表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

光の中で 敏也 6

敏也の初めては濃厚スープだった

「熊ちゃ~ん、こっちこっち!」

美奈香が大きく手を振って笑っている。

八重歯が吸血鬼の牙のようにとがって、噛まれたら痛そうだなっと敏也は思った。


親睦会という名の遠足は、なぜか投票箱に入れられた『ディズニーランド』の紙切れで決定した。

「なんだ?なんでこんなに『ディズニーランド』ばっかあるんだ?」

書記の高松翔が十枚以上ある紙を箱から取り出して言った。

「うわぁ~ほんとだ!一応筆跡は違うから違う人物の投票って事なのかな」

会計の新城陽介が一枚一枚丹念に筆跡を見つめる。

一枚だけ『潮干狩り』と書いてある紙を見つけて、笹塚熊五郎が渋い顔をした。

「ここだったら知り合い居るからいいと思ったんだけどなぁ。千葉知り合い多いしな」

生徒会室の入口から甲高い声がした。

「やったぁ~~!決まり!ディズニーランド!」

美奈香だった。今日は髪の毛をお団子にして金色とピンクのシュシュが目を引く。

「ディズニー、ディズニー、ディズニーランド!やっほっほ~」

訳の分からないイントネーションで、頭をふりふり踊り出した。

襟の端から後れ毛がパラリパラリと落ちてくる。

お団子の髪の毛が乱れていく。


「おまえ!図ったな!」

新城陽介がメガネの奥から鋭い眼光でにらんだ。

「えっ?何のこと?みなか、なぁ~んにも知らないもんねぇ~~」

ため息をついて翔が口をとがらせる。

「脅したり、ゆすったり、こいつ動かせる男一杯いるからね。やっぱ美奈香の仕業じゃね?」

翔の言葉を聞いて美奈香がほほを膨らませる。

「ひっどいんだ~~、美奈香がちょっとデートしてあげるって言ったら、美奈香の知らないところでこんな事になっただけだも~~ん」

熊五郎が苦笑いをする。

「ディズニーランドで決まりでしょ?くまちゃ~ん」

「ああ、しゃぁ~ねぇな!ディズニーランド行くぜ!」


ディズニーランドに親睦会は決定して、五六人の班を各クラス作ることになった。

ホームルームはガヤガヤしていた。

仲良しグループに固まるのはかんたんだった。

敏也はため息まじりに帰り支度を始めていた。

(どうせ、グループにも入らないし入りたくもないし、第一時間の無駄だ。その日は休んで家で勉強でもしよう)

鞄を肩にかけようとした時

目の前にピラリと紙が揺れた。

「さっさと名前書けよ!書いたら帰って良し!」

熊五郎だった。

高松翔が

「お前、帰るの?じゃ、ラーメン行かね?」

陽介が

「一度は食べておいた方がいいと思うね」

「としちゃん食べた事ないんでしょ?早く名前書いてよぉ~、みなか、お腹すいちゃったんだからぁ~~」

吸血鬼の牙むき出しの笑顔の美奈香が、敏也の腕をつかむとペンを持たせた。

敏也が訳も分からず名前を記入すると、美奈香が思いっきり脇の下から腕を回してきた。

「な、な、なにする」

「いいから、行くよ~~」

そのまま、敏也は四人に囲まれて教室を出て真っ直ぐに門の向かいにある『来々軒』というラーメン屋になだれ込んだ。

「おっなかすいたぁ~~ラーメン五つ!一つ大盛りで!」

美奈香が大きな声を上げた。

「また、大盛りって、おまえ太るぞぉ~」

熊五郎が美奈香を見下ろした。

「あのね、美奈香はまだまだ成長期なんですぅ~~」

高松翔が笑った。

「頭の中もまだ、成長期じゃね?」

「そっか、だったらまだまだ先は長いね、美奈香は」

サラサラのセミロングの髪をゴムで縛った新城陽介が頷いた。

その横で小さくなって敏也は、店内をきょろきょろしていた。

「とりあえず、班行動だからな!よろしく頼むな!」

目の前にドンと置かれたラーメンを前に熊五郎が、ニッと笑う。

豚骨の白い濁ったスープがお腹のどこかを刺激して、敏也は自分が空腹なのに気がついた。

「うっめ~~」

「うん、いつもながらあっぱれ!」

「おいしぃよぅ~~、ふとっちゃうよ~~」

「うまいなぁ~」

てんでにぶつくさ言いながらラーメンを頬張っている。


班行動って言ったよな、敏也は頭の中で一生懸命理解しようとした。

とりあえず、目の前の湯気を立てているスープの中に箸を入れると麺をすくって口の中に入れる。

まったりとした濃厚なスープが絡まった麺は、身体中が喜んで受け入れるのを感じた。

「お、おいし」

思わず言葉がこぼれたのを、聞いて熊五郎がウィンクする。

「だろ?」

「この学校のいいところは『来々軒』のラーメンがいつでも食べられるって事だよ」

陽介がメガネのくもりを拭きながらほほ笑む。

「とにかく、としちゃん、ディズニーランドの中で迷子になんないでよね!」

美奈香は大盛りをたいらげて、お腹を撫でている。

「こまったぁ~~来々軒の子どもがこんなかにいるよ~~うまれるぅ~~」

「こっえぇ~、みなかアンド来々軒ラーメンって最強じゃね?」

みんなが大きな声で笑った。敏也も笑っていた。

初めて食べたラーメン、お腹がいっぱいになったからか、ゆるい自然とこぼれる笑い。

何もかも初めての事だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ