第24話 魔法の小箱
第二部 神々の試練編 あらすじ
虹の精霊アイダは仲間たちと共に異界の旅を続けていた。
ジャガーの剣士ワイナ。
豪腕のゴリラ戦士トゥパック。
風の悪魔少女レイラ。
沼の主に遣わされたキイロアナコンダ。
そして犬の精霊ノラ。
一行はメドゥーサの願いを聞き、ゼウスの裁定を受けることになる。
さらに堕天使サマエルの陰謀が動き始め、神々と悪魔を巡る新たな試練が幕を開ける。
第24話 魔法の小箱
「レイラ……」
「付いて来ないで!」
アイダを筆頭にワイナ、キイロアナコンダ、そして最後尾から不穏な雰囲気のレイラとゴリラのトゥパックが歩いている。
「トゥパック、あなたとはもう絶交したんだからね」
「…………」
立ち止まって巨漢のトゥパックを見上げ、両手を腰にプンプンと仁王立ちのレイラである。
「何故振り向いたの、まだ後ろ足が残っていたじゃない!」
「レイラ、もう皆冥界を出たから良いと思ったんだ」
「全く……」
せっかく魔王ベリアルを地上界に戻せて、熾天使のセラムに喜んでもらえると思っていたのに、とレイラ。うなだれて身の置き所も無いといったトゥパックを見ても、未だに怒りが収まらない。プリプリと小言を言い続けるレイラを、犬のノラも当惑気味に見上げている。
ここでついに熾天使のセラムが声を掛けてきた。
「レイラ、もういいの、トゥパックさんを許してあげて」
「…………」
セラムは自分の胸を指さし、
「ベリアルはここに居るって言ったじゃない」
「セラム、本当にそれでいいの?」
「もちろんよ」
「分かった」
やっと機嫌を直したレイラは、トゥパックと並び二人だけで歩き出す。
「何だあの二人は……」
さっきまであんなに険悪だったのに、キイロアナコンダが訳分からんと、あきれ返って見ているのであった。
虹の精霊アイダは再び皆を集めた。ジャガーのワイナ、キイロアナコンダ、ゴリラのトゥパック、風の悪魔少女レイラと犬のノラ、そして守護天使のセラムたち七人は新しい旅に出発しようとしている。
「ご主人様」
「何だ?]
カラスが木の枝にとまっている。
「前のご主人様が残した小箱はどうなさいますか?」
「小箱?」
「はい」
カラスは死亡した前の主人、すなわち冥界の入り口を縄張りとしていた魔女が所有していた小箱を、そのまま残して行くのかと聞いてきたのである。
「小箱とは一体何の事だ?」
「魔法の小箱で御座います」
「魔法だって……」
「トゥパック」
「んっ」
「あなたさっきから何をぶつぶつ言っているの?」
隣にいたレイラがトゥパックの言動を怪しみ、聞いてきたのであった。トゥパックとカラスとの会話は当人同士しか理解できない。レイラにはガラガラとした鳴き声が聞こえているだけである。
ここで思わず本当の事を話そうとしたトゥパックであったが、
「あっ、実は、その、なんだ……」
「トゥパック、出かけるぞ」
「分かった、今行く」
前を行くキイロアナコンダの声掛けに思わず乗って、ごまかしてしまうトゥパックであった。魔法の小箱とは一体何なんだ。まだ皆にはカラスの事も、ましてや魔法の小箱などという面白そうな事は、内緒にしておいた方がよさそうだ。ひとりにやにやとするトゥパック。
「ご主人様」
「その話は、また後だ」
「…………」
トゥパックは召使のカラスを残し、レイラの後を追ってどたどたと駆け出した。
「カラス、何処に居る」
「御用でしょうか、ご主人様」
トゥパックがやはり気になるのは魔法の小箱である。アイダやレイラ達の居ない時を見計らって、カラスをこっそり呼び出して聞いたのであった。
「お前の言う魔法の小箱というのは今どこにあるのだ?」
「洞窟に置いて御座います」
「もって来れるのか」
「もちろんです」
「よし、では今すぐ持って来い」
「分かりました」
やがてカラスが爪で掴み運んで来たものは、両手のひらに乗るほどの箱であった。
「汚ねえ箱だな」
「…………」
トゥパックは直ぐに開けようとするが、
「待って下さい、ご主人様」
「何だ」
「箱を開けてはいけません」
「なに」
箱を開けようとしたトゥパックの手が止まる。
「開けるなとは、どういうことだ」
「私は前のご主人様から、この箱を絶対開けてはならないと言われていました」
「何言ってんだ、開けられない箱など持っていても意味無いではないか」
「…………」
トゥパックは強引に開けてしまった。
「ウワッ」
蓋が開けられると、中から何かが出て来たのである。白い、もやっとした何かであった。
「何だ!」
ふわっと舞い、中空に浮かんだそのものは、やがて人の形となり言葉を発した。
「そなたはトゥパックだな」
「…………!」
美の女神をほうふつとさせるような女人である。身にまとっている白いドレスは様々に染色や刺繍も施されている。その女神のような容貌の女性は、ギリシャ神話に登場する女たちの代表的なドレス姿でトゥパックを見下ろしている。
「出してくれた礼を言うぞ」
「…………」
だがその女人は、ただの女人ではないような……風もないのに長い髪がうねっているようなのだ。気のせいかと思ったが、女人はすぐ元の白いものとなって消えてしまう。トゥパックは声も無く呆然と見送るだけであった。
その頃、
アイダたち一行が進む先では、女神アテーナーが旅人や住人に難儀を及ぼしているという噂が広まっていた。おかげでアテーナーの評判がすっかり地に落ちてしまったというのである。
女神のアテーナーがそんな悪さをするなど有り得ない事なので、アイダたちは疑っていた。
「アテーナーが訳もなく悪さをしているなんて、信じられないわ」
とアイダが言う。
「何かの間違いじゃないのか」
「それとも魔物か何かがまた現れたのか」
「…………」
とにかくすぐ調べてみようとなった。




