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聖女はレティ成分でできている 〜世界より推しが優先です〜  作者: 浦賀やまみち
第四章 嵐を呼ぶ聖女

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第25話 内緒の共犯者たち




「むむっ……。」



 朝の空気はひんやりとしていて、深く息を吸うと胸の奥まで澄んでいく。

 見上げた空は高く、薄く広がる雲がゆっくりと流れていた。


 教会の鐘つき堂。

 その柱の陰に身を潜め、私は双眼鏡を覗いていた。


 ここは、私だけが知る特等席なのだ。


 女子寮の中庭には大きな広葉樹が植えられている。

 その枝葉が目隠しとなり、各部屋の様子は外から窺えない。


 だが、ここだけは違う。


 角度といい、高さといい、すべてが噛み合っている。

 レティの部屋が、唯一この場所からだけ見える。


 まさに、神が私のために用意してくださった聖域である。


 ドレッサーの前に座るレティは、今朝も可愛くてたまらない。

 聖女として見過ごせないほどだった。



「あのメガネぇ~……。誰の許しを得てぇ~……。」



 しかし、その可愛らしさを引き出しているのが、あのメガネなのがむかつく。

 レティの背後に立ち、髪を結んでいる。


 私ですら、そんなことはしたことがないのに。



「ああっ!? リップ、塗ってる!

 レティ、駄目だよ! そのメガネに気を許しちゃ!」



 この一週間、私はレティの身を案じ、ノエルにメガネを見張ってもらった。

 ちょっとでも落ち度を見つけたら、レティに言いつけて、女子寮から追い出すつもりだった。


 だが、あのメガネは掃除も洗濯もできる。

 学食があるので不要だが、たぶん料理もできるのだろう。


 あのメガネが淹れたお茶を飲むとき、レティの表情はとても穏やかだ。

 それまで一口目に必ずあった眉間の力みも、見られない。



「……なんで、あのメガネばっかり。

 許せない、許せない……。呪ってやるぅ~……。」



 無手の護身術に長けていることも、身をもって知っている。

 悔しいけれど、パーフェクトだ。



「えっ!?」



 ふと目が合った。

 レティのベッドに腰掛け、足をぶらぶらさせている猫族のちびっこと。


 思わず双眼鏡を下ろした。


 あり得ない。

 こことレティの部屋は、かなり離れている。


 ただの偶然だろうと、再び双眼鏡を覗いた、次の瞬間。



「なっ!?」



 強烈な光が目を焼いた。


 その直前に見えたのは、こっちを指さしながら笑うちびっこ。

 そして、手鏡をこちらに向けるメガネだった。



「目がっ!? 目があああああっ!?」



 絶対に許さない。

 隙を見て、メガネの食事に下剤を入れてやる。




 ******




「いつも、この時間は……。」



 今日のお昼は、カツ丼だった。


 ファンタジー世界で、カツ丼は世界観を壊す。

 そう思うだろうが、ここは乙女ゲームのファンタジー世界だ。


 ゲームを作った人が料理に詳しくなかったのかもしれない。

 お蕎麦、うな重、お寿司と、普通に和食がある。


 アルビオン帝国料理として。


 私は、カツ丼を頬張りながら名案をひらめいた。


 善は急げ。

 早速、中庭へとやってきた。



「あっ……。いた、いた」



 お目当てのちびっこを見つけた。

 名前はたしか、ナナ。


 セドリックと戯れていた。



「ほーれ、ほーれ……。」

「ニャ、ニャっ!?」



 釣り竿の先にぶら下げられたネズミのおもちゃを取ろうと、ナナがぴょんぴょん跳ねている。


 思わず頬が緩むほど可愛い。

 だけど、セドリックは何をやっているのか。



「はっはっはっ! ねだるな! 勝ち取れ!」

「ニャーっ!?」



 もっともらしいことを言っているが、ただのサボりだ。

 昨日、アルベルトに押し付けられた大量の書類はどうした。


 私は、内心の白けを押し殺し、笑顔を貼り付けて話しかける。



「ナぁ~ナちゃん、そんな暇人は放って、お姉さんとお話しない?」

「ニャ?」

「いやいや、暇じゃないからね?

 アリさんの大行進を見守る大切な研究をやってたんだからね?」



 セドリックは、もう無視でいい。

 スカートのポケットから、購買で買ってきた秘密兵器を取り出す。



「これ、なぁ~んだ?」

「ニャッ!? マタタビンDXニャ!」

「うわっ……。あからさまなワイロだよ……。」



 たちまちナナは目を輝かした。

 尻尾がぶんぶんと揺れる。



「で、でも、ニャーはまだ子どもだから……。

 マリア姉が、一日一本だけって言ってたニャ……。」



 しかし、あのメガネの影が、ナナの理性をかろうじて呼び戻す。

 唇を尖らせながら、しょんぼりと項垂れた。


 それでも、視線はすでに茶色の小瓶に釘付けだ。



「じゃあ、黙っててあげる。内緒、内緒」

「……止めたほうがいいぞ。絶対」



 私は一瞬だけ微笑んでから、唇に人差し指を当てた。

 ぱちり、とウインクする。


 ナナは瞬きしたのち、ぱっと満面の笑顔を浮かべた。



「内緒! 内緒ニャ!」

「うん、あっちで内緒のお話しよ?」

「するニャ!」

「間違いなく、ろくでもないことだよ。俺、詳しいんだ」



 計画通り。

 これで、今夜はレティ成分採取のミッションは完遂したも同然だ。


 私はにやりと笑い、ナナの手を引いて歩き出した。




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