第41話 個人競技「バトルシミュレーション」
『次は最後の課題、個人競技のバトルシミュレーションです! 選手の皆様はまずこちらの競技ルールをご確認ください!』
大型ディスプレイに競技ルールが表示される。
【個人競技「バトルシミュレーション」ルール】
異種格闘技による勝ち残り形式。主催より提供される保護スーツを着用し、競技参加者全員がステージに上がり残り1名となるまで競い合う。出場選手のスタートポジションはクジを引いて決定する。
<保護スーツに関して>
今大会用に開発された保護スーツは打撃ダメージを吸収する特殊マテリアルが全身を覆うように設計されており、身体のどの部分にどのような強さの打撃を加えたかで、一回のダメージを自動算出する。(例:腕に与える打撃と顔面に与える打撃が同じ力量の場合は顔面への打撃の方が数値が大きくなるように補正される。)
選手のHP(体力)は「100」からスタートし、打撃ダメージ加算により「0」になった時点でリタイアとなる。
*攻撃は人体の急所を狙って構わない。
(この保護スーツを着用している間、どんな打撃を受けても身体に怪我を負わせることはないと主催運営局より十分な安全性能を保証するものとする。安心して競技に臨むこと)
*競技途中の自己宣告によるリタイア及び審判員の判断によるリタイアはそこまで獲得した点数が個人の最終スコアとなる。
*武器はメインゲート正面のブースにおかれているものから自由に選んで良い。
競技への参加人数上限は各チーム5名までとする。
得点形式: 5点 / 撃破数
『今から30分以内にメインゲート前の受付で出場選手の申請を行ってください! 1時間後に開始予定です!』
(まだ1時間あるのか……より深く対策を立てられるな)
『河村さん、ここまでルールをご覧いただいて、率直なご意見を伺いたいのですが……』
『そうですね……まず、先の「団体課題」という表記に対して、これは「個人競技」なんですよね。つまり、先の二つは直接の競い合いではなく、「課題」を解いてその採点結果を競い合うという形式。今回の個人競技はまさに直接競い合うという形式。こうしてみると、団体課題Aの意図もあらためて深く考えられているなと感心させられました。最初はどうして「課題」なんだろうって疑問だったんですよ。さすが色祭りの主催ですね」
『なんと! 恥ずかしながら、私は言われるまで全く意識しておりませんでした』
(いや、普通意識しないでしょ。あの河村っていう人、普通じゃないな)
『あとはルール内に関してですが、これはもう保護スーツ様様って感じでしょうかね。私も先ほどスーツを着てみたんですが、あれはすごいですよ。バットで頭殴られても痛くありませんでした』
会場がどよめく。そして選手たちからは安堵した表情が散見される。
(あいつそんなこと試したのか? 頭おかしいぞ。)
月人は河村亮に興味を持ったようだ。
『貴重すぎる体験談、ありがとうございます! これで皆様も安心できたかと思いますので、奮ってご参加ください! これが最後の競技ですから、しっかりと考えて準備してくださいね! 素晴らしい戦いを期待しております!!』
* * *
「さてと……競技内容は変わっていないようだね」
『あぁ、クジで場所が決まったら、保護スーツの性能チェックだ。お前の《《ライフル》》でどれくらいスーツが耐えられるのか俺がチェックしてやるよ』
「ありがとう。助かるよ。全力で行きたいから」
『余力は残しておけよ! 競技終了後の表彰式でもテロが起こるかもしれないからな』
「うん。わかった。コントロールするよ」
その後、参加の申請と共に保護スーツを着用する太地。
「ええっと……着用後にこの袖のボタンを押す……」
シュー……
大きめなサイズでゆったりしていた保護スーツが身体にフィットする。
「おぉ〜ぴったりだ。運動着の上からきているのにごわつかないぞ!」
シュシュッ!
軽く動作確認をしながらスーツの耐久性をチェックする。
『お前が普通に打つ分には問題ないだろ。相手に傷を負わせることはないと思うぜ。俺が打つときは相手を見て力を加減してやるよ。』
「グレーチームの3人には思いきりでかいライフルを撃とう!」
『で、くじはどのあたりを引いたんだ? ステージ中央か?』
「うん。無事に真ん中あたりだ。本来なら狙われやすいポジションで避けるべきだけど、今回は違う。あいつらがどこにいても狙えるポジションだ。開始と同時に仕掛ける!」
* * *
『さぁいよいよ最終課題の個人競技バトルシミュレーション開始です! 各チームの参加選手がステージへ上がってスタートポジションに向かっていきます』
『ん? 青川チームは1人だけ参加でしょうか?』
『そのようですね……登録名簿には六条選手のみが参加し、他の4選手は不参加ですね。これは一体……』
「なんだと……クズのくせに……どこまでも馬鹿にしやがって……」
実況のアナウンスを聞いて更に苛立つ新田政次。
「一人で出場の六条太地……気になりますわ……」
ますます太地が気になっている黒川区チーム天月千早。そして黄山区チームの羽生姉妹が警戒を強める。
「さやか〜、やっぱりあの子ヤバそうだね……」
「多分ね。動きが普通じゃなかったから……テロリストのローダーの可能性が高いわ。瑞穂、一旦合流優先で動いて。二人で六条太地をマークしながら潰していくわよ!」
実況と解説があらためて一人エントリーの青川区チームに触れて話す。
『まぁ……確かに今現在の青川区チームは独走の1位ですからね。他のチームが単独で100点とっても勝てません。「勝ち確」と考えてのことなのか……
しかし、競技にエントリーしている人数は個人参加者46名を含めて、合計98名もいます。保護スーツの性能を確認した選手が安全だと判断して、参加を決めているようで、意外に不参加の選手が少ないんですよね』
『上位の桃山区チームの獅子王選手、黒川区の永井選手や新田選手は前評判では優勝候補ですし、団体課題Aで大活躍だった羽生姉妹もダークホース的存在です! 』
『まさにその通りですね。大量得点をあげるチームが出てくる可能性、むしろ高いと思いますよ。スタートの位置にもよりますが……トップを独走している青川区チームの六条選手はいきなり集団で狙われる確率が高いだけに、チームの作戦としてはちょっと疑問が残りますね……』
『その辺りも注目して行きたいところですね〜! さぁ、各選手がスタートポジションにつきました』
月人はあらかじめ距離をとってロードして、すでにスタジアムの地下にスタンバイしていた。できるなら姿を表さずに事を処理したいという意図がみえる。
幸いにもグレーチームのテロリスト3名は太地を中心に半径20mの範囲に入っている。これは太地の距離だ。
『太地、2時方向のグレーを最初に狙え。一番距離が遠い。その後4時と9時方向だ。フルスロットルで遠慮なく打て! あいつらのエンドサーフェイスは右足首のリング式だ。今の太地でそこを狙うのは無理だから胴体めがけて振り抜け!』
「わかった! もし、間に合わないときは……月人、頼んだよ」
『おう! 任せろ!』
「全体的にチームで固まる事なくバラバラになった配置ですわ。合流する事を優先するのか、各自ポイントを稼ぐのかで全体の流れが変わりますわ」
「う〜ん……でも、それって六ちゃんに関係あるかなぁ」
「いや、東雲それを言ったら……」
「ま、まぁ、僕らは青川区チームとして頑張ってくれる六条君を素直に応援しよう! アハハ……」
「「「……うん……」」」
青川区チームだけが知っている、おおよその結末。いよいよ個人競技が始まる。
審判が大型ディスプレイに映し出される。ピンと張った右腕を真っ直ぐ上げて静止する。
選手が静かに構える。太地は静かに2時方向の標的に合わせて右手握りこぶしを真っ直ぐ後方へ引く。左手の照準がピッタリ重なった。
「possession …… type “arm”」
一瞬、風がフワッと吹き上げて太地の髪が静かに揺らめく。右腕に何かがのったのが伝わってくる。
『 始め!!!! 』
ド――――――ン!
掛け声と共に衝撃音がステージに響き渡る。グレーチームの選手一人が遥か後方の壁に突き刺さっていた。




