よき性格な者同士
家に帰ったオレはベットに寝っ転がり天井を見つめ、思考を回転させる。
『鏡夜、今なに考えてるの?』
「藍川楚麻理の攻略のことだよ」
『道筋は見えてるって言ってなかった?』
「見えてるよ。考えてるのは落としどころ」
『どういうこと?説明しなさいよ』
オレが頭の中で完結していたせいで、考えを共有できてないトーカは不満そうだ。
一応説明しておくか。
「じゃあ、最初からな。藍川楚麻理が学校へ来なくなった理由はなんだと思う?」
『そりゃ人間関係でしょ。具合が悪いってわけじゃなかったんだし』
「その通り。で、これはオレの考えだからみんながみんなそう考えられるわけではないが、全員に好かれようとしたら恐らく人間関係はうまくいかない。相手に合わせるばかりだと無理がたたるからな。
ただ、藍川楚麻理は恐らく誰にも嫌われたくないって思いが強いが子だ。常に周りの顔色や様子を窺って周囲に合わせようとしていたし、ほとんど自分の意見を言わなかったからな。だから限界が来たんだろう」
『それじゃあどうすればいいの?』
「考え方を変えるしかないな」
『考え方を変える?』
「そう。『自分にとって大切な人が自分を肯定してくれるなら、その他の意見なんてどうでもいい』。そういう考えであれば、他の誰かに嫌われても気に病むことを軽減できると思うんだよな」
『鏡夜はそういう考え方してるの』
「ああ。オレは自分の好きな人が愛してくれるなら生きていけるな」
ただ、今までの価値観を変えるのは容易じゃないだろう。
それこそ、一生記憶に残るようなインパクトが必要だ。
『そのやり方……アタシは……』
「反対か?」
『……ううん。鏡夜のやり方には口出さないよ』
「そうか」
──藍川をターゲットと決めた次の日。
少しばかり期待はしていたのだが、藍川は登校して来なかった。
「今日も来なかったわね」
「しょうがねーだろ。昨日の今日ですぐに切り替えられるなら、そもそも不登校って状態になってねーもん」
「そうだけど……あまり悠長にはしてられないと思うわよ。こういうのは来ない期間が長ければ長いほど戻ってきづらくなっていくものだと思うし」
「そうなー」
やはりオレの力で登校させるのは厳しいな。
オレでは藍川に対して強制力がないし、なによりも好感度が足りてない。
予定通り協力してもらうとするか。
オレは教室の前の方でしゃべっている櫟井の下へと向かう。
「櫟井。ちょっといいか?」
オレが声をかけたことで周囲にいたクラスメイトは蜘蛛の子を散らすようにそそくさと櫟井から離れる。
最近は大分受け入れてもらえてきているとは言え、こういう状況に直面するとまだオレに対しての警戒心の高さは実感するな。
姫路にいたってはオレを睨みつけてくる始末だ。
ただ、櫟井の表情は全く崩れることなくにこやかなままだ。
思えば櫟井と詞だけは最初からオレに対して嫌悪感や警戒心を表に出すことはなかったな。
「なんだい?」
「藍川さんの家の住所。まだ礼を言えてなかったから。助かったよ、ありがと」
「そうか」
藍川という言葉に教室内が若干ざわつく。
櫟井はチラッと周囲を確認する。
「よかったら場所を変えないか?随分と注目されているみたいだし」
「構わないけど、なにか聞かれたらまずいことでもあんのか?」
オレと櫟井の動向に注目が集まり、教室の空気がヒリつくのを感じる。
廊下の話し声がはっきりと聞こえるくらい教室内は静かだ。
「いや、そういわけではないが……」
「なら別にわざわざ移動する必要ないんじゃないか?オレとしては変に注目されることは慣れてるし」
「そうか」
「それよりも藍川さんのことでオレに聞きたいかことがあるから移動を提案したんだろ?なんだ?」
「……はあー……。湾月くん、君は思ったより意地悪が悪いな」
「自覚してるさ」
「自覚してるってことはわざと俺をこういう状況に追い込んだってことでいいのかい?」
「もちろん。
あの時は言葉の意味が分からなかったが、今ならわかるぜ。つーことであん時の返答だ──受けて立つ!」
周囲の連中はオレの話している内容が理解できずに首を傾げている。
ただ、肝心の櫟井は理解できたようだ。
ここに来てにこやかな表情が一気に真剣なものへと変わる。
「わかった。俺もそのつもりで向き合おう」
「そうしてくれ」
「それで、藍川さんに会えたのかい?」
「ああ。おかげさまでな」
「その割には藍川はまだ学校に来ていないようだが?」
痛いところを。
櫟井の奴もなかなかいい性格してんじゃねーか。
「残念ながら、まだ親密度が足りてないみたいでな。
ただ、いろいろ写真とか見せてもらったぜ。それにいろいろ案内もしてもらった。お前が通っていた中学校にも、図書館、駄菓子屋……それに公園にもな」
公園というワードで櫟井の瞳孔が大きくなる。
「お前が我が身可愛さでウジウジしてんならオレが全ての思い出上書きしちまうから覚悟しとけよ?正義くん」
「……なんでだ?」
「ん?」
「なんでそんなことをオレに報告してくれるんだ?
黙っていた方が君にとっては有利だろ?どういうつもりだ?」
「別に。ただ、テニスではボコボコにされたからな。今度はオレの番ってだけだ。オレは意地が悪いんでな。
──ああそうだ。これだけは言っとくぞ。オレはお前と違って嫌われる覚悟もあるからな?」
オレは櫟井に対して宣戦布告した。
クラスメイトたちも内容はチンプンカンプンでもオレと櫟井の間でなんらかの対立が決まったことは理解できたのだろう。
黙り込んだままオレと櫟井を何度も交互に見ている。
「……鏡夜?」
「どうした、詞?」
「喧嘩はダメだからね?」
「心配すんな。そんなじゃない。ちょっと勝負するだけだ」
「そう……」
想像以上に異様な空気だったのだろう。
オレにはもちろん、櫟井にすらほとんど人が声をかけに行かなかった。
オレは今日も今日とて藍川の家へと向かう。
この日課は藍川が登校するようになるまで変えるつもりはない。
『ちょっと!あれどういうこと?』
「なにが?」
『なんで櫟井くんに突っかかっていったわけ?』
「今日藍川楚麻理が来なかったことでオレが出した結論だ。オレの力では藍川楚麻理が登校できるようにすることは難しい」
『そうなの?』
「ああ」
『櫟井くんならできるってこと?』
「間違いなくな。
藍川楚麻理が来なくなった原因は再三言ってるが人間関係だ。
んで、時期的には思考情報部の合宿の後から二学期が始まるまでの間だ。ただ、少なくともオレや桜ノ宮真姫のせいじゃない。
となると、考えられるのは櫟井正義たち関係だろ。藍川楚麻理が所属しているグループであり、同じ部活の仲間だ」
『ふーん。でもなんで、櫟井くん?他の人だっているじゃん。そもそもあんな突っかかるようなことする必要はなくない?』
「櫟井正義という人間はクラスの中心人物であり、発言力と行動力そしてそれに伴う責任感もある奴だ。
あいつが藍川楚麻理の味方ですと公言した場合、誰ももう藍川楚麻理を攻撃したりできないだろうな。だから、あいつが動く意味は大いにある」
学校に来ない以上、確実に学校内における人間関係が問題だ。
そして、藍川の周りにおいて櫟井以上の力を持つ奴は存在しないからな。なんせテニス部の先輩ですら櫟井相手にはなにも言えないんだから。
「んで、突っかかった理由だが、あいつが負けず嫌いだからだ」
『負けず嫌い?』
「ああ。
よく考えてみろ。自分の土俵であるテニスでトーシローのオレ相手に完封を目指してくる奴だぞ?
しかも、一本取られただけでムキになってくるし。
あれが負けず嫌いじゃなかったら世の中に負けず嫌いは存在しないね。
だから、オレに対して対抗意識を燃やしてくれた方が積極的に動いてくれると思ったんだ」
『はあー。
じゃあ鏡夜が言ってた、テニスのことを根に持ってるとかではないってことね!』
「当然それもある!」
『もう!鏡夜の方こそ負けず嫌いじゃない!』
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の97話です!!
今回は櫟井正義に対しての宣戦布告回!!
男同士のプライドバトル!!
──というわけではないが、バッチバチ!!
次回はクラスの関係に多いな変化が!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




