第59話 妖怪ガシャドクロ
「アイダ、また事件です」
風の悪魔少女レイラの報告である。
「今度は何」
「山を幾つも越えた先の草原で、旅人が襲われています」
旅人に取り付く化け物が出て、困っているというのである。
「分かったわ、行ってみましょう」
先頭を行くアイダ、ワイナ、トゥパックとキイロアナコンダ、風の悪魔少女レイラに犬のノラ、トゥパックの従僕カラス、そしてドラゴン・バーブガンの面々であった。
途中の村で話を聞くと、
「ありゃあ、妖怪ガシャドクロです」
「ガシャドクロ」
「はい」
この辺りでは、昔大きな戦があり、屍が累々と横たわっていた。
戦で討たれた者だけではない。川へ逃れて溺れた者、傷ついたまま野垂れ死んだ者もいた。
しかし、その誰一人としてまともに葬られることはなかった。
やがて年月が過ぎると、そこには白骨だけが残った。
だが、消えなかったものがある。
――死者たちの怨念である。
無数の骨に無数の怨念がまとわりつき、それらが一つに集まった時、巨大な骸骨の妖怪が生まれた。
「おまえの肉をよこせーー、骨をよこせーー」
そう言ってしがみつき、がぶりと噛みつき、
「ムシャ、ゴリ、ムシャ、ゴリッ……」
引きちぎった肉がぼとりとドクロから地面に落ち、骨が落ちる。
「食い足りないぞ、もっと肉をよこせーー、骨をよこせーー」
それが古戦場に夜な夜な現れる。妖怪ガシャドクロと呼ばれ、人々から恐れられている化け物であった。
アイダたち一行はしばらく歩いて、化け物が出るという問題の場所にやって来た。
「ここがその古戦場ね」
ヒバリのさえずりが聞こえてくる草原は、さわやかな風が流れていて平和そのものであり、そんなおどろおどろしい雰囲気は全くない。
「静かな場所じゃないか」
「そうね」
「じゃあ、夜まで待ってみるか」
皆はその場で車座になり、日が暮れるまで待つことにした。
やがて日はとっぷりと暮れ、
辺りに生々しい異臭が漂ってくる。
「現れたわね」
「見ろ」
「あれは確かにドクロだわ」
ドクロがゆらゆらとさ迷うようにやって来るではないか。
「肉をよこせーー、骨をよこせーー」
ゴリラのトゥパックが早くも剣を抜くと、
「よし、おれがやってやろう」
剣を構え、
「やろうーー」
――ガシャ!――
トゥパックが振るった剛剣にどくろは崩れ落ちた。
「ふん、たわいもない」
しかし、その崩れ落ちたどくろが再び再生して起き上がって来る――
「なに!」
「剣では駄目なようだな。では儂がやってやろう」
今度はドラゴン・バーブガンが前に出てくると、
巨大な口から火炎を吐き出した。
炎に包まれたどくろは青白く燃え上がる――
「やったか」
だが、
「お前たちの肉をよこせーー、骨をよこせーー」
なおもゆらゆらと揺れ前に出てくる。
「アラカザンヴォアラホートシャザムスヴァーハー」
次はアイダの呪文攻撃であったが、ドクロは揺れるだけでなおも前に出てくる。
「駄目だわ」
「では私がやってみよう」
今度はワイナが神剣ヌアザを抜くと、正眼に構えた。
「イエッーー」
青白い炎がぱっと飛び散ると、ドクロは崩れ消えてしまった。
「今度はどうだ」
トゥパックがドクロの立っていた位置まで駆け寄って地面を見下ろすと、どこにも骨の痕跡は残っていなかった。
その時である、
「はっはっはっ」
「ん!」
辺りに聞き覚えのある声が響く。
「鬼神!」
「無駄だ、相手は怨霊ぞ。お前たちに退治は出来ぬ」
「鬼神、何を言う」
「怨みは骨に宿るのではない。骨を砕いても怨霊は消えぬ」
アイダが静かに言った。
「確かに鬼神の言う通りかもしれない」
「えっ」
「あれでは、まだ終わっていないわ」
「では」
「はっはっはっ、その通りだ。何度でも出てくるぞ」
鬼神の声がアイダたちを沈黙させる。
「お前たちがどうするか、じっくり楽しませてもらうとしよう、はっはっはっ」
鬼神の気配は消えてしまった。
「くそ、いやな野郎だぜ」
トゥパックがそう吐き捨てると、
「ご主人様」
「んっ」
トゥパックをご主人様とよぶ従僕カラスが声を掛けてきた。
「あのドクロは退治できません」
「この野郎、そんなことお前に言われなくとも――」
「閉じ込めるのです」
「…………」
カラスはドクロを退治する方法は封印するしか無いというのである。
「封印するだと」
確かにその方法しかないかもしれないと、アイダはカラスの提案を受け入れ、封印する壺を村人と協力して造ることになった。
祈祷しながら土をこね、壺は出来上がった。
「だがな、これでどうやって奴をこの中に入れるのだ」
「確かにな、それが問題だ」
「私がやりましょう」
声を出したのは風の悪魔少女レイラである。
しかしいくら待ってもドクロは現れない。
三日待った。
四日目の夜、
再び生ぬるい風が吹き、辺りの気配が変わる。
「出たわね」
「肉をよこせーー、骨をよこせーー」
レイラが前に出る。
「私を食べなさい」
「おお、うまそうな肉だ」
ドクロがゆらゆらと近づいてくる。
「さあ、こっちよ」
レイラがじりじりと後ずさる。
「肉をよこせーー、骨をよこせーー」
次の瞬間、レイラが風になり壺に入るとどくろも追って入る。
それと同時に再び外に出たレイラが言った。
「トゥパック、早く蓋を閉めて」
「よし」
ガシャドクロはついに閉じ込められた。壺は厳重に封印され、地中深く埋められた。そしてその場所には、戦で命を落とした者たちを弔う碑が建てられた。
「はっはっはっ、うまくやりおったな」
鬼神の笑い声が響いていた。




