表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/102

第89話『分断:分解 その1』

【エレナ視点】


〜少し前の出来事〜


「ん……」


肌に冷たい風が当たる。


「うう、寒ぅ……」


冷気に目を覚ます。


しかし、あたりは真っ暗で何も見えない。


「……リリスー!クロエー!」


名前を叫ぶが返ってくる声はない。


それどころか、音すら聞こえない。


「もう……とりあえずあかりを」


指先に魔力を集中させて、小さい炎を起こす。


「うーん……誰もいない」


辺りを見渡すが、霧に包まれており、一切見えない。


それに、霧に包まれている――はずなのに、


どこか、粉のように重い感触がする。


「ひとまず辺りを探索しよう――」


「ねえ君」


突然声をかけられる。


体は恐怖と不安で硬直してしまう。


(人っ……!?完全に気配はなかった……)


「な、なによ……」


振り返らずに、その場で口を開く。


「君ってエレナだよね?前に本で読んだからさ」


(本ってなによ……)


「そう。と言ったら……?」


空気が重く感じる。


「そうだねー」


「殺すかな――」


その言葉を言い終わると同時に、突然霧が晴れて、辺りが明るくなる。


そこは、さっきまでいたはずの"外"ではなく、"部屋"だった。


「そう。じゃあ私も手加減しなくていいわよね」


「構わないよ?結局勝つのは俺だけどね」


勢いよく振り返ると、そこには赤髪の男が立ち尽くしていた。


「強気じゃない。でも、私も強いわよ」


「それは知ってるさ。知った上で勝てるって言ってんの」


男は不敵な笑みを浮かべると、ゆっくりと歩き始める。


「ところでさーなんで君たちここに来たの?」


「なんでって……頼まれたから?」


「へー!おつかいってことか!」


男は機嫌が良いのか、声が高い。


「ところで、アンタは誰なのよ」


「教える必要ある?別に死に行く人間に教える必要はないと思うんだけどなー」


その声と喋り方に、無性に腹が立つ。


「いいから教えなさい」


「まあ別にいっか」


男は頭の後ろで手を組みながら、私の周りを歩き続ける。


「俺はヴァルハラ。ヴァルハラ・リゾットさ。適当にヴァルハラって呼んでくれ」


「ちなみにさ、俺が君を殺したがってる理由ってわかるかい?」


ヴァルハラの声に違和感を覚える。


「わかって何になるのよ」


「いやいや、気にならない?普通は」


その性格。明らかに子供のような喋り方。


「気にならないと言ったら嘘になるけど」


「やっぱりー!じゃあ教えるね」


ヴァルハラはそういうの、小さく跳ねる。


「リーマンが君たちの脳を解析したいらしいんだよね。だから俺はお前の脳を貰う」


「体は飾りかなー」


(趣味が悪い……こんな奴に殺されるくらいなら海に溺れる方がマシだわ……)


「そう。残念だけど、アンタにプレゼントは無しかな」


すると、ヴァルハラは口角をこれでもかというほどにあげて、高笑いする。


「じゃあ俺はリーマンにプレゼントを送るよ!

もちろん中身はお前の脳」


「ラッピングは君の皮で!」


ヴァルハラはその場で屈むと、ズボンのポケットから、何かを取り出す。


「それじゃあまずは様子見かな!」


ヴァルハラは取り出した何かを投げる。


それは、肉の欠片だった。


落ちた瞬間、ぐちゃりと音を立てて潰れる。


「これねー、前に殺してきた肉塊をまとめたもの。動くんだよ?すごくない!」


その言葉を聞き、肉片を見つめると、静かに震え――


ぐちゃ、と音を立てて、形を変え始める。


「っ……!?」


その見た目は、異形そのもの。


脚はタコのような触手。


腕は七本、不規則に生えている。

人間のものもあれば、獣のものも混じっている。


そして――


頭は、見覚えのある竜のものだった。


体の部位全てが違う生き物の物だ。


「まさかあの時の――」


「あの遺跡に1匹出したんだけど、まだ試作品だったからねー」


目の前の光景を見て、思わず拳に力がこもる。


「許せないわ。生命への冒涜よ……!」


「ぼうとく……?わからない言葉を使わないでくれるかなー」


体は勝手に魔導書を開く。


「わかりやすく言ってあげる」


「アンタはクズよ――」


魔導書から魔法陣が浮かび上がる。


炎魔法ギガフレアッ!」


炎が激しく猛ると、火花を散らしながら異形へと向かっていく。


「行けー」


「首だけ残してね」


ヴァルハラは無邪気に笑いながら、私に指を刺している。


炎が異形を包み込むと、雑音に近い呻き声が響き渡る。


「っ……煩わしい」


そうは言いながらも、胸が刺されるように痛かった。


「ギャハハハハハ!おもれー!」


炎が静かに消えると、そこには塵だけが残り、その塵も風に乗って消えていってしまった。


「あ、壊れちゃった。まあそんなもんかー」


ヴァルハラは微かに残った塵を摘み上げると、息を吹いて飛ばす。


「他のやつはリーマンにあげちゃったし……」


「アンタ、本当に人の心がないわね」


魔導書が強く発光する。


「アンタの家族が同じようなことをされたらどうするのよ」


濃い魔力が部屋を漂い始める。


「家族?あー、パパとママはもういないよ」


「だってさっき燃えたもん!」


無意識に、魔導書の一部を折ってしまった。


それほどに――


「じゃあ悲しむ人がいないからいいよねっ……!」


殺意が、込み上げてきた。


地面魔法ギガグランドッ!」


地面に激しく裂け目が割れると、勢いよく地面が盛り上がり、ヴァルハラの足元を捉える。


「ハハハァ!おもしれー!これがオールラウンダーの実力かーッ!」


そう言って、ヴァルハラは地面を蹴り上げると、壁を伝って、一気に距離を詰めてくる。


「死ね!死ねー!」


ヴァルハラはそのまま殴りかかる。


しかし、拳の軌道が未来を見ているかのようにわかる。


「動きが単調すぎるわ。ただ考えなしに突撃してくるなんて」


「ッチ、うっせーなー!仕方ないだろー?俺運動苦手なんだもーん」


ヴァルハラは目を背け、拗ねるような仕草をする。


「よそ見厳禁。ちゃんと相手は目で追わないとね」


魔導書を再び開いて、魔法陣を展開する。


炎魔法ギガフレア――ッ」


激しい光に包まれる。


「うぐ、あっ……あっち、くそっ!」


ヴァルハラの苦しむ声が耳をつんざく。


(うるさい……煩わしいったらありゃしない)


少し経つと、ヴァルハラの声が聞こえなくなる。


「そろそろおとなしくなったかしら?」


ヴァルハラを包んでいた炎が静かに消える。


そこには、黒焦げになったヴァルハラの姿があった。


「うっ……殺す気でいたけど……いざ殺しちゃうとなんか……」


ゆっくりとヴァルハラに近づく。


思わず目を逸らす。


「初めてかな……人の命を奪うの」


ヴァルハラに触れようとしたその時、首がピクリと動く。


「っ……!?まさか生きて――」


距離を取り、魔導書を構える。


「いったー……首取れちゃったじゃん。……てか腕も燃えクズになっちゃったしー」


その光景に、今は口を開いて見ているしかなかった。


「首はなんとかなるけど……あーめんどくさい!また腕補充しないとじゃん!」


首がないその体は、意志があるかのように、落ちた首を拾い上げ、元の位置に押し当てると――


ぐちゃ、と音を立てて繋がった。


「それに馴染むまで時間がかかるんだよー?どうしてくれんのさー」


それに、さっきまで気にしていなかったが、体の至る所に魔力の縫い目がある。


(まさか……っ!)


「てか、目の前に腕あんじゃん」


ヴァルハラは黒焦げになりながらも、私を見て不敵な笑みを浮かべた。


――第90話へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ