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265  作者: Nora_
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07

「駄目だ、二人とも反応してくれないよ」

「もう十七時になるね、こうなったら二人で行く?」


 会場に行くのは早めの方がいい。

 多分、他のところに比べたら小規模ではあるものの、それでも賑わうから。

 歩くのも結構大変だから早めに食べ物を確保して座れるところで待つぐらいにしておかないと疲れるだけで終わってしまう。


「私達にとってはそれが普通だけど……いいの?」

「佑未と行けるだけで十分だよ」

「じゃあ……このまま待っていても意味はなさそうだし……」


 僕らはあくまで普段着で会場まで歩いていた。

 途中、何回か佑未は足を止めてはスマホを確認し、それからすぐに「はぁ……」とため息をついていた。

 まあ、なにか危ないことに巻き込まれているとかでもなければいい。


「わっ」

「危ないよ、それ以上は会場に着くまでやめておいた方がいい」

「うん……」


 僕らが友達のままでいられたら来年なんかもチャンスはある。

 無理やり来られるよりはいい結果と言えるだろう。


「あ、妹さんからだ」


 確かめてみると『助けて』とだけ書かれたメールが。

 佑未に見せてみると「これ、やばくない……?」と言って不安そうな顔をしていた。

 ただ、動き出すためにはもう少し詳しい情報があってくれないと困るところで。


「あっ、梅から! ――もしもし!?」


 電波が悪い場所ではないから違和感がある。


「え? あ、ちょ、ちょっと待って――すぅ……ふぅ、よし、もう一回言って?」


 僕らを驚かせたいといったそういう作戦からならいいな。

 そうすれば誰も傷つかない、なんだよもーと笑えるぐらい。


「お兄ちゃん、なんか木にはまっちゃったみたい」

「木にはまる……?」

「丸く切り抜かれた円に体を突っ込んだら妹が抜けなくなっちゃったみたい」


 梅さんの家でそうなっているみたいだから二人で行ってみると……。


「はまった」

「あ、ああ……」


 なかなかシュールな光景に。

 土下座をしている梅さんはなにも言わない。


「のこぎりがあるからゆっくり切ってなんとかしようか」

「それしかないよね」


 木ではあるけど板と言う方が正しいか。

 腕まではそこまで距離がないからギコギコとゆっくり切っていたら片側は成功、もう片側も同じように続けたら上下で別れて彼女は自由な身になった。


「ありがと。梅に何回も『横から切ってほしい』と言っていたのに聞いてもらえなかった」

「下手したら傷つけていたかもしれないからね」

「でも、あのまま放置されることの方が危険な気がする」


 確かにそれはそう、圧迫されている部分になにか問題が起きてもおかしくはない。


「えっと……?」

「あ、梅が木を持ってきて急に上から被せてきた結果」


 細いからいけると思ってしまったのだろう。

 が、残念ながら結果はこれで、のこぎりで切ることも怖くて土下座をするしかなかったと。


「つまり梅が悪いんだね」

「でも、さっきメールを送れたのは梅がスマホを持ってきてくれたから」

「あの状態でメールを打つなんて器用だね」

「文字入力は得意で見ないで打つことができる。メールソフトの場所も一定だし、送信ボタンも同じ場所にあるから大丈夫だった」


 なんかもうお祭りとかどうでもよくなってしまうな……。

 とりあえずは未だに土下座を続けている梅さんを佑未になんとかしてもらうことにした。


「怪我はない?」

「大丈夫――あ、ここが切れていた」

「絆創膏なら持っているからまずは洗おう」


 なにかが起きてからでは遅いけどなにかが起きたときのために絆創膏なんかはずっと持っている、それが役に立つときがきたみたいだ。


「これでよしっと」

「ありがと」

「どういたしまして」


 それでも彼女達が行きたいなら年上として付いて行くだけだ。


「ご、ごめんね妹……」

「こうして自由になれたから気にしなくていい。それよりお祭り」

「そ、そうだね」

「ほら、二人とも行く準備をして。私達なんてあともう少しで会場に着く、というところまで行っていたんだからね? これはもう奢ってもらわないと満足できないよ」


 そういう約束だったのだからこうなるのも当然だ。


「それなら私がっ……迷惑をかけちゃったし」

「はは、冗談だよ。ほら、本当に早く行こ?」

「うんっ」

「行く」


 今更だけど作戦ではなかったな。

 やっぱりふざけるとよくないということが分かった。

 友達といるとついつい普段はしないこともしてしまうことがあるからしっかり見ておかないと。


「あっ、ちょ、ちょっと行ってきてもいい?」

「うん」

「それじゃあ行ってきます」


 ああ、件の女の子か。

 少し離れていても真面目そうな感じが伝わってくる。


「佑未さん楽しそう」

「なんだいなんだい、私達以外とあんなに楽しそうにしていてさ」

「気になる?」

「佑未は私達とだけ仲良くしておけばいいんだよ」


 梅さんには悪いけど彼女達とだけ仲良くしておけばいいとは思えないな。

 違う友達もいてそのうえで彼女達と楽しそうにしてくれているのがやっぱり一番だ。


「ただいまー」

「ぶぅ、佑未にとってあの子はなんなの?」

「え、絶対に一緒にいたい子かな」

「ぐはあ!?」


 絶対、とまで言わせてしまうなんてすごい子だった。


「佑未さん、佑先輩、面倒くさい梅は放っておいてお祭り」

「「はは、行こうか」」

「ちょっ、なんだよそれもー!」


 会場では怪しまれない距離感で歩いていた。

 梅さんがあれもこれもそれも欲しいと全開だったため、協力して並ぶことに。


「ま、私達も食べたかったからいいんだけどさ」

「佑未は休んでいてもいいよ、ちゃんと買ってくるから食べられるよ」

「や、お兄ちゃんばかりが頑張ろうとするのは違うでしょ。だからいいんだよ、みんなで並べば効率的だよ」


 舐めているわけではないけど妹さんは小さいからなるべく一人にしたくない。

 いまは梅さんと並んでいる、だけど早く順番がきてほしい。


「なんか妹のことを気にしていたりする?」

「一人にしたくないんだよ」

「あー確かにね。それならお兄ちゃんが一緒に並べばよかったのに」

「梅さんもそうだし、佑未だって同じだよ」


 あとはこうして会場に来てしまえば結局は食べたくなるというのが大きいかな、と。


「買えたね」

「うん、二人のところに行こう」


 梅さんや妹さんの分、そして自分達の分と両親の分もあるからいまのだけで大量にお金が消えていった。


「はい、梅と妹の分ね」

「ふふふ、ご苦労――す、すみませんでした、ありがとうございます」


 このやり方もこれはこれで悪くはない。

 問題にならない場所に座ってみんなが歩いているところを見ながら一気に食べられるのはいいだろう。


「佑未さん達の分も」

「ありがとう妹」

「ありがとう」


 でも、いざ実際に食べられる状態になると止まってしまった。

 今日の僕はおかしい、ある意味お祭りの特殊な雰囲気にやられている。


「もぐもぐもぐ」

「ちょ、いっぱい頬張りすぎ、少しずつ食べなよ」

「むしゃむしゃむしゃ」

「梅も? はぁ……まだあるんだからさ」


 帰ったら両親と食べるか。

 女の子をじろじろ見る趣味はないから結局、暗く染まった空を見ていた。

 いや、人を見ておくはずだったけど意外と近くて目と目が合いそうになったからそうするしかなかったのだ。


「どうしたの?」


 急に袖を引っ張られて意識を向けると妹さんだった。


「食べていなかったから」

「ああ、なんか急に食べたい気分にならなくなってね」

「あーんってすれば食べたくなる?」

「いや、帰ってから食べるよ。空気を読めていなくてごめんね」


 一度自分の中で切り替わってしまったからか。

 あくまでいまは保護者みたいなつもりで来ているから一緒に盛り上がれないと。


「お祭りが終わったら佑先輩のお家に行く」

「分かった」

「そこで一緒に食べるためにいまは我慢しておく」

「え、それは……」

「佑先輩と一緒に食べたらより美味しく感じるはず」


 あ、まあ、まだまだあるから一部だけ残しておく感じか。

 逃げないからいまは食べたい分だけ梅さん達と食べるといいよと言っておいた。


「それに僕だけ明後日から一緒にいられないから……」

「うん」


 珍しく悲しそうな顔でそんなことを言われてしまったらもうなにも言えない。

 彼女も動こうとしない、だからそのまま僕と同じように座っているだけだった。


「はっ!? い、いま固まっちゃっていたよ」

「私も……これって空気を読んだ方がいいのかな」

「私もそう思ったから食べない大原先輩にちょっかいをかけたりはしなかったけど」

「「うーん」」


 いや、この空気はここで終わりだ。


「やっぱり一つだけ食べようかな、せっかく妹さんや梅さんが並んで買ってきてくれた物だからね」


 しっかりお腹が満たされるエネルギーが高い物は彼女達が担当していた。

 一応言っておくと無理やり頼んだわけではなくて彼女達が率先して受け入れてくれただけだ。


「だから妹さんも食べよう」

「ん」


 僕の脳なんてちょろいから少し食べてしまえば完食まではあっという間だった。

 自分の無駄な拘りのせいで悪い空気にしてしまうところだった。


「んー」

「あれそれ微妙だった? 私が食べたときは普通に美味しかったけど」

「これだとたとえ佑先輩がいなくても美味しいと思う」

「はははっ、そりゃそうだよっ。お兄ちゃんに美味しさを変える能力なんかないんだからね」


 はは、佑未の言う通りだ、美味しい物は一人で食べようが美味しい。

 よりいい時間になるように誰かと一緒に食べたいのであって味は変わらない。


「あ――言っておいておかしいけどお兄ちゃんには美味しさを変える能力があったよ」

「大原先輩はご飯を作ってくれるもんね。ああ、この前の野菜炒めは本当に美味しかったなあ。いつもなら『えー野菜……?』となっているところなのにバクバク食べちゃったもん」

「豚汁も美味しかった」


 昔からやっていたことでこうしていい笑みを浮かべてもらえるのは嬉しいな。

 とはいえ、段々と恥ずかしくなって痒くなってきたのでやめさせておいた。

 梅さんはニヤニヤしていたものの、「ありがとね」と言ってくれたのが救いだった。




「今日は流石に早めに来た」

「ようこそ」


 最初から来ることが分かっていたらなにも怖くはない。


「危なかった、下手をしたら全部食べていた」

「はは、一つだけ残ったね」

「外で食べたいかも」

「それなら飲み物を持って出ようか」


 僕の分はまだ複数あるから足りないようならそれをあげたらいい。

 今日はなんかテンションが上がったままで炭酸ジュースを持ってきた。

 それぞれのグラスに注いで手渡し、少し飲むとまだ買ったばかりだからか強い炭酸が喉を苛めた。


「本当のところを言うと行きたくない」

「実際、一人で残ることは可能なの?」

「駄目って言われた」

「そっか、それなら我慢をするしかないね」


 三日ほどここから離れなければならないみたいだ。

 仲良くなったことで気に入っている佑未と、ずっと一緒にいることが当たり前だった梅さんが耐えられるのかどうか。

 僕もこの夏は一緒にいることが当たり前かのような感じになっていたから影響を受けるかもしれない。


「なら帰ってきたら佑先輩に頭を撫でてもらう」

「いまではなくていいの?」

「してくれる?」


 それを本当に求めているのなら。


「あ、佑先輩のことだから梅に求められてもするはず」

「あー求められたら、うん」

「差はない?」

「作っているつもりはないかな」

「佑先輩は嘘つき、梅ばかりを優先していた」


 違うよ……とも言いづらいのがなんとも。


「そんなに梅が気になるならいまから行けばいい」

「それは梅さんがよく来てくれるからであって……」

「それなら僕が同じようにしていたら梅みたいになっていた?」

「た、多分」


 いまは怖くて顔が見られない。

 目の前が眩しくない暗闇でよかった、これで目の負担も減る。


「ここで一旦片方が離脱なんてもう片方が選ばれるフラグ」


 なにがあるかは分からないからここで違うとは言えない。

 暗闇パワーに頼っていると優しい力ではあったものの、腕を叩かれた。

 そのまま腕に顔を押し付けるようにしてなにも言わなくなってしまったから今回も待つしかない。


「このままずっと帰らない、このままくっついたまま」

「それならせめて部屋に移動しない?」

「嫌だ」


 ただのくっつき虫なら払えばいいけど彼女が同じようにしているとそれはできない。

 動けもしない、進められもしない、暗闇パワーに頼るのも限界がある。


「そこまで時間も経っていないけどあのときみたいに大人の対応はできそうにない」


 そ、そこまでなのか。

 あれからまだ二週間も経過していないのに変わってしまったと。

 学校があるとき以上に一緒にいたからだろうか。


「ん、佑先輩が好き」

「そ、そう」

「僕が帰ってきたら返事を聞かせて」


 って、ここで戻るのか!?


「はぁ……」


 これを言うまでは戻れなかったというだけのことか。

 嘘をつかれたわけではないけど今回も妹さんの作戦にまんまとはまってしまったことになる。

 

「お、お兄ちゃん」

「あれっ? なんでそっちから……」


 どこかに行っていたとしたら危ないし、これも作戦の内ならよりやられた感が強くなっていく。


「えっと、妹に外で聞いていてほしいって頼まれてね……」

「そ、そうなんだ。もしかして梅さんも?」

「ううん、梅はもう寝ているんだ。だから多分、梅が起きていたら梅に頼んでいたと思うよ」


 それなら……まだマシか。


「お兄ちゃんどうするの?」

「三日使って考えてみるよ」

「そっか」


 でも、いまから時間を使って考えようとしている時点で僕の中には……。

 どうなっても、どちらにしても馬鹿正直に帰ってきた妹さんに答えるしかなかった。

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