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ゆみこの夢

 ――今度は、狭い畳の部屋でゆみことお婆さんが会話をしている。二人は私の存在に気付いていないみたい。それに時を進める魔法は、日野に打消されてもないのに、ゆみこが高校生のままであるということは、夢の中では魔法を使ってもリセットされるってことね。まぁ私の夢の中だもの。当然よね。


 「私、おばっちゃみたいな高齢者を助ける人になりたい」

 「おやまぁ嬉しいことを言ってくれるね、ゆみこ」


 たとえが抽象的ね。さすがFランに行くだけあるわ。どうせ小遣いが欲しいから適当なこと言ってるんでしょ。「高齢者を助ける人」……まるで正義のヒーローにでもなりたそうな台詞じゃない。何もとりえのないあいつが将来役に立つわけなんかない。でも一応見てやろうじゃない、ゆみこの人生ってやつを。


 時を30年ほど進めた。私は白髪混じりのお爺さんとお婆さんだらけの施設の中にいた。なにやら独特なにおいがする。時折叫び声をあげる音にビクッとしながら、私はゆみこを探した。


 「ちょっと! ゆみこさん、どうして私がお風呂一番じゃないの」

 「すみません、みんなで順番に入ることに決まっているので……」

 「あんな汚い人の後に入るの、私嫌よ」

 「でも入らないとお体綺麗になりませんよ。バッチイの嫌でしょ」

 「……しょうがないわね。ゆみこさんだから今回は許してあげるわ」

 

 あ、もしかしてヘルパーになった? 大学に出てまでヘルパー? 確かにお年寄りは多いけれど、それを介護するからって、「助けてる」ことになるの……。しかもわがままなババアの相手までしなきゃいけないなんて、ゆみこの人生こんなものなのね。それに苦労しわの多いこと多いこと。


 場面は変わって休憩室でなにやら会話してるみたい。


 「ゆみこさん、どうやってフミさんをお風呂に入れてるの? あの人入浴拒否が多いのよね」

 「そうねぇ、まず常に気をかけてあげること。一人でいることが多いから、なるべく声かけをして信頼関係を築くことかな」

 「大きなソウジさんの移乗もすんなりと一人でこなせるのも凄いわ」

 「昔から身体は大きかったからね! 私介護に向いてるのよきっと。この仕事選んでよかったわ」


 ……辛い仕事なのにどうして笑っていられるの? 高齢者なんてどれだけ介護してもあとは死んでいくだけじゃない。薄給で汚い仕事。私なら絶対にしたくないわ。普通にオフィスで正社員として働ければそれでいいもの。これがゆみこの夢だったっていうの。


 「そういえば、最近ショートで入居してきたおばあちゃんが、私の死んだおばあちゃんにそっくりな人でさー。それがもう可愛いのなんのって」

 「もしかしてトシさん? あの人確かに癒しオーラ出てるわよね」


 ――会話の途中で目が覚めた。

 医師に小説家にヘルパー。あっちの世界は賑やかで私の苦手なものだらけだ。ゆみこも悪魔や天使に出会わずに、高校生の頃のようにいろんな人と繋がって生きている。どうせ仕事上の関係でしかないだろうけれど、あの能無しにまさか適職があったなんて。ゆみこは抽象的な夢から、「ヘルパー」という道を選んだ。それに比べて私は――


 ベッドから降りて食卓に着く。今度はピンクのマカロンを一つ口にした。サクサク食感の生地で、中にはしっとりとした苺ジャムが入っている。中学生の頃はよく両親と一緒にお菓子を作っていた。本気で「パティシエになれる」と思って――

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