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第31話 逃げたサマエル


 アイダはある疑問を持ち続けていた。実はサマエルと対峙した時から、その視線に違和感を感じていたのだ。サマエルの視点、目線が微妙に定まっていなかったからである。


「あの者の目はあまり見えていないのかもしれないわ」

「…………」

「レイラ、突風を巻き起こして、一か所に集中させる事はできる?」

「やってみます」

「瞬間でいいからサマエルの目を攻撃するの」

「目を……」

「サマエルの弱点は目よ。だからそこを攻撃されたら怯むはず。それからワイナは……」

「フフフッ、こそこそと何を企んでおるのだ」


 サマエルが相変わらずヌラッと近づいて来ると、宙づりとなったセラムを見上げている。


「このざまをベリアルに見せたかったな」


 ここでアイダが叫んだ。


「レイラ、やって、今よ!」

「アラホートシャザムスヴァー」


 直後である、一筋の突風がサマエルの目を射た。


「ウッ」


 サマエルが目を押さえ、よろめくところを、


「イエッーー」


 ワイナがサマエルの背後から剣を突き出す――


「アラカザーー、トシャザムスヴァーハー」


 アイダの呪文攻撃もサマエルを襲ったが、ワイナがすぐ声を上げた。


「くっそ、また消えたぞ」


 サマエルの姿が再び消えたしまったのである。しかし攻撃の成果はあった。磔となっていたセラムの拘束が解かれ自由になった。


「トゥパック」


 振り向いたレイラがトゥパックのもとに飛んで行く。


「アラカーーシャザムスヴァーハー」

「げほっ」

「トゥパック、大丈夫?」


 続いてノラも助け、別な場所で倒れていたキイロアナコンダはアイダが呪文で回復させた。

 だが、周囲からサマエルの気配は完全に消えてしまった。


「セラム」


 セラムのもとに戻って来たレイラが声を掛けると、セラムも返してきた。


「レイラ、大丈夫だった?」

「もう、なんであんな無茶をしたの」

「私にサマエルは危害を加えない、そんな気がしたからよ」

「…………」

「それに、やっぱり私はあなたの守護天使、あんな状況で助けないではいられなかったわ」


 ここでアイダは皆を集めて、


「これからは全員離れないようにね。サマエルがいつ襲って来るか分からないわ。それからレイラもノラを離さないようにして」

「分かりました」


 結局姿を消してしまったサマエルである。仕方なくアイダはワイナ、キイロアナコンダ、そしてレイラとセラム、トゥパックやノラと共に西に向かい出発する事にした。


「アイダ、サマエルはどうやらエジプトに行ったようです」

「エジプトに」

「はい」


 風の悪魔少女レイラが、流れて来る風の便りから得た情報である。古代の神々が戦い、敗れた者が何故かたどり着く先である。そこには太陽神ラーと、その地位を狙う女神イシスがいた。


「しかもエジプトの邪悪な神々に取り入った模様です」

「えっ」


 サマエル一人でも厄介なのに、エジプトの神々に取り入ったとは……。


 エジプトで信じられていた魔法で最強のものは言霊魔法で、万物には皆真の名前があり、その名前を知ると、そのすべてを支配することができる、というものである。

 エジプトにやって来たサマエルは、蛇をラーの寝室に這わせた。かまれたラーはその痛みに耐えられなくなり、ついに自分の真の名を明かしてしまう。その計略を実行したのは、背中に翼を持った女性として表現される女神イシスであった。

 サマエルがイシスに囁く。


「儂はラーの真の名前を知っておるぞ」


 サマエルを見つめるイシスの瞳が妖しく光った。


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