逆ハーレム!?
オレは藍川家のインターホンを押す。
『今日も出てもらえなさそうね』
「また明日だな」
諦めてオレが帰ろうとした時、ドアがゆっくりと開く。
「湾月くん……」
ドアの隙間から藍川が申し訳なさそうに顔を覗かせる。
「藍川さん!?顔が見れてよかったよ!」
「……ごめんなさい」
オレがにこりと笑うのと対照的に藍川は俯く。
オレへ謝罪する藍川の声は震えている。
罪悪感を感じさせてしまったな……。やはり今日くらいはプレッシャーにもなるだろうし、来ない方がよかっただろうか?
「いや、オレは別に……」
言葉に詰まってしまった。
「別に気にしてない」とか「謝る必要はない」とかは違うよな?かと言って「本当だよ!」的な冗談を言える雰囲気でもないし……。
しばしの沈黙の後、藍川がオレの袖を引く。
「ちょっと来て」
オレは藍川に従ってお邪魔する。
藍川家の電気はすべて消えており、光源は窓から入る光のみだ。
そんな状況も相まってだろうか?藍川の部屋で向き合って座ったものの再び沈黙が場を支配する。
「ご両親がいないのに女子の家に上がるのはなんかアレだな」
「変なことしないでよ?」
「しねーよ!で、どうした?」
「その~……あんなこと言ってもらったのに今日行けなくてごめんなさい」
「おう。さっき聞いたけどな!」
「うん」
三度目の沈黙。
え、すごく軽い冗談で言ったんだけど……怒ってると勘違いされてないよな?
やばい。この空気思ったよりも難しい。
『ちょっと!なんとかしなさいよ!道筋は見えてるとか言ってたでしょ!』
それとこれとはまた話が違うんだよ!
いやいや、思考を止めたら終わりだ。
たとえ間違えても、とにかく前進しなくては!
「あのな、藍川。お前この期に及んで遠慮してんだろ?」
「え?」
「オレには弱音吐いたっていいだぞ?かっこつける必要もないし。
別にそれで幻滅したりとかしないからな。
なんたってオレは、お前の寝起きもジャージ姿もスッピンも親に文句言ってるところだって見てんだから。
弱いところは見せないとか今更だろ?」
「それは……そうかもだけど……」
「だろ?だからほれ!思ってること素直に言ってみ!
笑うかもしれんけど、バカにしたりは絶対にしねーから」
藍川は迷っているようだった。
それでも決心したのかポツリポツリと話し始めた。
「今日というか毎日なんだけど、必ず朝間に合う時間に起きて髪をセットしたり着替えたりしてるの。
……ほんとだよ?」
「疑ってねーよ」
「もっと優しくして」
「へいへい」
「でね、毎日行こうとは思ってるんだけど、いざ学校行こうとするとダメになっちゃう。
このままじゃダメだってわかってるの!
でも……バカにされるんじゃないかとか、私の知らないことがいっぱいで話の輪に入れないんじゃないかとか、あと……久しぶりに行ったら注目されるだろうし、それも恥ずかしい……。
私どうすればいいのかな?」
これは藍川のオレに対する精一杯のSOSだ。
ようやくここまで来た。
「そうだな……オレが朝迎えに来てやろうか?」
「え!?」
「ほら、一人だと意思が揺らいじまうんだろ?だったらオレがその意思を支えてやるよ」
「でも……迷惑になるし……」
「遠慮すんなって言ったろ。
それにな、これは前にも言ったけど、オレが藍川に登校してきてほしいんだ。つまり、朝お前を迎えに行くのはオレのためでもあるってわけだ。
だから気にしなくていい」
「……ありがと」
「まぁ、オレと登校したらさらに注目を集めることにはなるけどな!」
「ええー」
「オレの横を歩くんだ、当然だろ?
だから、目一杯のオシャレで頼むぞ!ジャージとかなしだからな!」
「ふふ。なにそれ。学校にジャージで行くわけないじゃん」
多少は元気を取り戻してくれただろうか?
有意義な時間を過ごしたオレは藍川の家を後にする。
──翌朝。
オレは約束通り藍川を迎えに行く。
だが、ここで想定外の出来事が起こった。
「湾月くん?」
「櫟井!?」
藍川の家の最寄り駅を下りたところで櫟井と鉢合わせしたのである。
「なんで湾月くんがここに?」
「そりゃあ……たぶん同じ理由だろ」
こいつは好都合だ。
「そうか……そうだよな。なら大丈夫だな」
「なんだ。逃げるのか?思ったよりもヘタレなんだな」
駅へ引き返そうとしていた櫟井の足が止まる。
そして、踵を返すと藍川の家へと歩き始める。
オレと櫟井は競うように藍川の家へと向かうと、櫟井がインターホンを押す。
「はーい」
「櫟井です。楚麻理さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「あら!もしかして正義くん!?ちょっと待っててね!楚麻理──!」
藍川家からはバタバタと慌ただしく動き回る音が響いている。
オレは櫟井の様子を確認する。
オレに張り合って勢いでインターホンを押したからか、そわそわと落ち着きがない。
「なんだ?緊張してんのか?」
「他人の家だからな。むしろ君が落ち着きすぎだと思うけど?」
「ここ最近、学校のある日は毎日来てるからな。さすがに慣れた」
オレたちが話していると、ドアが開き藍川が出てくる。
何度も何度も髪を手櫛し、目は泳ぎまくりだ。櫟井以上にわかりやすく緊張しているな。
「あっ……え……えっと……久しぶり……」
「うん……」
あーもう、じれったい!
これじゃあ、なんも進まねーだろ!
「よ!藍川!」
「湾月くん!?ちょ、これどういうこと!?」
藍川はなにがなにやらわからないと言った様子でオレと櫟井を交互に見る。
「そんなに手櫛してると髪がぼさぼさになるぞ。髪が傷む原因にもなるし」
「え、あ、そうだね」
藍川は手櫛はやめたものの、相変わらずもじもじしている。
「立ち話しに来たんじゃねーんだ。藍川の準備が出来てんなら行こうぜ!」
「で、でも……」
「なんだ、まだ日和ってんのか?オレがいるんだし大丈夫だって!」
「そうだね。湾月くんはともかく俺もいる。だから大丈夫だよ」
分かりやすく張り合いやがって。
ただ、さすがだな櫟井。藍川の目が期待でキラキラしている。
もう一押ししとくか。
「そういや、まだ聞いてなかったな。
オレは藍川に学校に来てほしいから今日迎え来たし、味方になると決めた。櫟井、お前はなんで今日来たんだ?」
オレの発言に藍川はもちろんトーカの視線も櫟井に集中する。
「俺は……俺は楚麻理が幸せなら別に学校に来なくてもいいと思ってた。
けど違った。俺も楚麻理に学校に来てほしい」
「これで味方が二人だな。堂々と登校したろうぜ」
オレたちが学校に現れた時の周囲の反応はそれはものすごいものだった。
『すごい注目されてるわね』
当然と言えば当然だろう。
不登校だった女の子が両手に男子を携えて登校してきたのだから。
それも片や学校一好感度が高いと言っても過言ではない男子、片や学校一好感度が低いかもしれない奴という異色の組み合わせである。
この組み合わせに話しかけてこれる存在はいない──と思っていたのだが……。
「鏡夜ー!」
「おう。詞。おはよ」
「おはよ!櫟井くんもおはよ!藍川さん久しぶり!おはよ!」
「お、おはよう」
そういや詞はこういうの一切気にしないタイプだったな。
学校一の美少年である詞を仲間に加えてオレたちは教室へと向かう。
学校内にはすでに久しぶり藍川の登校状況が駆け巡っており、当事者たちが在籍している教室ももちろんのことざわついている。
「おはよー!」
「おはよー!」
櫟井や詞がクラスメイトたちと朗らかな挨拶をし始めたところで、オレはしれーっと離脱し自分の席へと向かう。
こっから先は自然に任せていても大丈夫だろうからな。
オレの目的は果たし終わっているし。別にクラスに馴染みきれておらず、挨拶する相手がいないからじゃないからな!
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の98話です!!
今回は藍川楚麻理の逆ハーレム回!!
学校一のイケメンと美男子、そして主人公!
不登校からの大逆転劇!!
次回はクラスの関係に多いな変化が!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




