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無能と呼ばれ剣聖になった男  作者: 悠渡
第一章 大商帝国と神秘の森
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第十六話 束の間の休息 ~伝承~

「薄暗いと、若干だけど不気味だな」

「まあ、確かに不気味だ。だが、大広間までもうすぐだ。そこまで行けば、眩しいんじゃないか?」

「そうかもな。でも、若干煩そうだ」


 隼人は、祭りとか嫌いではないが、好きでもない。好きではない理由は、騒がしいからだ。祭りは騒ぐものかもしれないが、それでも煩いのは好きじゃない。


 煩くなりそうだ。そんなことを考えながら、薄暗い森の道を進む。すると、視界に大樹が入る。


「ここから見えるなんて、やっぱりでかいな......」

「まあ、この森のシンボルというぐらいだからな。でかくて当然じゃないか?」

「......あんなに大きいなら、森の外からでも見えるよな」

「......まあ、そうだろうな」

「でも見えなかった、よな」

「......確かに、視界には入らなかったが......」

「......ま、いいか。行くぞ、シュラ」

「お前の話の種だぞ、どうでもいいなら相談するな」

「いや、悪い悪い。ささ、行こう行こう」


 大樹について幾つかの疑問を持ったが、現段階どうしようもないので、気にせず道を進んだ。


 道を進み、すぐに大広間前まで来た。ゲートのようなものを潜ると、目の前に光が広がる。夜なのに、昼間並みに明るい。寧ろ眩しいぐらいだ。住居区に居なかったのは、やはり宴をするためにここに集まっていたのだ。だが、しかしというか、やはりというか、とても煩い。でも、見ていて飽きないし、嫌な思いもしない。それに、笑顔が輝いているとは、こういう時に使うのだろう。皆、嬉しそうに木の器に入った酒と思われる、赤い液体を一気に飲み干していっている。


「凄く、盛り上がってるな......」

「あ、ああ、そうだな」


 偏見だが、森人族エルフは物静かで理知的なイメージがあった。でもここまで騒がれると、そのイメージを変えなければいけない。


 そんなことを思っていると、エプロンをつけた白いウサ耳を持つ、ラミアと会った。


「ハヤトさん、遅いですよ! 皆もう飲み始めています!」

「わ、悪い......?」

「はあ、まあいいです。奥の方に席があるので、そちらに座ってください。私は、もうちょっと手伝っていきます。アリシアさんとヴェルクロムさんも居るので、先にお料理を食べててください」

「判った。それじゃあな」


 ラミアと別れ、隼人は指定された席に向かう。そこには、アリシアやヴェルクロム、エルフィンドが居た。


「あ、遅いぞ、ハヤト。皆、主役より早く食べ始めてる。いいのか?」

「あ、ああ。それは、別にいいよ。主役なんて飾りだろ? その証拠に、ヴェルだって食べ始めてるし」

「う......」

「私は止めたわよ」

「僕も止めました」


 ヴェルクロムは、ばつが悪そうに顔を俯け気味に食事をしている。それもそうだ。自分のことを、棚に上げて言ったのだから。自業自得という奴だ。その後、隼人も料理を頼み、お祭りなのだから美味しく頂こうと思った。


 ここは幾つもの屋台が並んでおり、その屋台に行って、料理を買って、自分の席で食べる。それが、今回のお祭りのルールらしい。酒も大量用意されており、酒ダルが五十個近く用意されているのを、昼間見た気がする。何時ものお祭りならお酒は出ないらしいが、今回は"定住祭"も並行して行っているので、秘蔵酒を一斉解放するらしい。所々を動き回っている女性たちに料理を頼むと、その料理を届けてくれるらしい。全部アリシアの受け売りだ。


「それにしても、ほんと賑やかだよな」

「まあでも、一年に一回のお祭りですからね。騒ぎたがる気持ちも、判らなくはないです」

「騒ぎすぎも、よくないけれどね」

「アハハ......」


 俺の言葉にエルフィンドが、エルフィンドの言葉にアリシアが、アリシアの言葉にまたエルフィンドが反応し、会話の輪が広がっていく。


「そういえば。ハヤト、お父様とお祖父様が、何時でもいいから屋敷に来てほしい、って言ってたわ。案内しろと言われているから、後で案内するわ」

「そうか。じゃあ、行くときに声を掛けるよ」

「そう、判ったわ」


 そういい、アリシアは目の前にある小さなおぼんの上に乗っている、木で出来たコップを片手に持ち、その中に入ってる飲み物を飲んでいく。その後、隼人が頼んでいた料理が届いたので、隼人はそれを口に含んでいった。


~~~~~~~~~~


 あれから一時間経った。そろそろ腹も膨れてきたので、歩きがてら族長の呼び出しに応じようと思った。


「アリシア、案内してくれ」

「......判ったわ」


 アリシアは、木のコップに入った飲み物を飲み干し、その場で立つ。そして大広間を出て、住居区に向かう。


「なあ、アリシア」

「何?」

「用って何か、聞いてないか?」

「さあ? ただ、『ハヤト君を案内してくれ』と頼まれたのよ」

「そうか......何の用なんだ......?」


 何の用かは判らない。まあ、行けば判るのだろうが。用件が判らないのはもどかしい。


 そうこうしている内に、住居区に着いた。やはり暗く、人の気配すらしない。だが、その暗闇の中に一点の光があった。大きな屋敷に灯りがついているのだ。よく見れば、三日間隼人が眠っていた屋敷だ。一軒しか灯りがついていないのなら、案内など要らなかったのでは? と思ったが、それは案内を命じた本人にしか判らない。幾ら考察しても詮無きことだ。


「行くわよ、ハヤト」

「あ、ああ」


 まあ、話を聞けば判るのだから、今は先を急ごう。


「お父様、お祖父様、ハヤトを連れてきました」

「有り難う、アリシア」

「ご苦労じゃったな」


 屋敷の中のとある部屋に入ると、三人の森人族(エルフ)が目に入る。一人は、無表情のまま佇んでいる妙齢の女性。二人目は、微笑んでいる年齢不詳の男性。多分、アリシアのお父さんだろう。三人目は、奥にある椅子に座っている、白い髪が若干混じった翡翠の髪を持つ老齢の男性。こちらも多分だが、アリシアのお祖父さんだろう。


「いえ、そこまでのことじゃないので。では、私はここで」

「いや、アリシアも残ってくれ」

「? 何故ですか、お父様?」

「これから話す内容と、関係があるんじゃよ」

「あの、今さらなんですけど、俺に関係があるんですか? 心当たりが無いんですけど」


 率直に聞く。何故呼ばれたかを。心当たりが無いのだから、聞かなければ。


「ウム。それは、今から話す。そこに座れ」

「あ、はい」


 着席を促されたので、近くの椅子に座る。なんの話しが始まるのやら......


 そう思っていたとき、微笑んでいる年齢不詳の男性が、口を開く。


「まずは、自己紹介をしておいた方がいいね。僕は、フォード・フォン・ハイアールヴ。アリシアの父だ。よろしくね、ハヤト君」

「あっ、はい、よろしく? お願いします......」

「そして、こっちが族長の......」

「アドルフ・フォン・ハイアールヴじゃ。よろしくな」

「どうも......」

「さて、じゃあ話させてもらおう。今回、君を呼んだ理由は、主に三つある。先に何を話すかを言うとだね、一つ目はお礼、二つ目は質問、三つ目は伝承を。この三つを話させてもらいたい」

「はぁ......」


 まあ、それぐらいなら。と言うか、質問ってなんだ? ま、いいか。


「さて、まずはお礼だね。改まるようだけど、この度は本当に有り難う。そして、すまなかった。君一人に任せっきりになってしまって。我々の中の戦える者たちはみな、あの魔力にやられてしまってね。言い訳がましいかもしれないが、重症者になると身動き一つ取れなくなってしまう。軽症者でも動くのが辛いぐらいだ。だからこそ、何も出来なかった。それに聞けば帝国から来たそうじゃないか。遠い所から本当にすまなかった」


 隼人に対してフォードは頭を下げる。こんなに易々と頭を下げても、いいものなのだろうか? と思ったが、隼人は自分が"いい"と言わない限り頭を上げなさそうとも思ったので、フォードに対して言葉を掛ける。


「い、いいです。こんなことを言うのはあれですけど、結局のところ寄り道しただけなので。お礼ならエルフィンドに言ってください。エルフィンドが居なければ、今回の事件に関わることはなかったから」

「確かにそうだ。だけどね、ハヤト君。それでも助けてくれたことに変わりはないんだ。本当にありがとう」

「......いえ、こちらこそ。おいしい夕食をありがとうございました」


 ハヤトも、夕食の礼を言う。そこに、アドルフが口を開く。


「礼ばっかりしていては話しが進まん。そろそろ話しを進めるぞ」

「そうですね。では話しを進めさせてもらおう。ハヤト君、唐突だが君は、この世界の住民(・・・・・・・)では無いね?」

「っ!」


 なぜそれを!? あり得ない、シュラたちにすら言っていないことなのに......


「お父様、お祖父様、それは一体どういうことです? ハヤトがこの世界の人間ではない? あり得ない。あり得るはずがない。第一、どうやってこの世界に来たって言うんです?」

「......過去に三度、前例があるんだよアリシア。異世界からの来訪者、救世の英雄がね」


 っ! 過去に三回もそんなことがあったのか......


「その三人は皆、口を揃えてこう言う。まるで口裏を合わせているかのように。『気づいたらこっちの世界に来ていた』ってね」

「そんなことが......」


 冷静なアリシアも、今回ばかりは驚いている。


「で、でも、ハヤトがその三人と当てはまるとは......」

「そうだね。では三つ目、伝承のことについて話そうか。この話しを聞けば、少しは信用し理解してくれるだろう」

「伝、承?」

「そう、森人族(エルフ)に伝わる伝承。我々も詳しくは知らないが、この伝承に出てくる主人公とハヤト君はよく似ている。似すぎているくらいだ」


 伝承。そういえば王国に居たとき、レンジさんから各地には伝承が残っている、と聞いたことがある。その時は然程、というか全く興味が無かったから気にしていなかったが、今ここに来てとてつもないほどに興味を持った。そりゃぁ、自分と似ている異世界人が伝承に出てくる、などと言われたら気になるのは当然のことだろう。


「伝承、かぁ......」

「ああ。だが、あくまでも伝承。それが本当の事だったのかは、今や誰も知り得ないことだ」

「その伝承のこと。詳しく教えてくれないか?」

「判っているとも。そう焦らないでくれ。......では、話そうか。今から千年近く前にできた伝承だ。その伝承の主人公はーー」


 伝承の事を早く知りたいと急かす隼人を宥め、フォードは口を開く。


「ーー名を″剣聖″。黄金に輝く剣を携えた、英雄だ」



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