光の中で 敏也 7
親睦会の敏也、初めての経験がたくさんだ。しなくてもいいことまで経験してしまうのか?
ディズニーランド
話には聞いていた、知識として。
どんな物があって一つ一つのアトラクションにスポンサー企業がいて、東京ディズニーランドという名称のくせに千葉県にある。
小さな子どもから大人まで楽しめる。隣接してホテルやショッピングモールもありディズニーシーというものがまた別にできたらしい。
さほど、行きたいとも思っていなかったし低俗だと思っていた。
そんなところで、遊んでいるのは低俗な三流の人間で自分とはかけ離れた存在だった。
しかし、敏也は今その低俗という認識の場所にいる。
これも学校行事だと思えば仕方ないと納得はしている。
だけど、どこか心がふわふわ空に飛んで行ってしまいそうで、慌てて引っ張り下ろすのだ。
「くまちゃ~~ん、こっちこっち!」
美奈香が敏也の隣で大きく手を振って笑っている。
八重歯が吸血鬼の牙のように見えて、噛まれたら本当に血が出そうだと思うと、敏也はぞくっと身震いした。
「自分で行けよ!アイスクリームなんざ子どもがいっぱいで行列すげぇ~んだぞ!」
ジュースとアイスクリームを両手に持って高松翔。
「ほらよ!」
熊五郎が敏也にコーラを手渡す。
「連休明けの週末は思ったより、空いてたな」
新城陽介はアイスコーヒーをごくごく飲み干して息を吐き出した。
「でも、天気良すぎでお肌がやばいよ~~」
アイスクリームを大きな口を開けてかぶりついて美奈香が言う。
「スプラッシュ行こう!空いてきたよ~」
頬にチョコレートアイスをつけた顔で美奈香が指差した。
「おめぇ~犬みてぇ!拭けよ!」
翔が美奈香にポケットからティッシュを取り出した。
「サンキュー!いこ、いこ!」
敏也も幾つかのアトラクションに乗った、生まれて初めての経験だ。
思いの外、わくわくしたりドキドキして興奮している自分がどこか恥ずかしい。
自分の感情をどうしてそんなに、素直に外に出す事ができるのだろうか?
自分をコントロールする事ができない歯がゆさが良いのか悪いのか、わからなかった。
今日は髪の毛をポニーテールにしてキラキラした花が頭に揺れている美奈香。
化粧が濃いのか、匂いがきつい。
この低俗な生き物は感情むき出しと言っても過言ではないと思う。
果たして、これは良い事なのか、悪い事なのか?
けれど美奈香には、きっとストレスとかフラストレーションというものは存在しないのじゃないだろうか?
アトラクションに向かいながら、ぼんやりそんなことを考えてみる。
集合時間は5時、入場門付近そこで点呼、解散だ。
いつも色のない顔色をした生徒たちははしゃいで、明るい表情を作っている。
何事も無く、解散になった。
敏也もこれで、楽しい親睦会が終わると思っていた。
まさか、ここから長い道のりが用意されているとは思ってもいなかったから。
班行動もこれで終わりか、なんとなくどこか寂しげな気持ちになるのはなぜだろう。
敏也は楽しいと思えていた事が意外だった。
しかし確実に気持ちは上気し心拍数が上がり、わくわくは納めようにも納められないものだった。
これが楽しいという事なんだ、と思い始めていた。
生まれて初めて、感じる事だ。
ドン!と通りすぎる大きな影が肩をついた。
「おい!何しとんじゃ!」
相手は学ランを着た大きな姿のいかつい形相だ。
年はきっと同じくらいだろうと思う。
だが、身体の小さな敏也に比べて相手は大人に等しい身長と肩幅だ。
「な、なにって。そっちがぶつかって」
敏也の言葉に反応した。
「オレが悪いっての?謝れって言ってる?」
「い、いや、その」
相手の背後から同じ制服を着た大きな影が集まってきた。
五六人はいるだろうか、どいつも同じように悪ガキの顔をしているように見える。
「こいつの制服、お坊ちゃんっぽいな~、金持ってそうじゃない?」
目つきの悪い一人がにやにやしながら敏也を見つめる。
脇からもう一人が敏也のブレザーを掴んでポケットを探る。
「な、なにするん」
目つきの悪いやつが敏也のリュックを掴んで取り上げた。
ジッパーを開けると敏也の財布を取り出して中身を確かめてみる。
「ほ、ほ~~、持ってるじゃんか。学生のくせに万札が何枚もあるぜ」
今朝、遠出をした事のない敏也はためてある小遣いと母からもらった二万円、全部で六万円もの大金を財布に入れてきた。
何かあったら怖いから、とそう思って余分に持ってきたのだ。
しかし、何かとはこういう事ではないはず。
敏也はがくがくする足で立ったまま、そんな風に考えていた。
風は潮風のようで、自分の家のまわりで感じるものと匂いが違う、固まった身体のくせにそんな事も気になっている。
駅のホームに向かう人ごみから離れて、学ランに囲まれてひときわ小さな身体はすっぽりと隠れてしまっている。
誰も気づかない。
あたりは、少しずつ暮れてゆく。
楽しかったわくわくも、上気した記憶も遠くはるか昔の事のようだ。




