第86話『禁忌の大陸』
ボルテカの遥か上空。
さっきまでの地上は、雲に隠されている。
「高〜い。落ちたらひとたまりもないよ」
雷王竜の背中から顔を覗かせる。
「そうね……と、ところでなんで禁忌の大陸に行くのよ」
エレナが問うと、ライミライが静かに答える。
『禁忌の魔物が復活する』
「リヴァイアサン?大陸の名前じゃなくて〜?」
すると、リアルがライミライの代わりに口を開く。
「リヴァイアサン……30年ほど前に突如として現れた不死の魔物だ」
「不死……それって、六戒師での出来事だよね」
クロエが興味深々にリアルに問う。
「ああ、30年前に幼き少女が三大陸の中心に一つの大陸を創り出した」
「その大陸は、とてつもない魔力濃度を持っていた。
一般人は愚か、高等術師でさえ精神を蝕まれるほどだ。
それゆえ、その地は"禁忌の大陸"と名付けられ、立ち入りを封じられた」
突然、空気中の魔力が濃くなったように感じる。
「同時期に周辺海域に謎の大型魔物が大量発生し、漁師や航海士が襲撃に遭うという事件が発生した」
「そこで俺たち……いや、俺はその時にはまだ六戒師ではなかったが、六戒師の重鎮であるマイクやルズ、ファラリス。そしてその弟子達が禁忌の大陸に赴いた」
「そこで目にしたのは大陸と大差ないほどの巨体をした魔物。リヴァイアサン」
「叶わないと悟った六戒師は撤退を命令するが、一人の少女がそれを止めた」
「『倒してみて?』そう言ったそうだ」
ライミライが一瞬体勢を崩し、大きく揺れるが立て直る。
「そこでロ……いや、ある者の弟子がその魔物に立ち向かった」
「その男は独自の魔法体系でリヴァイアサンを最も容易く戦闘不能にした」
「その男の名こそ、ニ猛勇者ドゥケイルだ」
リアルが話し終えると、少し笑顔になった。
「へ〜なんか長くてよくわからなかった」
「そうか。でも、なかなか面白い話だろ」
リアルの言葉にネオンが勢いよく頷く。
「ネオンは相変わらず歴史が好きなのか」
「はい!私は歴史が一番好きです。特に、伝説などの真偽を確信に変えるようなお話が特に!」
ネオンがとても好機嫌でリアルを見つめる。
「ネオンって、お嬢様だけどなんか子供っぽいよね」
エレナが私の耳元でそう呟く。
「ネオン!こっち来て〜」
両手を広げて、ネオンを呼ぶ。
「はい、なんでしょうか」
ネオンは私の方に近寄ると、膝の上に乗る。
「ネオンってさ、機嫌が良い時はなんかヌコちゃんっぽいよね〜」
私がそういうと、ネオンの顔が赤くなっていく。
「べ、別にそんなことないです。私はヌコちゃんほど人懐っこくありません……!」
(モフモフだったら完全にヌコちゃんじゃん!)
すると、ライミライが話し始める。
『もうすぐリヴァイアサンに到着する』
「もう着くの〜!?早すぎでしょ〜!」
どんどん魔力が濃くなっていくのを実感する。
「……てかさ、禁忌の大陸ってさ、高等術師でもやばいんじゃなかったっけ」
「いや、リヴァイアサンの活動が休止するとともに、漂う魔力は減少していってるみたいだ」
「そうなんだ……」
すると、ライミライの顔に一番近い場所にいるアルベドが声を上げる。
「見えたぞ」
その言葉と同時に、全員の視線が前方に向く。
——それは、“大陸”だった。
濃い霧に覆われた、とても大きな大陸。
けれど。
「……なに、あれ」
大地が脈打つように揺れている。
呼吸しているかのように。
突如、喉が詰まるように魔力濃度が一気に濃くなる。
「うぅ、気持ち悪い〜……」
「結構ヤバいわね……ルイン、大丈夫?」
「いや……アタシ、魔力が全然ないから魔力への耐性がぁ……」
ルインがエレナの膝に倒れ込む。
「……ルインはもうダメそうね。戦力にならないわ」
すると、雲がいつの間にか頭上に見えるようになっていた。
『着陸する。しっかりと掴まっておけ』
ライミライが地に近づくと、急に『視線』を感じる。
(誰か、見てる……?)
ライミライが完全に地面に着地し、砂煙が視界を覆う。
「ゲホッ……もっとゆっくり着地してよ〜!」
静寂。
その直後に、砂煙が晴れる。
「みんな〜……」
だが、濃い霧が視界を遮る。
「エレナ〜……どこ〜」
霧の中、大きな声でエレナの名前を呼ぶ。
しかし、何の音も返ってこなかった。
(あれ、さっきまでみんなと一緒に……居たっけ?何か、何かを忘れて――)
突然、近くで足音が響く。
「誰……!」
霧の中に見える影を見つめる。
杖を構えて、魔力を練る。
(エレナ……それとも――)
すると、影が私に気づくと同時に、向かってきていることに気づく。
「ッ……爆破魔法――」
「待て」
ブラストを放とうとしたその時、霧の中からリアルが姿を現す。
「俺だ。安心しろ、ネオンもいる」
リアルの背後から、ネオンが顔を出す。
「あ、ネオンだ」
ネオンと目が合うと、ネオンは一目散に私に駆け寄る。
「リリス様、無事だったんですね」
「うん、もちろん!」
ネオンは私の手を握ると、リアルに語りかける。
「リアル様、おそらく分断されてしまいました」
「ああ、よくわかったな」
リアルは笑みを浮かべると、その場に胡座をかいて口を開く。
「前提として、リヴァイアサンが記憶阻害の魔法を持っていない程で話す」
突然、空気が重く感じる。
「俺たち以外にも魔法使いがいる――」
――第87話へ続く。
4章『リヴァイアサン編』開幕!




