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翼が折れても千切れても

2013年03月08日の作品です。

 僕に翼が生えたのは就職して三年目の頃だった。

 就活に困ることなく専門学校の教師の推薦にて就職した僕は、他の同期職員から《一番初めに辞める奴》として賭けの対象とされていた。

 しかし本質は違い、僕は三年を経過した頃、翼を手に入れた。翼は到達目標を示し、到達目標に向けて懸命に羽ばたきを続けていた。そう、あの日迄は。

 一つ目の職場から二つ目の職場に変わり六年が経過した。

 転職した際、初めから役職を担う事となった。しかし、そんな小さな役職など僕の到達目標ではなかった。だからこそ、周りの職員に、上司に認められるよう頑張り続けた。残業など気にもしなかった。他人の嫌がる仕事も自らすすんでやった。

 けれども世間は冷たく、上司の評価は冷淡なものだった。転職して三年目、直属の上司が退職することになった。

 僕は密かに昇進出来る可能性があると思い込み浮き足立った。しかし、僕の直属の部下が僕の直属の上司へと昇進した。

 残念ではあったが、仕方がないと諦め、更に頑張りを増した。

 転職後六年目。僕の同期が昇進し、僕の直属の上司へとなった。僕の立場は変わることはなく、僕は今までの羽ばたきが無駄であった事を実感した。


《与えられし翼はただあるだけでない

 そこにあると同時に羽ばたく事を課せられる

 羽ばたく事に疲れはて

 翼を恨んで食い千切る

 背中が真紅に染まっても》


 多量の薬とアルコール併用の自殺は未遂というかたちで幕を閉じた。

 未遂で終わっても、頭の中にあるのは絶望感だけだった。あらゆる手段で、未遂にならない自殺方法を探した。

 その頃の僕には他人に見えないものが見え、他人に聞こえない声が聞こえていた。

『死ねるなら』

 手段を選ばない状態でなかったのが、ある意味、生への執着であったのかもしれない。

 そして少し精神状態が落ち着いた頃、僕は三つ目の職場に就職した。

 そしてまた、無くした筈の翼が背中で大きく羽ばたき始めた。

 翼の羽ばたきは休む事を知らず、気が付けば、僕は昇進する事になった。

【誰にも内緒】

 言われた命令に従えず、昇進遅延。更に、昇進後も部下の扱いに四苦八苦し、すぐに降格となった。

 その後発症した精神疾患の為、しばらく休職し復職。

「君と仕事をするとしんどいらしいんだ」

 復職後、施設長から浴びせかけられた罵声。これは自主退職させる為の言葉はだった。


《一度破れた翼

 二度と羽ばたかないと思っていた

 再び羽ばたいた翼は

 大空を高く高く昇るだけ

 高く昇れば昇るほど

 落下の痛みは激しさ増して

 二度と羽ばたくものかと心に誓う》


 翼を小さくたたんだまま、僕は仕事もせず、ただただ精神疾患の療養に取り組んだ。

 規則正しい生活。生活の中での役割分担。己で出来ることはなるべく行い、妻の愚痴を傾聴し、共感し、妻の精神的疲労を緩和しようとした。

 そんな折りに飛び込んだ朗報。府営住宅の当選通知。

 僕も妻も喜んだ。そして、日中の役割を果たしながら引っ越し準備を着々とすすめ、夜中に少しずつ荷物を運び込んだ。

 新たな生活は新鮮であったが、仕事をせず、ただ惰眠を貪っているかのような僕の姿は、妻にとってかなりの負担になっていたのだろう。

 そして、ある日の夜、妻は家を飛び出した。


《翼の有無は関係なく

 翼が有ろうが無かろうが

 己という存在自体が悪

 存在自体を否定して

 存在自体を消去する

 翼を千切る気力もないまま》


 多量の睡眠導入剤と消炎鎮痛剤を服用しての切腹。これまた未遂に終わり、僕は入院を決意した。

 退院後、何度か家族と接触を図り、職を見付けて一ヶ月後再度同居する事となった。

 仕事も順調にこなし、家族との絆もそれなりに深まってきた時、悲劇は起こる。

 昇進・昇格という吉報のような凶事。入社して一年という時に一ヶ月毎の昇進・昇格。しかも三月連続。 昇格の試用期間と言われている期間内に更なる昇格が重なり、僕の心は徐々に弱っていった。

「給与の額と責任は比例しないと認識してね」

 職場内最高責任者の言葉。僕は、閉じていた翼を大きく広げ、無責任な目で見る上司達を見下ろしてやろうと力一杯羽ばたいた。

 高く、もっと高く。仕事の基本さえ伝授してもらえば、後は自分の行い易い方法に変えていける。そんな思いも虚しく、上司は殆んど引き継ぎ業務をさせてくれなかった。

 そして迎えた独り立ち。翼は羽ばたくだけで、舞い上がりもせず、地に降り立った。

 しかし、翼は無くとも足がある。だから走った。ひたすら走った。そして到達目標も蜃気楼に包まれたまま、その場にへたりこんだ。

 家族に会うと同時に、膝に力が入らず、崩れるようにして泣いた。


《翼を持つ者は

 翼を広げて羽ばたけと

 翼がある者は

 翼で高く舞い上がれと

 何も知らない愚者共は

 わかったような顔をして

 翼も足も千切れるまで

 ただただ道具に変える

 翼を持った人間は

 広く高く舞い上がり

 堕ちて潰れて朽ちてるか

 優雅に空を舞い踊るか

 私は砕けた愚者になる》


 今度は二度と羽ばたかずに、翼を広げる事もなく、地道にただただ細々と、仕事が出来ればいいなぁ……。と思いながら、仕事の事を考えると、不安で頭が狂うのです。


《翼が欲しいと願った日々は

 きっと悪夢の始まりだった

 翼が無くても悪夢はあった?

 千切れた羽は戻らない》








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