46.菓子パンは最高です!
放課後、私の家にみんなで集まってパンを焼く。フワリンは結局午後の授業でも大はしゃぎしていて、先生の目が痛かった。
「さあフワリン。何したらいいの?」
フワリンは口から取り出したショコラが入った瓶をうっとりと見つめると、術から牛乳を取り出す。するとそれを温めてショコラと水アメを入れるイメージが送られてきた。
レヴィーも飲み物だとは言ってたけど、料理に使うんじゃないんだな。カップに人数分作ると、フワリンと一緒にみんなで飲む。
「へえ……牛乳と一緒に飲むと苦みが減っておいしいね」
ちょっと不思議な味だけどたしかにおいしい。パンによく合いそうだ。
フワリンはカップごと口に入れると、カップだけ口から出した。フワリンの液体の飲み方は独特だ。
飲み干したあと斜めに傾くと「へっぷ?」と言って固まった。思っていた味ではなかったと言っているように思える。
フワリンは水アメが入った瓶を見るとまた「へぷ」と鳴いて、今度は「へぷへぷ」と呟きながら床を転がった。多分悩んでいるんだろう。
「フワリン、今日は新しいパンの開発でしょう? ショコラはおいとこうよ」
声をかけると、フワリンは「違う」とテレパシーを送ってきた。何が違うのか、品評会まで時間がないのだから急がなければいけないのに。
ぶるぶる震えたフワリンは、口からストックしていたカスタードの入った瓶と焼く前のパン生地を取り出す。そして「菓子パンじゃー」という言葉と共に映像をみせた。
「……今川焼みたいに、中にクリームを入れるの?」
確かに今川焼の外側はふわふわしていないパンのようなものだ。フワリンのパンは柔らかくて甘みがあるから、カスタードクリームとも合うかもしれない。想像しただけでよだれが出そうだ。
フワリンの見せた通りにカスタードクリームを半分に分け、一方にショコラを入れる。キャンディがスプーンを持って、ショコラカスタードクリームをすくって頬張った。
「うーん、美味しい! 苦みがあるからずいぶん味が変わるね! 大人が好きそう」
私もひと匙すくって食べてみる。ほろ苦いのに甘い、不思議なクリームが舌にねっとりと絡みつく。
それからパン生地を薄く延ばして、クリームを包む作業だ。レヴィーはパンには触らない方がいいから、窯の準備をお願いした。
「すまない。うまくいかないのだが……」
細かい作業が苦手なモニークは、どうしても生地からクリームがはみ出してしまう。慎重に包んでいたと思うのだけど、どうにも力加減ができないらしい。
「大丈夫。味見用にしよう」
私たちで食べる分には多少ぐちゃぐちゃでも問題ない。品評会用のは私とキャンディが作った物にすればいい。
キャンディはコツをつかんだのかとてもキレイだし、私も慣れてきてうまく包めるようになった。
「包むパン、こんなに薄くて大丈夫なの? フワリン、これであってる?」
フワリンに問うと「へぷへぷ」と頷いている。パンの生地は本当に薄くて、もっと厚くした方がパンの味がよく感じられるのではと思った。でもフワリンが言うなら薄い方がいいのだろう。
「もう焼けるよ。できた分窯に入れるね」
パンを窯の中にゆっくりと入れたレヴィーは、焼き加減も見てくれている。私たちはその間もおしゃべりしながら包み続けた。
「そうだ言い忘れてたんだけど、次の品評会で家も水アメ出すんだよ。フワリンのパンにはかなわないかもしれないけど、品評会は勝負じゃなくて成果発表だから……このパンにも水アメが使われてるって宣伝してね」
キャンディは父に頼んで品評会の発表順番を私の直前にしてもらうようだ。確かに水アメの宣伝をした後、それを使って作ったパンを食べてもらった方が宣伝効果は高いだろう。順番の希望を出すのは別にズルではなく、複数領地の共同事業なんかの発表もあるからむしろ推奨されているそうだ。
「家にとってはクリスタが品評会に参加するのはラッキーなんだよ。水アメの最高の使用例だからね。この間教えてくれたジャムもいいけど、これも注目されるだろうし」
そう言って笑うキャンディを見て、私も少し品評会が楽しみになった。きっとみんな驚いてくれるだろう。私のフワリンはすごいんだって、自慢したい。見た目のせいで気持ち悪いと言われるフワリンは、本当はすごいんだと言ってやりたかったんだ。
「ねえ、多分ちゃんと焼けてると思うんだけど、どうかなフワリン」
パンはすぐに焼きあがった。生地が薄いからだろう。フワリンが窯を覗き込んで頷いた。レヴィーは窯からキツネ色のパンを取り出す。
「いい匂いだな。ほんのり甘い匂いだ」
私たちはさっそく、焼きあがった中でも形の悪いものを手に取った。フワリンがアレルゲン除去の魔法をかけて「薄皮クリームパン完成!」と言いながら、パンを一つ吸い込む。
それを見て、みんな手にもったパンを口いっぱいに頬張った。
「熱っ! ……甘くておいしい!」
焼きたてだから中のクリームは熱々だった。でも、信じられないほどおいしい。フワリンも満足そうに「へっぷ」と鳴いた。
パンの薄さには意味があった。これはクリームの味を引き立てるためのパンなのだ。これは主食というよりスイーツ。料理に合わせるものではない。フワリンが「菓子パン」とよんだ意味がすぐにわかった。
カスタードクリームを食べ終わって、チョコレートクリームの方を口に運ぶ。こちらはほんのり苦みがあって、またパンによく合う。
「これ、いくらでも食べられそう! 紅茶が欲しいね」
レヴィーの言う通り、お茶会によさそうだ。パンのおかげで手を汚さずにクリームを堪能できる。柔らかくて、クッキーみたいにポロポロこぼれないから貴婦人も喜ぶだろう。
これがあれば、きっと品評会でいい評価を得られるだろう。どちらにしても王家から何らかの褒美が与えられると事前に聞いていたけれど、出来レースだとしても最大限いいものをつくりたい。
フワリンの満足げな表情を見て、私は品評会の成功を確信した。
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