第40話 団体課題B 戦術シミュレーション
『さて、皆様!続きましては団体課題B「戦術シミュレーション」です!』
『中央広場に並べられた沢山の体験型のゲーム。なんと今から観客の皆様にも体験していただけます! 大人も子供も関係ありませんよ〜! 制限時間内にご自由に興味あるものから遊んでみましょう!』
実況の滝沢が課題説明や各チームのゲーム内容を簡潔に紹介し、いよいよ団体課題Bが始まった。
太地たち青川区チームは提案したゲーム「武器創造」と「立体戦棋」が複数台置かれたエリアのスタッフブースで待機し、訪れた観客に操作説明をしていた。
「武器創造。かなり子供達から大人達まで幅広くウケてますね! やっぱり自由に簡単に自分の武器をカスタマイズできて、しかもその場で装着できて戦うこともできるなんて、最高ですよこのゲーム! 僕がやるとしたら――」
太地が熱弁する。むしろ太地自身もやりたそうだ。発案者である鏡慎二も満更ではない顔をしている。
スタジアム全体を見まわすと、桃山区チームや黒川区チームが提案している対戦型のゲームが人気のようだ。茶山区チームのリアルとVRの混合アスレチックも子供達の列を作っている。
先ほどの課題Aとは打って変わって、今度はお祭りのような楽しく賑やかな雰囲気で時間が進んでいく。
「お〜い! 太地!」
大きく手を振って近づく見慣れた女性がグループで近づいてくる。
「えっ! あ!」
「おい太地〜アンタが考えたっていうこの将棋さぁ……面白くないんだけど。難し過ぎて無理! ゲームで頭使わせるのダメ!」
「太地君ご無沙汰〜。あのゲーム、ちょっと私たちには難しいけど、おじさんには大人気だよ! あははは」
ハイボールを片手に早紀子がお友達を連れてやってきた。酔っ払いグループが絡んできたようなものだ。
「もしかして……六条君のお母さん?」
葛城が太地に確認する。
「はい……もうかなり酔っ払っていますが、気にしないでください」
「想像と違いますわ……なんというか……」
「お! あなた……権田さん? この前は素敵な贈り物、ありがとうね! あれから毎日が楽しくて楽しくて!」
「あ、あはは……お母様に喜んでいただけてとても嬉しいのですわ」
珍しく押され気味の権田成美。
「贈り物って、何をあげたの?」
葛城が聞く。
「……ハイボールですわ。お好きみたいですわ」
「……なるほど」
「なんか意外だな……六条のお母さん。もっと静かで淡々としている方かと思っていたが……」
鏡慎二がメガネのフレームブリッジをクイッと持ち上げる。
「……大体いつもあんな感じですね」
「いやいや、いい感じのお母さんやと思うけどなぁ〜」
「ありがとうございます……」
「太地君さっきカッコ良かったよ! 頑張ってね!」
「丘の上でビール飲んで応援してるから!」
「あはは……頑張ります……」
ペコリとお辞儀してチーム早紀子を見送る太地。他のチームにも絡んでそうで怖いがそこは仕方がない。酔っ払いでも体験する権利はあるわけだから。
『お前の母さん、どこでも変わらねえな』
月人が笑顔で話しているのが伝わってくる。
「あぁ。それでいいんだ。それが一番いい!」
2時間が経過し、いよいよ採点結果が発表される。
『それでは今から採点結果を発表します!』
そして大型ディスプレイに映し出される。
【団体課題B「戦術シミュレーション」採点結果】
1位 黒川区チーム 107点(A:44点 B:43点 観客投票: 20点)
2位 桃山区チーム 95点(A:42点 B:43点 観客投票: 10点)
3位 青川区チーム 92点(A:44点 B:48点 観客投票: 0点)
4位 茶山区チーム 85点(A:22点 B:13点 観客投票: 50点)
5位 緑野区チーム 78点(A:40点 B:38点 観客投票: 0点)
6位 赤川区チーム 69点(A:41点 B:28点 観客投票: 0点)
7位 橙川区チーム 52点(A:40点 B:12点 観客投票: 0点)
8位 紫川区チーム 48点(A:20点 B:28点 観客投票: 0点)
9位 黄山区チーム 46点(A:20点 B:26点 観客投票: 0点)
*他の2チームは競技不参加。
*各チーム二つのゲーム(A、B)を10人の審査委員がそれぞれ5点満点で評価している。
<ゲーム特別賞>
主催より、豪華景品を授与。
観客人気大賞 茶山区 「VR & R集団アスレチック大作戦」
審査員特別賞 青川区 「立体戦棋」
『さて、河村さん。1位が黒川区チーム、2位に桃山区チーム、3位に青川区チームという結果になりましたが、このような順位をどのように感じましたか?』
『そうですね。まず、大前提として、私も全てのゲームを体験しまして、個人採点させていただいた結果と審査員の方々の採点結果は大体同じ感じでした。その上でのお話ですが、これは審査員評価を狙うか、観客評価を狙うか、その両方をバランスよく狙うかという三つの進め方があったと感じました。
1位、2位チームのゲームはこの戦略がしっかりハマった結果かと思います。一方、審査員評価を対象にして戦略を立てた3位の青川区チームと観客評価を対象にした4位の茶山チームはまさにその極論という感じではないかと思います』
『なるほど。つまり、基本的にバランスよく提案した下位チームのゲームと比べて、コンセプトが明快で突き抜けて片方に評価された3、4位チームのゲーム。そして優秀なバランス型の提案をして両者に評価された1、2位チームということでしょうか?』
『まさにその通りですね。いや〜この優秀なバランス型を狙うって相当難しいですよ。時間もない中での提案だったでしょうし。これは黒川区と桃山区にアッパレと言いたいですね!』
『どちらのチームも一対一の対戦形式のゲームとVRMMOの領土拡大形式のゲームという偶然ですが同じ形式でしたね。どちらも甲乙付け難い素晴らしい作品だと思います』
「くそ〜!! また川区の奴らに負けた!」
2位でも悔しがる桃色区チームのリーダー獅子王大輔。
1位の黒川区チームはハイタッチで笑顔を見せている。その輪の中に新田政次はいない。
「ちょっとさやか! 黄山区が最低点ってどういうこと?」
「……ああいうの苦手なのよね。だからメンバーに任せた」
「……はぁ?……それ先に言っテヘッ!!」
「だから……テヘの使い方……」
『そんな中、戦略的に審査員に刺さるゲームを作った青川区チームの点数をご覧ください。どちらも最高得点レベルです。特に「立体戦棋」は、ほぼ満点の48点ですよ。このゲームほど、観客にウケないゲームはないだろうというくらいに難しいゲームでした。 一部、年配の方からの受けがよかったのでしょうね。将棋教室みたいに座りっぱなしで真剣にルールを知ろうとする方たちで集まってしまって。他の方が触れる機会すらなかったくらいです。
まぁ、機会があっても若い世代は誰もやらないと思いますが』
観客がドッと沸く。
「そうだー!あの将棋ゲーム難しすぎるぞ〜! 面白くね〜ぞ〜!」
早紀子の謎の合いの手に周囲が爆笑する。
(どっちの味方なんだよ。まったく……)
『逆にお子様連れの親子の方々に大人気だった茶山区の「VR & R集団アスレチック大作戦」は見事観客評価でトップの50点を獲得しました。みんなで楽しく遊べて楽しく学ぶというコンセプトが明快でしたね!
ただ、審査員の心には刺さらなかった……』
観客が再び沸く。そして茶山区チームは笑顔でガッツポーズを決める。
『そして今回急遽設立されたゲームに対する賞もまた面白いですね!今河村さんよりご説明いただいた2作品が選ばれました。これは……後ほど商品化の可能性もあったりしますか?』
『いやぁ、大いにあると思いますよ! 1位2位も含めて。私としては主催から授与される「豪華景品」がとても気になります!』
「まさかハイボールか!!!!」
早紀子とその周囲が爆笑している。
青川区チームは3位という結果にかなり満足していた。
「かなりいい結果だと思う。実際、一位と点差がつかなかったからね」
「これでもう青川区の勝ちは確定ですわ。次は個人競技なのですわ!」
「そうだな。団体課題Aでの圧勝が大きいな」
「じゃぁさ、わたしらも出店で焼きそば食べながら六ちゃん応援でいいの?」
4人が振り向いて太地の顔を見つめる。
「そうですね。点差的に余裕がありますし、僕も1人出場のほうがやりやすい部分もありますので、そうしましょうか」
ホッとする青一高のメンバー。何せ彼らには権田のSP前田をブッ飛ばした太地のパンチの記憶が鮮明に脳に焼き付いている。巻き込まれたくないのだ。
「よかった〜。六ちゃんのグーパンの巻き添え食らいたくないからなぁ〜」
「かすっただけでもワタクシなら死んでしまいますわ」
「そもそも女性はあまり参加しないと思うけどね。まぁ、俺と鏡は男だが絶対参加しないけどね!」
「俺もまだ死にたくないしな」
「……いや、別に無差別に攻撃するつもりはなかったですが……でも……それでお願いします……」
こうして青川区の個人競技の出場選手は太地1人に決まった。




