第四十三話 「 追跡 」
怪物を追う箒ちゃん、リン、モジャ。
怪物との距離はグングン引き離されていく。
「見失わないように‥ 。 シルジーメ!!」
リンの杖先から、青白い閃光が怪物めがけて走る。
「せっかく勇者と合流できたのにまた離れ離れなんて‥ 。
この光の糸が、勇者まで導いてくれる‥ きっと」
リンは小さく呟くと、杖を握る手に力を込めた。
モジャは箒ちゃんの気まぐれで振り落とされやしないかと、必死の思いで箒につかまっていた。
(こんな細い棒で空を飛ぶとは。‥ 恐ろしや恐ろしや‥ 。寿命が縮まるわい)
一方の箒ちゃんは、勇者のピンチと聞き渾身の力を振り絞って空を飛ぶ。
「今までの最高速度かもしれない。箒ちゃん、すごいわ!」
「ああああ‥ 安全運転で頼みますぞぉぉ」
リンとモジャの声など耳に入らない箒ちゃん。
一心不乱で飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。
木々生い茂る山の上をビュンビュンと。
ーーやがて
杖先からピンと張り出ていた光の糸が、わずかに緩みだしてきた。
「追跡糸が止まった‥ 。怪物がどこかに着陸したようだわ」
「 ‥ あと少しの辛抱ですな。は、早く地に足をつけたいですぞ‥ 」
『今スグ地ニ足ヲツカセテヤロカ?』
「いやいや、どうかそれだけはご勘弁を!」
「箒ちゃん、意地悪言わないで。モジャは勇者の大切な仲間なのよ」
『 ‥‥‥ チェッ! 』
「な、なんと、箒が舌打ちとはっ!」
「箒ちゃんがこんな性格だとは知らなかったわ。いつも冷静で忠実に飛んでくれていたから」
『恋スルト女ハ変ワルノッ』
「ふむむ‥ 女心とは難しいものですな‥ 」
「 ふふ‥‥ フッわわワワわワーッ!! ほ、箒ちゃん、急にスピード出し過ぎよぉぉーーーっ!!」
「ヒィーーーーーーッ!!急降下ーーーっ!!落ちますぞーーーーっ!」
ーーー 箒ちゃん、恋のフリーウェイ イェイ イェイ!
恋の力は、時として魔力以上の力を発揮するのである。
♢ ♢ ♢
怪物にさらわれた勇者は、上空でブルブル震えていた。
鷲掴みにされ、いつ落とされるかもわからない恐怖。
(いったいどこまで行くんだ?怖すぎてちびりそうだ‥)
時折視界が暗く霞み、何度も意識が薄れかけた。
額にはジットリと冷や汗が滲む。
やがて、怪物は速度を落とし徐々に降下し始めた。
そしてようやく、動きを止めた。
途切れかけた意識が、ハッと引き戻される。
すさまじい音が耳に飛び込む。
――それは、水面を叩きつける激しい水の音だった。
音の方向へゆっくり顔を向けると、少し離れた先、岩壁を引き裂くように巨大な滝が落ちているのが視界に入った。白い水煙が絶え間なく舞い上がる。
(ここは……)
考える間もなく、グラリと体が傾くと同時に
ドサッッッ!!
音を立てて、硬い地面に放り出された。
「ぐへっ……!」
背中に走る鈍い衝撃。だが、背中のリュックサックがクッションとなり衝撃の一部を吸収してくれた。
「やっと‥ 解放された‥ 」
俺はゆっくり上体を起こし、深呼吸をひとつ。
ゴクリと唾を飲む。
黒い怪物は、すぐ目の前にいる。
沈黙したまま、こちらを見下ろしている。
その巨体は、大型トラック二台分以上はありそうだ。
真っ黒い毛に覆われた胴体には獰猛な熊の顔。
黒い翼はカラスのようで、三本の尻尾は狐といった奇妙な姿。
銀色に光る眼光、大きな口の両端に見える鋭い牙。荒い息遣いとともに唾液がしたたり落ちる。
三本の尻尾をユラユラと不気味にくねらせている。
(魔獣の一種だろうか‥ )
怪物の異様な姿に、言葉を失った。
すると怪物は、威嚇するように一度大きく翼を広げると、俺を睨みつけながら言った。
「我は 山樹林神の使い、クラーネ。
侵略者はこの手で‥ 」
「まっ、待ってくれ!俺は侵略者ではない。まずは話を聞いてほしい!」
「 こざかしいっ!我らは遠い昔から、山を守ってきた。
しかし、次第に人間の行動は目に余るようになった。
木々を伐採し、動物たちの居場所を奪う。
ズカズカと足を踏み入れ、自然を壊していく。
" 人間" だけのモノではないこの地を!」
怪物 クラーネは声を荒げた。
「そっ‥ それは‥ 」
「樹木、植物、動物、空気、水‥ それら無くして人は生きられるのか?
山樹林神様の嘆きと怒りを知るがよい!」
「‥それは‥ 申し訳ないと思う。俺ひとりが謝ったところでどうにもならないけど‥。
でも、人間すべてが自然を壊そうとしているわけではないんだ。山を愛し自然を守りたいと思っている人も大勢いる。
ただ‥ 人間は今、それができない状況にある」
「たわけっ!言い訳など聞きたくはないわっ!人間は古からの掟を破ったのだ!」
「ま、待って!その " 山樹林神" 様に会わせてくれ!頼むっ!
その後で煮るなり焼くなり好きにしてくれっ!」
俺は、両脚を勢いよくたたみ姿勢を正すと、丁寧に
土下座した。
誠意を伝えるには、それが良い方法だと思ったのだ。
ーーが、その瞬間、思わぬ事態が起きた。




