びしょ濡れハプニング
があああぁぁぁ!進学校だかなんだか知らないが宿題多すぎだろ!!
3時間近くやってるのに、いまだに一教科も終わっていない。
まぁ、オレの学力がついて来てないのも要員なんだろうな……。
その証拠に桜ノ宮のページをめくる速度はオレの三倍以上は早い。
キュぅぅううキュるるるる
静寂の部室に腹の虫が催促の声を上げる。
発生源である桜ノ宮の顔を見ると耳の先まで真っ赤だ。
「昼過ぎだしな。飯にするか」
「こ、これは違うのよ。忘れてちょうだい」
「別に気にすることないだろ。誰にでも起こる生理現象なんだし」
「フォローしないで。余計恥ずかしくなるから……」
フォローって言うか本心なんだけどな……なんだったらお腹の鳴らしてる女の子ってかわいいまである。彩夜もよく鳴らしてるし。
まぁ、乙女からしたら例え生理現象でも恥ずかしいもんは恥ずかしいか。
「お昼どうする?」
「用意があるのよ」
「用意?」
桜ノ宮のお手伝いさんとやらが作ったお弁当とかだろうか?
それならかなり楽しみだ。
「湾月くん、わたしの鞄にタオルが入ってるから持ってきてちょうだい」
「ああ」
オレがタオルを持っていくと、桜ノ宮は水が跳ねないように氷バケツからゆっくりと足を引き抜く。そして、濡れた足をオレの方に向けてきた。
「……ん?」
「なにしてるの?拭いてちょうだい」
「ええ……」
「口づけしたり、匂いを嗅いだりはダメだからね」
「しねーよ!ったく」
オレは跪いて桜ノ宮の足を拭く。
シミや傷一つない滑らかで細い脚。
これだけきれいな脚はあまり他人に触らせない方がいいと思うんだけどな……。
「いつもお手伝いさんとかにやってもらってんのか?」
「中学生の途中からやってもらわなくなったわ」
「じゃあ、なんでオレに?」
「さっきのお詫びよ。男の人はこう言うので喜ぶドMってあなたが言ったんじゃない」
「いや、全員がそうじゃないからな?」
「じゃあ、あなたがドMってこと?」
「違うけど。あん時はいい景色を拝めたか──へぶっ」
「それ以上言ったら蹴るから」
「……蹴る前に言ってくれ……」
「ご苦労様。じゃあ、ついていらっしゃい」
オレは桜ノ宮と家庭科室に来た。
「ここに用意があるのか?」
「そう。食材は冷蔵庫の中よ」
食材?
オレは冷蔵庫の中を覗き込む。
冷蔵庫の中にはジャガイモににんじん、玉ねぎなどの野菜とかなり値の張る肉、そして大量の香辛料。
「なんで香辛料を冷蔵庫に入れてんだ?」
「え?だってこの暑さでは腐ってしまうでしょ?」
「いや、香辛料の類は乾いた暗所で保管するもんなんだぞ。冷蔵庫だと結露なんかでカビが生えたりするからな」
「そうなの?」
「まぁ、短期的に保存するんなら問題はないからいいけど」
これは嫌な予感がする。
「食材を見た感じカレーだよな?」
「ええ。夏と言ったらカレーでしょ?」
「誰が作るんだ?」
「それはもちろんあなたよ」
やっぱりな。
お手伝いさんの姿も見えなかったし、そんなことだろうと思ったぜ。
はあ~、調理実習の感じからするに桜ノ宮は料理はてんでダメだからな……一人でやるか。
「はい。どうぞ」
「待ちくたびれたわ」
「ええ……」
なに一つ手伝うことなくこの態度とは……大物だな。
実際超が付くお嬢様だから大物なんだけど。
「いただきます」
ただ態度はでかいながらも、オレの食べる準備ができるまで腹を鳴らしても手を付けなかったり、手を合わせて食膳の挨拶したりと、妙に礼儀正しいところもあるんだよな……。
オレの常識では測れん。
桜ノ宮はすごい勢いでカレーを食べていく。
驚異的なペースではあるが、食べ方はとても上品に、そして美味しそうに食べる。
「おかわりいいかしら?」
「はいはい」
そのまま桜ノ宮は三人前平らげてフィニッシュした。
「ごちそうさまでした。流石の腕ね、湾月くん」
「お粗末さまでした」
昼食が終わったオレたちは再び蒸し風呂のような部室に戻ってきた。
「本当にこの部屋暑いわね」
「ちょ!?」
桜ノ宮がいきなり制服を脱ぎ始めたため、オレは手で目を覆う。
「別にインナー着てるから大丈夫よ。あなたの好きな下着が見れなくて残念だったわね。
それと、紳士を装うなら指の隙間はバレないように作りなさい。この変態」
「うっ、うるせー」
「インナー着てるから大丈夫」じゃねーよ!
桜ノ宮、お前は理解してないと思うが、思春期の男子からしたらインナーでも刺激が強いんだよ!
しかも、下がスカートで上が白のインナーとか……桜ノ宮ってでっかいな~……。
じゃなくって!!脳内で季節外れの除夜の鐘が鳴り響かせろー!!煩悩よ去れーーー!!
「も、もう藍川さんの部活が始まった頃かな……?」
「そうね。夏休みってみんな部活で忙しいのね」
「詞は今日から夏合宿だってよ」
「そう。瑠璃花くんて何部ですっけ?あと藍川さんと村雨さんも」
「詞は弓道部だな。村雨は美術部で藍川さんは確かテニス部だったかな?オレらのクラス、テニス部多いよな。確か圷も櫟井も姫路もテニス部だろ?」
「そうなのね。全然知らなかったわ。あなたクラスメイトに興味ないと思っていたけど意外と詳しいのね」
情報は力だからな。
特に人間関係に関しては、ミッションをこなす上で超重要だ。
まぁ、仮に無駄な知識だとしてもないよりはある方がいいしな。
「桜ノ宮が知らなすぎるんだろ。
もちっと周りに興味持ったらどうだ?いろんな人と関わりを持つってのはいいことだぞ」
「お父様と同じようなこと言わないで。
それに全然友人のいないあなたには言われたくないわ」
「ぐっ」
「でも、残念だわ。せっかくだからみんなと一緒に、教え合ったり見せ合ったりしながら宿題やってみたかったのだけれど……」
「オレがいるじゃん?」
「あなたは学力が足りてないから、わたしが一方的に教えるだけになって効率よくなったりしないじゃない」
「う゛っ。宿題写させてくれたりとか……?」
「前回も赤点ギリギリだったんでしょ?自力で頑張りなさい。じゃないとあんたのためにならないでしょ?」
「さいですか」
お昼も食べ、腹も膨れたことでオレたちは再び宿題を再開する。
まぁ、腹が膨れたところでオレの頭がよくなるわけじゃない。
あー、この世から宿題と言う概念なくなんねーかな?
「ちょっと!さっきから全く進んでないじゃない?やる気あるのかしら?」
「オレにはこの学校の宿題は難しすぎるんだよ。なぁ、せめて教えてもらうこととか……」
「ダメよ。そんなことしたらあなたのためにならないでしょ。ただでさえおバカなんだから調べるなりして自力で頑張りなさい」
「うへー」
桜ノ宮の断られ力尽きたオレは机へ突っ伏す。
「もう、しょうがないわね!ちょっとだけだからね」
桜ノ宮はオレの方へと身を乗り出すと、オレの頭をペチンと叩く。
「マジ!?」
「ちょ、急に顔を上げないでちょうだ──うぁわわわ」
桜ノ宮は氷バケツに足を突っ込んだ状態だ。
そんな状態で立ち上がったりなんかしたら──桜ノ宮の体が後ろにのけ反り、床が抜けたかのように机の下へと消える。
グァッシャン!
「桜ノ宮!?」
オレは急いで桜ノ宮の側に駆け寄る。
桜ノ宮が転んだ反動で氷バケツがひっくり返り、桜ノ宮も床もびしょ濡れだ。
「いったー……」
「派手にこけたけど大丈夫……か……」
水を被ったことにより桜ノ宮の白のインナーが、ぴっちりと肌に張り付いた状態で透けている。
インナーも肌も白いせいで黒い下着がより一層際立って、視線を集中させる。
オレは桜ノ宮の胸部に釘付けになりそうな煩悩を必死に押し殺しながら、壊れたロボットのように視線を逸らす。
ワンテンポ遅れて桜ノ宮がオレから距離を取ったのがわかった。
「み、み、見たでしょ!?」
「……」
肯定も否定も許されない質問やめてくれ。
オレは顔を逸らしたまま沈黙する。
「……出て行って」
「いや、そのままだと風邪ひくだろ。ちゃんと拭かないと」
「だから!体拭くから出て行って!」
「はい!」
オレは大慌てで部室を飛び出す。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の72話です!!
今回は桜ノ宮真姫のおっちょこちょい回!!
前回は下、今回は上!!
それと、主要キャラの所属部も判明!!
次回はテニス部の藍川楚麻理に突撃回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




