導入
初めて挑戦した推理物です
いろいろ破綻しているかもしれませんがお願いします。
全三話構成です。
01
「将来の、夢ねえ」
よく聞かれる質問であり、その都度言葉を濁していた僕だったが、実は確固たるものがある。
僕は、小説家になりたい。
「かといって、こんな進学校の進路希望調査で書けるような夢じゃないんだよな。」
「あれ? くーちゃんにそんな明確な夢あるの?」
「あるよ。中学校のころからずっと変わらない夢がね。」
「ふうん、あたしにはよくわかんないけど、きっとその職業の人に失礼だよ。進路希望調査に書けない夢とか言ったら。」
正論過ぎて反論の余地もない。
確かに小説家の人やそれを目指している人に対して失礼な話だ。
「久我山、清水、まだ書き終わってなかったのか。まったく、早く書けよ」
突然、放課後女の子と二人きりという男子にとって憧れのシチュエーションを壊したのはわれらが担任宮間先生だった。
「すいませんね。ただちょっと、将来の夢を書けと言われてもですね。僕目先の課題や授業で精一杯なんですよ、とても何年後の自分を考えられるような余裕がありません。」
「はぁ……確かに自分の将来を思い描くのは難しいと思う。今なんてちょうど昔から抱いていた夢を挫折するころだしな。すでに何人かが医者への道をあきらめていたよ。」
そういって僕に微笑みかける宮間先生。
しかしその表情が一転、怖い顔に変貌した。
「だが久我山。お前には夢があるんだろ。」
「な、なんで知っているんですか!」
誰にも言っていないはず、俺の夢が小説家だなんて。
と驚いて先生の顔を見ると、あきれたような表情を作っていた。本当にころころ顔が変わる人である。
「お前…夢、あるのか」
「しまった、カマをかけられただけだったのか…」
「言ってみろ。先生笑わないから」
一呼吸の間考える。
そして結論が出る。まあいいか。そろそろ誰かに打ち明けておくべきだろう。それが信頼できる宮間先生なら万々歳だ。
「僕、小説家になりたいんですよ。」
「へえ、小説家」
「す、すごいこと聞いちゃったよ、あたし…」
しまった、まだこいつがいた。おのれ清水美里。
「でもなんで?なんで学年主席争いをしているレベルの学力を誇るくーちゃんが小説家なの?もっと他にないの?」
なぜ僕が自分の夢を隠し通そうとしていたかというと、この質問が嫌だからだ。
理由なんて、やりたいから以外にあるわけがないだろう。
「例えば美里、お前の知り合いにスポーツ万能少年がいたとする。」
「うん」
「その子は野球をやっていて、とてもうまかった。さらに将来の夢はプロ野球選手だという。しかしサッカーの授業で、プロ顔負けの技術を発揮した。」
「でもその子はプロ野球選手になりたいと? 」
「その通り。美里ならどっちの道に行かせる? 」
「………行きたい道、かな」
「じゃあ僕の行きたい道にすすませてくれよ。」
いや、言うなれば僕の生きたい道だろうか。
「久我山、お前が本気なのはわかった。でも、小説家なら副業にするという手もあるんだぞ。」
「……それを舐めているって言うのでは。」
「はは、ならさっさと進路希望の紙書いてしまえ。俺はもう帰る。」
「ええ、もう帰っちゃうんですか―?」
「明日も朝早いからな。」
明日?何か早朝補習などあっただろうか。
まさかこの先生、社会人なのに八時半を朝早いと言い放ったのか?
「じゃあまた明日。」
さようなら、と僕たちは返した。
「宮間先生、いいひとだよね」と、美里が言う。
「確かにファン多いよな。まあハンサムだし教え方上手だけれど、なんであんなに人気なんだ?」と僕は返す。
「なんで、って言われると…やっぱり人間的にすごく尊敬できるからじゃない?」
「そんな、尊敬できる具体的な行動やっているの?」
「知らない?うちの学校って、生徒玄関解放が七時半じゃない。」
そう。うちの高校は七時半にならないと生徒が学校に入ることはできない。
「それで、うちのクラスの子がね、不思議なことに気付いたの。」
その子は、七時半ちょうどに門をくぐり、教室に到着したのは間違いなく一番だったはずなのに、すでに花瓶の水が取り替えられ、教室が小奇麗になっていたのだという。
「それが毎日そうだったんだってー。で、一時期座敷童説が飛び交うほど騒ぎになったんだけど」
その言葉の続きを奪う。
「犯人は先生だった、というわけか。確かに先生は七時半以前に入れるからな。」
しかし勤務時間は八時半からのはず。
つまり宮間先生は一時間以上早く勤務しているというわけだ。それは尊敬する価値もある。
「へえ、そうなんだ。」
「ところでくーちゃん。話を戻すけど」と、美里が声のトーンを変えた。
「なんだ?」僕は聞き返す。
「さっきの夢、もし本気ならね。ひとつアドヴァイス……いやそんなに大層なものじゃないけれど、いいこと教えてあげる。」
正直に言ってこの女に僕の夢の助言になるようななにかを言ってもらえるとは微塵にも思っていなかったが、その思いとは裏腹に彼女の言葉が僕のこれからを大きく変えることになる。
「今晩、あるインターネットのサイトを教えるから、そこにアクセスしてみて。」
「わかった。」
これが僕の、小説家への第一歩であり、彼と出会うことになるきっかけであった。
「小説家になりたい人を応援するサイト…なのか。創設者は…ことはらっていうのね」
その夜俺は里美に言われたサイトにアクセスしてみた。
アクセスカウンターを見る限り、あまり繁盛しているようには思えない。
「えーと、ここにアクセスしたあとどうすればいいんだろう?」
自問自答する。美里はアクセスしろ、としか言っていなかった。何をすべきなのかわからなかったので、とりあえず、と僕は一通り眺めてみる。
するとそこに気になる言葉を見つけた。
『小説家になりたいあなた。ぜひ私と意見交換をしませんか。メールアドレスは下記の通り』
意見交換か。まったく知らない人と連絡を取り合うということに抵抗がないわけではなかったが、美里の顔を立てるため、そしてなにより僕の夢のためにメールをしてみることにした。
「はじめまして。小説家志望の学生、久我山というものです。意見交換といってもよくわからないのですが、小説家志望です。ここのサイトは友人から聞きました。」
ちょっと軽い気もしたが、気にせず送信ボタンを押した。
二分後くらいに携帯電話が震えた。
「こんにちは、ことはらです。さっそくですが、聞きたいことがあります。書こうとしているジャンルはなんですか。」
雑談も何もなく単刀直入に聞いてきた。
僕は推理小説を書こうと思っているので、正直にそう答えた。ちなみに今書こうとプロットを練っているのは密室ものである。
「推理小説、しかも密室ですか。若いのになかなか難しいジャンルに手を出しますね。今どれくらい練っているのですか?ぜひ聞きたいのですが。あ、勘違いはしないでください。別に盗作しようとかは思っていないです。」
ことはらさんは結構がつがつ聞いてきた。これでは意見交換でなくまるで担当と作家の関係である。しかし盗作するつもりはないという言葉を信じて僕は話す。
「トリックは未完成なのですが…」
そう前置きして話し始める。
「主人公の友人が死体を発見します。状況を調べていくうちに、犯行を行うことができるのは第一発見者の友人だけということがわかるのです。しかし彼はやっていないと言う。それを信じた主人公が、状況を覆していく話です。」
「なるほど。確かに面白そうですがなかなか難しそうですね。ではひとつアドヴァイスをあげます。
明日、朝早く学校に行ってください。」
……朝早く学校に行く?
それがどう僕の小説につながっていくのか全く分からなかったので尋ねてみたが、行けばわかる、とはぐらかされてしまった。
そして僕と、ことはらさんとの初めての会話は終了した。
「一成、さっきから誰とメールしてんの?」と、友人の響京介が聞いてきた。
「俺の交友関係がそんなに気になるか京介」俺も聞き返す。
「まあ、興味ないけど。」
なら聞くなよ…と俺は嘆息した。
別に正直に小説家志望の久我山君とメールをしていますといってもいいのだが、なんのために、と聞かれたときに答え辛かったのでやめておいた。
「ふう、これでまた一つ借金が減ったぜ。」
「え、一成お前借金してんの?高校生の分際でどうしてだよ」俺の小さな独り言にいちいちツッコミを入れてくる京介。
「いろいろあってな。幽霊と暮らしている友人とか、魔王になってしまった友人の世話をするために金が必要だったんだよ。」
どんないいわけだよ。と京介がつぶやく。
本当にその通りだった。バカみたいな言い訳だな。
「で、借金大王琴原一成くんは、どうやって返済しているの?」
「ああ、簡単なバイトさ。」
その間にも久我山君からメールが届いている。へえ、密室ものに挑戦するのか。
俺は頭のギアを一つ上げる。
「あれ? 雪か。」
「ああ、知らないのか? 今夜から明日にかけて記録的な大雪になるらしいぜ。で? どんなバイトをしているんだよ。」
「あー、うん。殺したい人がいる人間に、完全犯罪方法を売りつける簡単なお仕事。」
「へえ、そりゃあ簡単だ。」
俺たちは笑いあう。
ありがとうございました。
いよいよ事件です。