テニス部に乱入
桜ノ宮に部室から追い出されてしまった……。
あれ、オレは悪くないよな?
『鏡夜のスケベ』
「高校生男子なら正常な反応だ。きっちり目を逸らしただけむしろ理性が利いてる方だろ」
『目に焼き付けた癖に』
「う゛っ。と、とりあえず、桜ノ宮真姫が着替えてる間に行くか!」
『どこに?』
「テニス部」
翁草高校はグランドの横にテニスコートが隣接しており、テニス部はいつもそこで練習をしている。
今日のテニス部の練習は午後からだって藍川から連絡あったし、ちょうどやってるはずだ。
『ほえー。夏休みなのにみんな張り切ってるねー』
「この学校のテニス部は強豪だからな」
まぁ、木陰でサボってる奴らもいるみたいだけど。
「全然だめじゃないの、藍川!!あんたクリアする気あんの!?」
「すみません!!」
怒声の方を見ると藍川がちょうど先輩にしごかれている最中だった。
『きつそうね』
「この暑い中よくやるわ」
見てる感じ藍川は正直上手くない。
全体的に動きが硬くスイングが遅いし、動体視力も悪くボールを追えてない。
なんでテニス部に入ったんだか疑問なレベルだが……まぁ、部活なんてそんなもんか。
「全然、拾えてないよ!」
「すみません。もう一回お願いします!」
「もういい!下がって!」
「はい。すみません……」
藍川は傷心した様子でコートの隅へ下がる。
そんな藍川を女子陣は隠す様子もなく嘲笑しており、男子陣は我関せずといった感じで目にいれないようにしている。
強豪の部活は実力主義であり、弱者が除け者にされやすい環境であること理解もしているし、それが競争心や反骨精神と言った良い面を生むことも理解できる。
ただ、その光景を目の前で見るは……。
「気分わりーな」
オレはコートの隅でしょぼくれている藍川に声をかける。
「あーいかわさんっ!」
「わ、湾月くん!?どうして!?」
「桜ノ宮に呼び出されたから。
それよりさ、さっきのやつって先輩の打つボールを拾う練習?あれ、めっちゃきつそうだね」
「え、あー……違うの。ラリーを30回続けるって練習で……。
私全然ダメダメだから先輩に迷惑かけっぱなしで……いやー、恥ずかしいところを見られちゃいましたな!あはははは……」
藍川はから笑いをする。
ラリーの練習?あれがか?
ラリーの練習ってのは互いが互いの打ちやすいところに球を運んで成立させるもんだろ?
オレの目には先輩はラリーする気があるようには見えなかったけどな。
さっきチラッと見ただけのオレでもわかるんだ。他の連中はもちろん、藍川本人だってわかってないはずがない。
瀬流津の件と言い、うちの学校の運動部はなんでこうかね?
「藍川ー!!いつまで休んでの!?ラリー練終わってないの、あんただけなんだけど!?」
「はい!すみません!」
藍川がコートに入りラケットを構えた時、オレはワイシャツを脱いでコートに乱入する。
「すんませーん」
オレの乱入にテニス部全員がざわつく。
「な、なに?」
「いやー、実はテニスちょっと興味あって、ラリー練習ってやつ?それ、オレにもやらせてもらえません?」
「は?」
「相手は藍川さんでいいですから。まだ終わってないんでしょ?
ほら!上手な先輩が相手するより素人のオレが相手の方がハードル上がって練習になるでしょうし。どうすか?」
テニス部は突然のことに困惑し、互いに顔を合わせている。
そこへ木陰でサボっていた姫路が口を挿む。
「いいんじゃないですか!?やらせてあげても!
その代わり、テニスって結構大変だけど、途中で止めるとかなしにしてよね?」
「いいぜ」
「姫路がそう言うならいいわ。あなたにやらせてあげる」
「どうも。姫路さんもありがとな」
「っふん」
「湾月くん……」
藍川は不安と申し訳なさが入り混じったような表情をしている。
無理もない。ぽっと出の素人とラリー練習だもんな。
「心配すんなって、藍川さん。圷、悪いんだけどラケット貸してもらっていい?」
「え!?ああ、いいよ!」
オレは圷からラケットを借りるとコートに立つ。
テニス部全体が練習を中断して、オレと藍川を取り囲むように集まり注目している。
どいつもこいつも絶対できるわけねーと思ってんだろうな?度肝抜いてやるぜ!
「好きに打ってこい!」
藍川のサーブでラリーが始まった。
藍川の打つボールの精密性は皆無だ。
全くラケットコントロールができておらず、右へ左へとボールが飛ぶたびにオレがコートを走り回って藍川がほとんど動く必要がない場所へボールを返すことにより、なんとかラリーを成立させている状態である。
ぶっちゃけ藍川の練習になってるかと言われたら微妙だが、それでもラリーが続くわけがないと高を括っていた奴らの鼻を明かしてやれたし良しとしよう。
しかし、こいつはキッツいな~。
オレと藍川はなんとか30回のラリーをやり切った。
『すごいじゃない、鏡夜!?周りの人たち全員沈黙状態よ!スカッとしちゃった!』
一番放心してんのは藍川だけどな。
オレはテニスコートに突っ立ったままの藍川に近づく。
「へい!藍川さん!」
「ありがと」
「こちらこそ」
藍川は嬉しそうに笑うとオレとハイタッチをする。
「ふーーー。いい運動になったし、オレはここらでお暇するとするよ」
「待ってくれ!」
オレがテニス部から去ろうとすると櫟井に呼び止められる。
「湾月くん、テニスやっていたのか?」
「昔ちょろっと齧ったことがあるだけだよ」
「今はやってないのか?」
「ラケットに触ったのも久しぶりだね」
「そうか……湾月くん、オレと勝負してくれないか?」
「「!?」」
「ちょ!?マサっち、なに言い出してんの?」
「そうだよ。なんで湾月なんかに!?」
テニス部の絶対的エースである櫟井の言葉にテニス部全員がざわつく。
「周りの連中の言う通りだ。なんでオレと勝負なんだ?」
「正直、この学校には俺の相手をできる人はいなくてね。湾月くん、君ならと思うんだよ」
全員が聞いている中でこの発言。
しかもそれに対して、先輩たちがなにも反論しないところを見るに、櫟井の実力は部内だと間違いなく突出しているんだろうな。
「そいつは買いかぶり過ぎだ。オレなんかじゃ姫路さん相手でも手も足も出ないよ」
「君が謙遜するとは意外だな。周囲の評価などなんのそので、いつも自信に満ち溢れているじゃないか」
え!?オレって外からはそう見えてんの!?
いつも隅っこで大人しくしているつもりなんだけど……。
「それに、さっきのラリー。君は藍川さんの打ち返しやすいところへほぼ完璧に返せていた。あれで自分に実力がないと言うのは無理がある」
「だとしてもだ、オレじゃ全国トップレベルのお前の相手は無理だよ。お断りだ。圷、ラケットありがとな」
「お、おう」
これ以上は面倒くせー。
それに、思った以上にテニス部に居過ぎた。絶対桜ノ宮の奴お冠だよー。
オレは櫟井に背を向けてテニスコートの外へ出る。
「逃げるのか?」
「あ゛あ゛?」
オレは櫟井の煽りに足を止めて振り返る。
「圷、ラケット貸せ」
「え!?おう」
オレは再度圷からラケットを受け取ると、コートへと戻る。
「いいぜ。どうしてもオレとやりてーみてーだし、その勝負受けてやるよ!」
「ありがとう」
今度は櫟井と相対する形でオレはコートへと立った。
『ちょっと!なんで意地になって勝負受けてんのよ!?』
「別に意地になったわけじゃねーよ。オレがここで漢を見せれば藍川楚麻理のテニス部での立場がたぶんマシになるんだよ」
『どういうこと?』
「このタイミングで櫟井の奴がオレに絡んできたのは不自然だ。しかも普段の櫟井らしくないかなり強引なやり方だ。
恐らくなにか狙いがある。
で、その狙いんだが恐らく女子テニス部に対しての男子の発言権確保だ」
『?』
「いびり対象であった藍川を救ったオレは、現状女子テニス部からしたら敵だ。
しかも、自らが攻撃しづらい恐ろしい不良のな!
櫟井はそんな女子テニス部の敵であるオレを倒すことによって、女子テニス部からの恩義を得ると同時に発言権を得ようとしているんだと思うぜ」
『でも、それじゃあ櫟井くんの行為は藍川さんにとっては不利なんじゃ?』
「どうだろうな?
櫟井に発言権があれば藍川へのいびりを止めさせることもできるかもだからな」
『なるほどね。じゃあ、鏡夜は勝たなくてもいいんだ?』
「まぁな。ただ、オレだってやるからには負ける気はねーよ。鼻につく完璧イケメン様に泡吹かせてやるぜ」
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の73話です!!
今回は鏡夜によるテニス部殴り込み回!!
この主人公の本質が不良ぽいのよね。
そのおかげで行動は大胆さ全開!!
次回はテニス部のエースである櫟井正義とテニス勝負!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




