第42話 一撃で圧倒
巻き上がる砂煙の中でピクリとも動かないグレーチームのテロリスト。
何が起こったのか全くわからず時が止まったかのように呆然として固まる選手たち……その中で状況を把握したテロリストが動き出す。
「ッッ!! 何がどうなってんだ! ロード!!」
マシンガンのようなウエポンがロードされた瞬間、太地の2発目が迫る。
ドーン!
「グハァッ!!」
爆音とともに壁に突き刺さるテロリスト。
(二人仕留めた。次だ!)
太地が右脚を軸にターンして敵に狙いを定めようとしたその時、別の選手が射線に重なってしまう。
「あっ! しまった」
すでに最後のテロリストはマシンガンを他の選手に向けている。
(間に合わない!)
「月人!!!!」
『……あぁ、わかってる。焦んな』
テロリストの足元からほんの僅かな閃光が放たれて、パリンという音と共に足首のエンドサーフェイスが割れる。
「なんだと! 一体どうなって……」
手元のウエポンが消え去って焦るテロリストに距離を詰めた太地が渾身のボディショットをぶち当てる。
破壊的な音と同時に吹っ飛ぶテロリスト。
「ふぅ〜。とりあえずクリア……かな」
《ピコン!》
正面のディスプレイに表記された選手名の得点欄に【135点】と表記される。もちろん、六条太地の得点だ。
『うわー!! こ、これは一体どうなったんでしょう⁈ 開始直後に破壊音と共に数十名の選手が脱落! そして六条選手に得点が……95点も加わりました! 河村さん!これは一体……』
『いや、私も全くわかっていなくて……いや本当にすみません、まだ驚きと混乱で状況が整理できていません! 単純に27人の選手のHPを0にしたということでしょうけれど……理解が追いついていません!』
『特にダメージが大きそうな吹き飛ばされてしまった3名の……ん? いずれもグレーチームの選手ですね……これはどういうことなのでしょうか……』
観客は静まりかえっている。母親の早紀子チームを除いて。
「よっしゃー! 太地〜! もっと吹っ飛ばせー!」
『おい、巻き込んじまった奴らもおっ死んだな。まぁ、あれは仕方ねぇから気にするな! どうせ全員片付ける予定だしな』
「うん。月人助かったよ。 ここからは僕だけでやってみるよ! 観客側のローダーのほうも一応警戒しておいてね」
『おう! 母親は必ず守るから安心しろ』
「よし! やるぞ!」
そういって、他チームの選手に近づいていく太地。目の前に立つ選手、新田政次が震えている。
「お、おい……なんだよ今の……や、やめろよ……」
新田の前で立ち止まり、太地が右腕を大げさに振りかざす。
「うわぁ! やめて! ごめんなさい!」
恐怖で腰が抜けて地面に尻をつく新田。そして保護スーツのHPが0と表記される。
『あぁ〜と、新田選手が何もされずにリタイア! そして得点は六条選手だ。河村さん、これはどういうことでしょうか?』
『戦意喪失によるリタイアと保護スーツが判断したのでしょう。その要因となった六条選手の闘志……というか圧力が評価されたのではないでしょうか』
同じような状況が続く。最初の打撃3発のインパクトが大き過ぎてほとんどの生徒の戦意が失われていった。そのポイントはもちろん太地に加わっていく。
《ピコン!ピコン!ピコン!》
スコアボードの表示が目まぐるしく変化している。六条太地の得点欄だけが。
「クソ! 俺は逃げねーぞ!」
獅子王大輔が太地に殴りかかるがヒラリとかわして回し蹴りを入れる太地。
「グハァ!」
そのまま間髪入れずに左右の連打で獅子王をノックアウトする。
《ピコン!》
「さやか……あいつをどう止める? 何か策ある?」
「ロードして左右から挟撃するわよ。瑞穂は死角から狙って。あんな爆撃みたいな攻撃……テロの可能性が高いわ。集中して最初から飛ばして行くわよ!」
「ラジャー!」
残されたのは太地と羽生姉妹の三人。立ち止まる太地を中心に円を描くように動きながら様子を伺う羽生さやか。
「瑞穂いくよ!」
「「ロード!」」
(来た!今だ!)
姉妹のウエポンが装備される間に太地が一瞬で瑞穂との距離を詰める。
「え!」
構えた時にはすでに遅かった……懐に入られて強烈なボディーブローの3連打。そのままリタイアする羽生瑞穂。
「くっ! 瑞穂がやられた? なんてスピードなの!」
バンバンバン!
羽生さやかの砲撃を上半身だけでかわす太地。
「降参してくれませんか? もうそれは当たりませんよ。今日何度も観ているので」
「なんですって……?」
不可解な表情の羽生さやかに近づく太地。距離がどんどん短くなるがさやかの砲撃は当たらない。
そして……
腹部に強烈な一撃をくらって倒れこむ羽生さやか。
《ピコン!》
スコアが380と表示される.。
『試合終了! 勝者、六条太地!』
歓声が沸く。
「おお!」
「やったのですわ〜!」
「みんな行くぞ!」
喜びを爆発させて太地のもとへ駆けよる青川区チーム。
ハイタッチの音がパチンと響く。
太地の一撃を見て早々にリタイアした天月千早が太地をジッと見つめている。
「六条太地……すごいわ……彼ならきっと……」
『河村さん、すごい試合でしたね! 終わってみれば六条選手の一人勝ちでした! 誰も想像できない結果だったと思うのですが、いかがでしょうか?』
『これは……確かに一人で出場ってことでいいですね。ハハハ……』
『それにしても、グレーチームの三人を最初に狙ったことが一番疑問なのですが……』
『そうですね。しかも保護スーツを着ていたとはいえ、大丈夫でしょうか? あの三名だけ強烈な一撃をくらっているのも気になりますね』
ステージから降りて保護スーツを脱ぐ太地。
「月人、そっちはどう?」
『特に動きはねぇな……あれで終わりってのは考えにくいけどな』
「そうなると……やっぱり表彰式の時か」
『……何かあるだろうな。とりあえず、あの三人は拘束したんだよな?』
「うん。成美先輩に伝えた。捕捉してたからあとで尋問かな……エンドサーフェイスもあるし、言い逃れはできないしね」
『……まぁ、その件は後回しだな。今は表彰式に集中しようぜ』
こうして、色祭りのすべての競技が無事に終了した。




