表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
265  作者: Nora_
1/8

01

 なんか急に花に水をあげたくなってそれのために歩いていた。

 口をつけていないボトルの中にまだ沢山の水があってよかったと思う。

 でも、五百ミリリットルの水なんてポイポイぶっかけていたら結構早い段階で終わってしまうもので。


「終わってしまった」


 それとどこにでも花が咲いているわけではないから探すために歩いて自宅から離れてしまった。


「ねえねえ」


 あれ、怪しいことこのうえないけど結構色々なところを見ながら歩いていたのに目の前の子の存在にいままで気づくことができなかったことが気になる。


「さっきから見ていたんだけどなんでお花にお水をあげているの?」

「そうしたくなったからなんだ」

「そうなんだ。突然、なにかしたくなることはあるけど実際に行動に移したことはないから君が面白かったよ」


 急に出てきたそれで誰かを楽しませられたのなら悪くはないのではないだろうか。


「私と君は同じ学校の生徒なの」

「同じ制服を着ているからそうだろうね」


 とはいえ、お姉ちゃんの服を着て歩いているだけという可能性もあるか。

 ちゃんと奇麗に取ってある人ならそのまま使うことも可能だろう。

 というか、結構高価な制服をいい加減に扱うことはないだろうからそのことで心配する必要もない。


「実はね、私のお友達があなたに興味を持っているんだ。だから今日すぐじゃなくていいけど会ってあげてほしいの」

「それなら明日、二年二組まで来てくれればいいよ。あ、僕は大原佑おおはらゆう、よろしくね」

「分かった、それじゃあまた明日ね」


 まあ、僕に興味を持っているわけではないから彼女が自己紹介する必要はないか。

 これより先に行っても疲れるだけで悪いことしかないから家に帰ることにした。


「ただいま」

「おかえり」


 この子は妹の佑未ゆみだ。

 昔は母の真似をして髪を伸ばしていたうえにとても奇麗にしていたのにいつからかいい加減になってしまった。

 依然として髪は長いものの、ボサボサでもったいない気がする。

 

「アイスばっかり食べたらいけないよ、虫歯になってしまうよ」

「ちゃんと歯を磨いておけば大丈夫だよ。それよりお兄ちゃんは早くご飯を作ってよ」

「ごめんごめん、いまから作るよ」


 なのに家族に対する態度は昔のいい子のままだから何故だろうかと考えるときはあった。


「部活動もやっていないお兄ちゃんはなにをしていたわけ?」

「花に水をあげていたんだ」

「は? どこの?」

「見つけたらって感じかな」

「不審者じゃん……」


 流石にそれだけで通報される世の中ではないはずだ。


「逆に佑未は早かったね、いつもなら十九時ぐらいに帰ってくるのに」

「友達を切ったから」

「え」

「もう超面倒くさくてこれならあの子とだけいればいいと思ってね」


 教えてもらえたわけではないけどあの子、とは女の子のことらしい。

 面倒くさくて友達を切ってしまうぐらいの子が気に入っている女の子とはどういう子なのだろうか。

 お世話になっているのなら兄としてお礼を言いたいところだ。


「会いたいとか言っても会わせてあげないから」


 バレバレのようだ。

 トントントンとリズムよく食材を切っていると珍しくこっちに来てじっと見てきている佑未が。


「私も作れるようになりたいかな」

「急にどうして?」

「学校でお兄ちゃんが作ってくれたお弁当を食べるの恥ずかしいから」


 ガーン……。

 はぁ、そうだよな、これぐらいの年齢になると色々気にしだすよね。


「当然のように頼んでおいてあれだけどそもそもなんでお兄ちゃんがご飯を作っているの?」


 それは母の調理に関する能力がとても残念……と言うよりもすぐに余計なことをしてしまうからだ。

 我流で「こっちの方がいいでしょ」とかでせっかく教えてくれているレシピから変えていってしまう。

 その結果、不味い料理が出来上がっても自分は食べずにこちらに「食べな」と言ってくるぐらいだから大変な人なのだ。

 だったら全て自分でやってしまった方が楽だった。


「こんなことあんまり言いたくないけどお母さんが作ってくれたお弁当と、僕が作ったお弁当ならどっちがいい?」

「すみませんでした、お兄ちゃんが作ってくれたお弁当の方がいいです」


 ちなみに、父は味覚音痴でそれをバクバク食べられてしまう人だ。

 完全に善意でそのまま「お前達も食べた方がいいぞ!」と勧めてくるものだから断りきれずに……。


「でも、今日がおかしかっただけでいつもこっちばかりを優先しているでしょ? ちゃんと高校生活を楽しめているの?」

「うん、大丈夫だよ」

「それならいいけど」


 発狂ゲージが溜まって奇行に走ったとかではないのだ。

 それに先程みたいに自分のしたいことをできているのだから全く問題はない。


「入学した頃はバタバタしていたからいく余裕がなかったけど少し慣れたから明日からお兄ちゃんのところにいくよ」

「大歓迎だけど無理はしないでね」

「や、お兄ちゃんのところにいくだけで無理をするってどういうこと?」


 家族だからと優先する必要はないということだ。

 それこそ入学したばかりでまだまだこれからだから佑未には高校生活を楽しんでほしかった。




「お、お兄ちゃん」

「やあ」


 明日、と指定しただけで何時にとは指定していないから仕方がないか。

 ただ、もうお昼休みになっていて、ここから先は放課後ぐらいしか時間がないからここで済ませておいた方がいい気がするけど。


「一応聞いておくけど昨日のあの子が佑未ってわけではないよね?」

「は? なに急に変なことを言い出して」

「歩いていたときに話しかけられたんだ。それで僕に興味がある子がいるみたいでね、会ってあげてほしいと言われたんだ。僕はそれに対して明日、つまり今日に教室まで来てくれればいいよって返したんだよ」

「同級生?」

「ううん、あれは佑未と同じで一年生の女の子だったかな」


 そこまで自由に髪型を選べるわけではないから無難? なポニーテールだった。

 肩とかまではなかったから下ろしたら全く気が付けない! なんてこともない。


「それなら行ってあげないと駄目でしょ。昨日はあんなことを言ったけど年上ばかりの教室にいくってかなり勇気がいるって分かったよ」


 だけど女の子を探すために階下を徘徊するというのも、ねえ。

 そんなことをしたらそれこそ不審者だろう。

 同級生の女の子に相手をされないからと下級生に走った変な野郎になってしまうことも避けたい。


「どんな子だったの?」

「瞳の色は少し茶色寄り、髪はそこまで長くないけど結えるぐらいで黒髪だったな」

「日本人なんてみんなそんなもんじゃない……」


 確かに。

 結局、変に動かずに教室で待っている方がいいということだ。


「というかさ、入学してからすぐにお兄ちゃんに興味を持ったことになるよね。大丈夫? 壺とか高い絵画とか買わされない?」

「変な大人というわけではないんだから……」

「でもさ、気を付けないと自由にやられちゃうからね? 男の子とか女の子とか関係なく怖い人はいるけどさ」


 やばい、不安になってきた。

 自分に興味を持たれるよりも例えば、佑未に近づきたくて利用される方がよかった。


「ん? もしかしてあの子?」

「え?」


 んー? 昨日の子とは違うけどじっとこっちを見てきているのは確かだ。

 このまま見つめ合っていても埒が明かないから佑未を連れて近づく。


「あ、あの……」

「あれ」

「お兄ちゃんどうしたの?」

「ああ、声音が昨日の子と同じで驚いているんだ」


 昨日はあんなにハキハキ、しかも余裕そうに話していたのにこんなことってあるのか。

 それとも二人きりになれば解除されるのか?


「つ、付いてきてください」

「分かった」


 何故かはすぐに分かった。


「ふぅ、先輩ばかりの教室ではあれぐらいのキャラでいた方がいいんだよねーみんなが優しくしてくれるからねー」

「うわあ……」

「それであなたは?」

「この人の妹です。あの、一応言っておきますけどお兄ちゃんになにか悪さをしたら許しませんからね」

「はっはっは、同級生なんだから敬語を使う必要はないよ。そ・れ・に、大原先輩に悪さをするつもりもない。私はただ、大原先輩に興味がある子を知っているから協力してあげているだけでね」


 色々なところを見る癖で確かめてみたけどこの子しかいない。


「ただねー怖がりなところもあって大丈夫だって言っても付いてきてくれなかったんだよねーはは、私ばかりが大原先輩に会ってどうするのかって話だよねー」

「伸ばすのやめて」

「怖いね。大原先輩だけのときでもこうなのかな?」

「ううん、佑未は優しいよ」


 最初は警戒しておくぐらいでいいのかもしれない。

 それこそ危ない男の子なんかに騙されないためにも気を付けてほしいところだ。


「なるほなるほど、つまり猫ちゃんタイプってことか。いつもは興味を持たずに近づくことさえしてこないけど慣れたらデレデレみたいな感じで」

「お兄ちゃん、私はこの子苦手」

「はっはっは――お、お願いですからもう少しぐらいはその判断はやめてください」


 彼女は演技が上手いようだった。

 彼女の発案でこのままだとなにも発展しようがないので突撃することになった。

 佑未や彼女がいる状態なら不審者野郎とはならないだろうから一安心だ。


「あ、いたいた」

「なんで壁に張り付いているの……?」


 僕はそれよりもやたらと小さくて、細くて気になった。

 余計な心配だとは分かっていても、ちゃんと食べさせてもらっているのかな? と言葉を漏らしそうになってしまう。


「ほら、大原先輩を連れてきたよ」

「……よ、余計なことしないで」


 こ、声も小さいぞ……。


「だってこうでもしないと自分から行かないでしょ?」

「な、慣れたらいひょ」

「ごめんね、痛かったよね」

「……か、かへってもりゃって」


 タイミングが悪かったと片付けて戻ろうか。

 少し離れてから「あの様子だとあの子の方がお兄ちゃんに興味を持っていそうだったけどね」と佑未が言った。


「あの子、体育とかになったら倒れてしまいそうだね」

「体とかをジロジロ見るのは駄目だよ」


 いや、だって本当に小さくて細いから。

 寧ろ同性なら僕なんかよりも気にしそうなのにそうならなかったことが不思議だった。




「せっかく時間を使ってくれたのに、ごめん」

「謝らなくていいよ」


 放課後、教室にまた来てくれたあの子と話をしていた。

 佑未は友達に誘われて出かけてしまったから二人だけだ。


「ただ 勘違い、とかではないかな」

「いや、私は確かに『あの人が気になる』って本人から教えてもらったからね」

「なんでだろう?」

「他の人がいても全く関係ないとばかりに鼻歌交じりでご機嫌だったから、らしいよ?」


 こ、これだとなんか僕が不思議ちゃんみたいだ。

 これでも昔から「佑君は真面目だね」と周りの大人から言われ続けてきた人間、中学生のときだって女の子から「優しい」と言われ続けてきた人間だ。

 心がある程度奇麗な人なら急に「そうだ、花に水をあげよう」となっても普通だ!


「あの子もね、よく虚空をぼうっと見つめているんだ」


 そ、それって力が出なくて倒れそうになっているのでは……。

 見れば見るほど、聞けば聞くほど心配になる子だ。


「だから周りを全く気にしない大原先輩とあの子って相性がいいと思うんだ」

「僕だって全く気にならないというわけではないよ」

「あとは佑未さん、だっけ、あの子と一緒にいるときの態度で安心できたんだ」

「ごめん、シスコンというわけではないけど佑未に対しては、うん」

「妹に優しくできるお兄ちゃんっていいと思うよ」


 な、なんだ? やっぱりこの子が僕に興味を持っていたのか!? 

 はは、なんてないない、だけど悪い気もしない。


「う、うめ

「おー! まだ学校に残ってくれていたんだ!」


 あ、逃がしたくないからなのかガシッと掴んでこちらまで連れてきた。

 とはいえ、掴まれた子も逃げるつもりはないようでじっとしているだけだ。

 もっとも、怖いことには変わらないのか彼女の後ろに隠れてしまっているけど。


「はいはいはい! 竹内妹たけうちまい、この子が大原先輩に興味を持った女の子だ!」


 えっと、竹内さんといられることがとても嬉しいことが伝わってくる。

 竹内さんが来ただけでこのテンションの差、先程のあれが凄く暗いというわけではないけど大きいから目を逸らせない。


「う、梅は自己紹介した……?」

「それがまだしていないんだよ! ま、まー私のことはいいかなって、ね!」


 無理強いさせたりはしないから安心してほしい。


「あ、大原佑だよ、よろしくね」

「よ…………お願いします」


 ぐはっ、だ、駄目だ……。

 一緒にいてここまで心配になる子は初めてだ。


「んー高校の方もそうだけど時間が経過したらもう少しぐらいはなんとかなるかな」

「竹内さんに無理はさせないでね」

「大丈夫、妹が嫌がることはしないよ。今回のこれは大原先輩にも言っていたように頼まれたから動いただけなんだよ」


 お昼の反応を見るに頼まれた感じは……していなかったけどそういうことで片付けておこう。

 氷みたいにガチンコチンになってしまったから解凍は彼女に任せて帰ることにした。


「妹、大原先輩ならそこまで怖がらなくて大丈夫だよ」


 す、すぐ後ろにいるから気になって仕方がない。


「私、大原先輩なら好きになれそうだな」

「珍しい」

「だよね、これまでは一人を除いて全滅だったからね」


 佑未にとっての女の子のように彼女にもそういう存在がいるのか。

 僕には誰もいない。

 真面目にやっていても興味を持たれるかどうかは僕にとっては運ということだ。


「あーいましっかり聞いていたよね?」

「ごめん」

「言い訳をしないところは偉い」

「はは、ありがとう」


 彼女といられているときは普通に聞こえる声量になることも分かってよかった。

 なので、勝手に一人で安心しながら歩いていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ