魔法についての知識を習うことになっている。高等部の人達は自分達が編入した年に既に習っている内容なので、あたしと海以外に高等部の人がいなくてなんとなく寂しい。


「それもそうかー……」


 いつまで見ていても見つからないものは仕方ないし、また後日改めて来ることにしよう。


 海とゆかりに会計を促しに行くと、はい! とさっき目に留まった例の『意中の彼を振り向かせてみせる! 絶対に効くおまじない』を手渡される。いやいらんわ! そもそも意中の相手とかいないし!

 一瞬詩音の顔が浮かんだけれどそれはない! とすぐにかき消した。



「それで二人は何を買ったの?」


 魔法具店を出て次の目的地へ向かう道中。尋ねられた海とゆかりは顔を見合わせて、さっきのお店で入れてもらった紙袋からガサガサと取り出してあたしに見せた。

 海は雫型をした半透明な石のペンダントで、ゆかりは三つ編みにされた赤い紐に碧玉がついたブレスレット。いかにも二人らしいチョイスだ。


「よく似合うね」

「一目惚れだったんだよ。ね、ゆかり」

「そうそう」


 海が話を振って、ゆかりが相槌を打つ。良いものが見つかってなによりだ。


 さて最後に向かうのはクラウディオさんのお店。本当なら三人だけで行った方が良いのだけれど、如何せん地図があっても「“フドル”にある」「ウーモ アッレーグラというお店」だけでは辿り着けない。

 しかも聞いた話、フドルは街にある6つの地区の中で1番迷いやすい場所なのだとか。どういうことかと思っていたけれど実際行ってみて分かった。これは迷う。


 白い外壁に茶色い屋根の家が軒を連ねていて、歩道には全てレンガが敷かれている。メールで言う地中海の街並みにそっくりで、綺麗だけれど迷うこと間違いなしな地区だ。

 あまりにも街並みに見とれていたせいか、澪にクスクスと笑われる。


「もう、三人とも同じ顔してるよ?」


 どうやら海もゆかりもポカーンと口を開けて辺りを見渡していたらしい。これはちょっと恥ずかしい。


「だってほら! こんな綺麗な街並み今まで見たことなかったからさ!」

「テレビとか雑誌の向こう側の世界だったよね」

「外国に旅行に来てるみたいですっごくワクワクする!」


 あたし、海、ゆかりの順で早口で捲し立てる。本当に旅をしている気分だ。


「へえ、じゃあこんな素敵な街でお茶でもどうかな? 可愛い女の子達」

「!?」


 驚いて振り向くとそこにいたのは金髪に緑の目をした長身の美丈夫。両手に食材の入った紙袋を沢山抱えている。えっとこの人は確か──。


「ローレンス先生! こんなところでどうしたんですか?」


 そうだ、ゆかりの実技担当で保健医のローレンス先生だ。ついでに言うと泣く子も黙るロリエ隊の一員で、誰にでも(特に男子)セクハラをする変態だ。

 さすが実技で関わっているだけあってナンパの常套文句を華麗に躱したゆかりは、にこにこと笑いながら首を傾げている。いい先生なのだけれど、あたしはまだこのノリについていけない。というか慣れていいものなのだろうか。


「夕食の買い出しだよ。今日は俺とマシューくんが当番だからね」


 こちらも躱されたことに特に何の反応もなく普通に受け答える。先生のナンパはただの挨拶らしい。


 ローレンス先生の言うマシューくんとは、あたし・海・澪の二つ上で生徒会長の先輩だ。この人もロリエ隊の一員で、年下のあたしから見ても可愛い系なのにいろいろ不憫な人だ。あの隊にいたら不憫枠になるのも頷けるような気がするけれど、少し気の毒である。


「マシュー先輩は買い出しに来てないんですか?」


 海が尋ねると、ローレンス先生は「あそこにいるよ」と振り返って大荷物を抱えながら指をさす。


「待ってくださいよローレンス先生〜」


 先生に劣らず……というより前が見えないレベルの大量の荷物に埋もれながらマシュー先輩がよろよろとこちらに向かって来ている。あれ大丈夫なのだろうか。


「だから少し持つよ、って言ったのに意地張って一人で持とうとするから……」


 ボヤいた先生はマシュー先輩の方に駆け寄っていくつか紙袋を受け取る。先輩は視界が開けてどうにか歩きやすくなったみたいだ。


「一緒にお茶したいところだけど、これから夕食の準備をしなきゃだしまた今度だねー」


 マシュー先輩のところからローレンス先生はあたし達にそう声を掛けると、寮の方へ歩き出した。いきなり歩き出された先輩は慌てて荷物を落としそうになりながら先生の後ろを追いかける。


 さて思いがけない足止めを食らったけれど、書いてもらった地図によればこの角を曲がって一つ先の反対側のお店がクラウディオさんの営む喫茶店だ。


「ここまでで大丈夫?」


 案内してくれた澪にお礼を言って別れる。いよいよあたし達の知らない両親の話を聞くことができる。


 大きく息を吐く。緊張で汗ばんだ手を一度開いてまた握ると、あたしは喫茶店のドアを開いた。


 からんからん。ドアについた木製のベルが乾いた音をたてる。


「いらっしゃい」


 中に入ると白シャツにカフェエプロンをしたクラウディオさんがカウンター越しにあたし達を出迎えた。




拍手お礼で用語解説置いてあります

良かったらぜひ


2023.7.11訂正

現在の書き方に合わせて改稿しました

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