第91話『分断:分解 その3』
「そんじゃー戦いを続けようか!」
ヴァルハラは不敵な笑みを浮かべると、地面を蹴って、私たちに飛びかかってくる。
「分解魔法ッ!」
ヴァルハラの手の周りが、不自然に歪んで見える。
「炎魔法!」
魔法陣に魔力が集中し、勢いよく放たれる。
「はははァ!面白えッ!もっと楽しませろよォ!」
ヴァルハラは手を構えると、ギガフレアを手で覆い込むように掴んだ。
放った魔力は、砂のように風に乗って消えていった。
(急に性格が……どこか、喋り方も変わった……?)
「エレナ、コイツの魔法って」
「分解魔法……魔力で触れたものを分解するらしい」
「原理はよくわからないけど……ね!」
再び魔法陣を展開して、魔力を放つ。
「へはァッ!再構築ッ!」
ヴァルハラの手の中から、視界を覆うような光が放たれる。
「な、なにこれ……!」
「エレナ、危ない」
クロエの声と共に、目の前に巨大な盾が光を遮る。
そして、服の一部が焦げていることに気づく。
「ちぇー、邪魔すんなよーォ!」
ヴァルハラは片手で頭をかきながら、足を震わしてる。
「今の……なによ」
「おそらく、エレナの魔力を分解して、また繋げ合わせた。とかじゃないかな」
「なるほどね……」
(さっきまでと喋り方も、仕草も。まるで人が変わったかのように急に変わった……)
すると、ヴァルハラが地面に手を触れる。
「再構築ッ!」
同時に、地面が激しく揺れ、地が盛り上がる。
「また地震……」
「いや――」
クロエの矛盾魔法の盾が崩れる。
視界の先には、ヴァルハラと――
ヴァルハラの上を跨ぐように、立ちはだかる、巨大な土の塊が。
「未生物を動かすのは初めてだけど……まあいけるっしょォ!」
巨大な足、人間を軽々と握りつぶせる拳。
そして、太陽を軽々と隠すほどの巨体。
「は、はぁ……!?なによこれぇッ!」
「流石にこれはキツい」
超巨大ゴーレムを見つめる。
「よし。アイツらを踏み潰せぇっ!」
沈黙が流れる。
「あれ?なんで動かないんだ」
ヴァルハラはゴーレムの足を蹴るが、びくともしない。
「残念ね!やったこのないことをするからよ!」
魔導書を開いて、魔法陣を展開する。
「あー脳を入れてなかったからかなー」
「けど、今はスタック持ってないんだよな……」
「炎魔法!」
ヴァルハラを目掛けて、魔力を放つ。
「リーマンのところから一匹借りるかー」
激しい爆風と共に、視界が煙に包まれる。
「よし!いい当たり」
「いや、まだ」
すると、目の前の煙が吹き飛ばされ、巨大な土の塊が視界を覆う。
「えっ……」
「矛盾魔法」
巨大な盾が、私と土塊の間に入る。
土の塊が、盾と衝突すると、フルウォールは砕け、魔力の地理となって風に消えた。
「……流石に強度が足りないか」
「けど――」
次の瞬間、消えたはずの魔力が一点に集中し、巨大な剣を形成する。
「さっきの炎魔法と今ので、衝撃は十分たまった」
その剣は、ゆっくりと、音を立ててゴーレムに向かって傾き始める。
「出力的には……過去最高かな」
「矛盾魔法――」
『ドガァァァァン』という、爆発音に近い轟音が響き渡り、激しい砂煙が再び視界を覆う。
「うわ、すげー!でも、そんなもんじゃ壊れないよ」
砂煙がゆっくり晴れると、片腕の欠けたゴーレムの姿が現れる。
「今のでも壊れないの!?」
「おそらく"コア"がある。無機物を動かすには"コア"が必要だからね」
「さぁ?どうでしょうね」
再びゴーレムはゆっくりと動き始めると、もう片方の腕を振り下ろす。
「コアはおそらく、心臓が頭部にあるはず。エレナはゴーレムを相手して欲しい」
「ちょ、そしたらクロエは……!」
クロエはヴァルハラを見つめながら、静かに口を開く。
「大丈夫。良い作戦を思いついたから」
そう言って、クロエは一歩、また一歩とヴァルハラに近づいていく。
「おやおやー?俺と一対一で勝つ気でいるの?」
「いいよ?その意気をぶち壊してあげる」
クロエは背伸びをして、魔導書を開く。
「正直、もう勝ってるようなもんだけどね」
そう言って、私と目が合う。
「エレナがアホしなければ、勝ちだから」
「ちょ、なによ……って、危な!」
真横に小さな土の塊が落ちてくる。
「いや、わかったわ……コイツに勝てばいいのね」
「うん。エレナなら一分もかからないんじゃないかな」
ゴーレムの顔を見上げる。
「わかった。パパッと破壊してやるわ!」
「うん。その意気」
魔導書を開いて、魔力を練る。
体がゆっくり途中に浮き、ゴーレムの顔を直視する。
「さて、始めますか!」
魔導書のページをめくり、魔法陣を展開する。
「炎魔法!」
炎が激しく燃え盛り、ゴーレムの頭部を覆い尽くす。
「土にはあまり炎が効かないから……」
ページをめくり、魔法陣をゴーレムの頭上に展開する。
「物理的な衝撃を与えるのが一番!」
「氷魔法!」
魔法陣に魔力が集中し、巨大な氷塊が形成される。
「さらにさらに」
ページをめくり、魔法陣を展開する。
「水魔法っ!」
魔力が集中し、魔法陣から超高密度の水砲を放つ。
「すごいねー!あんな攻撃喰らったらひとたまりもないよー」
「そうね。けど、あなたは私に集中したほうがいいんじゃない」
そんな会話をしているが、微かに耳に届いた。
「へっ、ビビったって無駄よ!」
水砲により、ゴーレムの頭部を濡らし、柔らかくする。
そして、頭上から降らした巨大な氷塊は、ゆっくりとゴーレムの頭部を潰しながら、落下していく。
それと同時に、体も下からゆっくりと崩れていく。
「ビンゴ!コアは頭部にあったようね!」
ゆっくりと地面に足をつける。
「ナイスエレナ」
「こっちは終わったから、あとはそいつだけね」
一歩足を前に出して、クロエの横に立とうとした。
しかし、クロエは私を一歩後ろに押し戻した。
「私一人で相手するから、エレナは見てるだけでいいよ」
「ちょ、見てるだけって……」
ヴァルハラは呑気に肩を伸ばして、私たちを見つめている。
「そんな調子こいて、負けたら恥ずかしいんじゃないのー?」
「大丈夫。負けないから」
そう言い終わると、ヴァルハラとクロエの間に巨大な盾が割って入る。
「これがさっきの盾かー」
「多分、攻撃を受けたらカウンターする。みたいな感じかなー?」
ヴァルハラはゆっくりと盾に近づいていく。
「分解」
ヴァルハラは盾に手をかざすと、フルウォールは砂のように崩れ落ちた。
「あれ。いない?どこ言った、アイツ」
「後ろだよ」
クロエは私も気づかないうちに、ヴァルハラの背後に回っており、刃をヴァルハラの首にかけている。
「へー!近づいてきちゃうんだ」
「こっちは、触るだけで殺せるのに――」
ヴァルハラの腕がクロエに伸びる。
「クロエ!そいつから離れてッ!」
しかし、私の声が届く頃にはすでに――
「分解」
思わず手で顔を覆ってしまった。
「……は?なんで消えないんだよ」
ヴァルハラの声が響く。
指の隙間を広げて、ヴァルハラを除く。
ヴァルハラの手は確かにクロエの肩に触れていた。
しかしなにも起こらない。
「分解ッ、分解!」
ヴァルハラの表情が変わり始める。
それでも――
なにも起きなかった。
「消えるわけないじゃん」
クロエの声が静かに響く。
「だって、そこには居ないんだから」
クロエが分解されたはずのフルウォールの影から顔を出す。
「ふ、二人ぃ?なんだよこれッ!」
ヴァルハラは顔を引き攣らせながら、触っているクロエを殴り続ける。
「消えろッ!消えろよッ!」
「うるさい」
その言葉と同時に、ヴァルハラの首が宙を舞う。
「……は?」
「あなたはまあまあ強かった。けど、私の方が強かった」
「ッ……バカめ!俺は首だけでも生きて――」
クロエの刃が、ヴァルハラの頭部を貫く。
それは、確実に脳を切り刻んだ。
「脳がなければ、魔法は使えないでしょ」
クロエの静かな声が響く。
「……俺は、死なない」
その言葉は最後まで聞き取ることはできなかった。
「久しぶりに使ったけど、やっぱり魔力消費が激しい」
そう言い残して、クロエは影に落ちていった。
「ちょ、クロエ……!?」
「大丈夫。それは影だから」
背後からクロエの声が聞こえる。
振り向くと同時に、クロエの体がふらつく。
「ちょ……無茶しないでよ」
「無茶してない。ただの魔力不足……」
クロエの体を支えると、そのままクロエは目を閉じて眠ってしまった。
「もう……」
「少しだけだよ?」
――第92話へ続く。




