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72 ラブラブなカップルフリフリで

「お嬢様!!」


リチャードが息を切らしながら全力疾走してきた。


「リチャード、あなた二階から飛び降りてたけど大丈夫なの!?」

「問題ありません、それより、どうなさったんですか!? あんな大声を出して!」


血相を変えたリチャードにそう詰め寄られて、私は先程のキャサリンとのやり取りを思い出した。






※※※






「お姉さま。本当にリチャード様のことを大事に思うなら、態度で示さないと! もうこれ以上、リチャード様を困らせちゃダメよ! 周りの男達に付け入る隙を与えるのもダメ!」


確かに、キャサリンの言う通りだ。

今までの私は、リチャードに頼るばかりで、彼のことを大事にしていなかった。

だからこそ、皆、婚約者になってくれだの、忠誠を誓うだの、()()()()()()()()()で平気で言ってくるのだ。


逆に考えてみよう。

私の目の前で、リチャードに婚約者になって欲しいと言う女の子が現れたとしたら?


――許せない。よりによって私の目の前でそんなこと言う!? 喧嘩売ってるの!? 舐めた真似しないでよ!


想像するだけでこんなに腹立たしいのに、リチャードは実際にそれをされてもずっと耐えてきたんだ。

こんなの、婿候補としての『従者』じゃない。

ただの使用人みたいな扱いになっていた。

私は、リチャードの前で私にちょっかいかけてくる人に対して、もっと毅然とした態度を取るべきだった。

リチャードに本当に申し訳ない。


「そうね、キャサリンの言う通りだわ!」


私は両手を握りしめながら、はっきりと言った。

キャサリンがそんな私の目を見ながら、大きく頷いた。


「だからね……お姉さま、ちょっと耳を貸して」


言われた通りにキャサリンの方に頭を近づける。


「私、良い作戦を思いついたの」

「え? 何?」

「要するに、お姉さまがリチャード様のことを大事に思っていると言うことを周囲の人達に見せつけてやればいいのよ。そうすれば、二人の間に割り込んでくる人はいなくなると思うの」

「ふんふん」

「でね、来週、大聖堂前の噴水広場で、『永遠の愛コンテスト』があるじゃない?」

「え」

「お姉さまとリチャード様の二人で、それに出るのよ! そして、二人がラブラブであるということを王都中の人達に見せつけるのよ!」



――『永遠の愛コンテスト』とは

大聖堂と呼ばれる美しい教会の前にある噴水広場で、毎年春に行われるイベントだ。

主催は王都の商店街。そう、これは町おこしのイベントなのだ。


集まったカップルたちは、出されたお題を次々にクリアしていくことで、『自分たちが一番ラブラブなカップルである』ということを証明する。

最終的に審査員に選ばれた一組が、その年の『優勝カップル』となり、豪華な商品を手に入れることができる。


(あれ、ちょっとまって、『永遠の愛コンテスト』って、たしか……)


優勝したカップルは必ずゴールインするというジンクスがあり、毎年多くの参加者が詰めかけ大盛況となるのだが。

盛り上がる要因はそれだけではない。

出されるお題が過激なことで知られていて、別名『熱々カップル選手権』だの『イチャイチャ噴水ショー』だのと言われているのだ。


(その、イベントに、出る? 私とリチャードが?)


「ええええええええ!?」





※※※





「お嬢様!!」


先程のキャサリンとの会話を思い出して黙り込んだ私を、リチャードが心配そうに覗き込んできた。

その心配そうな顔を見るなり、頬が熱くなった。

私とリチャードが『熱々カップル選手権』に出る――

鏡を見なくてもわかる。今の私はきっと、顔が真っ赤になっているだろう。


「どうしたんですか? 顔が真っ赤ですよ!?」

「いや、これは違うの!」


熱でもあるんじゃないかと心配したのだろう。

リチャードが私のおでこに手を当てる。


「いやだ、お姉さま、想像しただけでそんな様子じゃ、優勝なんてとてもじゃないけど狙えないわよ!」

「いや、狙ってないから! ていうか、まだ出るって決めたわけじゃ……」


もごもごと口ごもるように言うと、キャサリンがざっと立ち上がり、腕を組んで言った。


「お姉さま、覚悟を決めなさいよ! ちなみに、私は出るつもりですからね!」

「え? キャサリンが? どうして?」


キャサリンは、大きくため息をついたあと、うんざりとした顔になった。


「私とエリオットって、年が離れているじゃない?」

「え? そうね、それが何か?」


(確か、今現在エリオットは26歳だったはずだから、キャサリンとの年の差は……わあお、13歳差!)


改めて考えてみると、かなりの年の差カップルだ。

でも、エリオットもキャサリンも、そんなこと全然気にしてないと思っていたのだけど。


キャサリン曰く。

エリオットとキャサリンの年の差を理由に、お互いに、言い寄ってくる輩がいるのだとか。


キャサリンは学院で、『あなたが学院を卒業する頃、お相手はもう三十路過ぎ。そんな相手は貴女にはふさわしくないでしょう』と近寄ってくる貴族の子息達に悩まされ。

エリオットは夜会で『あんな小娘相手じゃ、貴方も物足りないのではなくて?』と妙齢のご婦人方に迫られる。


「もう、うるさくって限界なのよね。ここらで一つ、派手に見せつけてやるわ!」

「わ、わあお」


凄い気迫。キャサリンの目にメラメラと炎が見えるようだ。


(でも、あれ? ちょっと待って)


「ねえ、キャサリン。だったら、私とリチャードが参加したら、ライバルが増えることになるわよ?」


蹴落とすライバルは少ない方がいいだろうに。

どうしてキャサリンは私にも参加するようにと言うのだろうか。


「ふふっ、いやだお姉さまったら。私とエリオットに勝つつもりでいるの?」

「えっ?」

「悪いけど、優勝するのは私とエリオットよ。でも、参加すればお姉さまとリチャード様だって十分に仲良しカップルであると周囲に見せつけることができるでしょう?」


(まあ、確かにそれはそうなんだけど……でも、やっぱり恥ずかしい)


そもそも。人前でラブラブであることを見せつけるだなんて、貴族令嬢としてアリなんだろうか。

そんな風にいじいじと煮え切らない態度でいた私を、リチャードが心配そうに見つめてくる。


「ああ、もう、お姉さまったら意気地なしなんだから!」


キャサリンが突然叫んだ。


「リチャード様、お姉さまはね、リチャード様がこれ以上馬鹿にされないように、『永遠の愛コンテスト』に出て二人の仲を見せつけようとしてるの。でも、恥ずかしくてリチャード様に一緒に出て欲しいって言い出せないでいるのよ!」


「「えっ!?」」


思わず、リチャードと声がハモった。

キャサリンてば、なんてことを言いいだすのか!!


「お嬢様が、俺と、『永遠の愛コンテスト』に……!?」


リチャードは呆然とした後、急に真っ赤になり、口元に手を当て震え出した。


「『永遠の愛コンテスト』って、あの、『愛は勝つ! ラブラブ頂上決戦』とか『愛のスパーク! カップル爆発コンテスト』とか言われているあの噴水広場のイベントですよね……?」


(えっ? 何それ、そんな呼び名もあるの? 別名が多すぎじゃない? ってリチャード! 鼻血が!!)


震える声でそう言ったリチャードをよく見ると――何てことだろう、鼻血が出ていた。

慌ててハンカチを差し出すが、汚したくないだとかなんとか言って受け取らない。

なので、強引にハンカチを当てながら、言った。


「驚かせてごめんなさい。あの、リチャードがそんなに嫌なら、参加するのは止めるから安心し」

「参加したいです!!」


最後まで言い終わる前に、リチャードががばっと顔を上げて叫んだ。

なんでそんな食い気味なんだ。


「いや、だって、そんな鼻血出すほど嫌みたいだし……」

「違います! これは嫌なんじゃなくて、色々想像してたら勝手に出てきただけです!」

「あああ、落ち着いて、また鼻血が出てきちゃったじゃない!」


リチャードは興奮したせいか、一度止まった鼻血がまたもや出てきた。


「ふふふ、リチャード様ったら、何を想像したのかしら!」

「…………!!」

「ちょっと、キャサリン! リチャードのことからかうの止めて!」


顔中血だらけのリチャードは、真っ赤になってブルブルと震えている。

二階から飛び降りてもピンピンしているリチャードだが、なんだか今にも倒れそうに見える。


「うふふ、じゃあ、決まりね! お姉さまとリチャード様も一緒だなんて、面白くなってきたわ!」


キャサリンが心から楽しそうに笑う。


(こうなったらもう、後には引き返せない。……そうだ、やるしかない!!)


私は唇をきゅっと引き結び、リチャードに向かって言った。


「リチャード、私達も頑張りましょうね!」

「はい、お嬢様! よろしくお願いします!」


お互い決死の覚悟で頷き合う。

こうして私とリチャードは、『永遠の愛コンテスト』に出場することにしたのだった。




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