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初恋強盗  作者: 御神大河
62/203

名無しのメッセージ

 ──終業式。

 生徒も先生も用務員さんを除いた学校中の全ての人間が体育館に集合している。

 さて、やるか!

 都合のいいことに終業式は出席番号順に並んでおり、湾月であるオレは列の一番後ろだ。多少イレギュラーな行動をしてもあまり目立つことはない。

 オレは素早くそして静かに列を抜けると、後方の方に立っている女の先生のところへ向かう。


「すみません。トイレに行きたいんですけど」

「後ろの方の扉から静かに出てね」

「はーい」


 よし!脱出完了!

 女の先生に話しかけたのも理由がある。

 男の先生だとついて来られかねないからな。その点女の先生ならその心配はない。

 式中にわざわざ他の先生に指示を仰ぐということはないだろうと思っていたがこれも予想通り。

 上手くいったな。

 ここからは時間との勝負だ!

 本当は体調不良とか言って時間を確保したいところだったんだが、それだと付き添われてしまう可能性があるからな。

 始業式から抜け出したオレは一年二組へと向かう。

 うちの学校は、基本的に学校内の人間を信用しているみたいで校舎内の施錠意識が薄い。

 そのため、どの教室にも入りたい放題だ。オレとしてはありがたい。


「トーカ、誰か来ないか監視を頼む!」

『了解!』


 オレはやるべきことを済ませ、大急ぎで体育館に戻る。


『あんなんで本当に陰浦さん来るの?』

「来るさ!

 陰浦栞がおすすめしてきた作品はどれも、主人公がヒーローに強い恋愛感情を向けられる作品が多かった。

 ヒーローの種類は粗暴なオラオラ系から甘い言葉を囁く王子様系、子犬のように慕ってくる後輩系などさまざまだったが、いずれも共通点があった」

『共通点?』

「ああ。どのヒーローもかなり説教的リードしてくるということだ。受け身のヒーローは一人もいなかった。

 恐らく陰浦の好みなのだろう?

 だから今回はオレもそんなヒーローたちに習ってみた」


 体育館の扉の前で呼吸を整えると、オレは終業式へと戻った。



 終業式終了後、夏休みを目前に一年二組が賑わしくなった。

 どうやらオレの仕掛けが発動したみたいだな。


「『君が来るまで待つ 必ず来い!』だってー!これ絶対誰かに向けたメッセージだよね!」

「でも誰宛てか書いてなかったよね?ちゃんと伝わるのかな?」

「そこはほら!本人たちだけはわかるとかなんじゃない?」

「「キャーーー!!」」

「なにそれ!超ロマンチックじゃん!」

「いいなー。私もあんなメッセージもらいたーい」

「うちもー」

「誰が書いたんだろうねー」

「黒板にでかでかと書くってことは連絡先知らなそうだし、他クラスとかなんじゃない!?」


 黒板に書かれたメッセージは誰が誰に宛てたものなのかという謎もあり、瞬く間に学校中に広まった。

 さすがはゴシップ好きな学校なだけある!これなら確実に陰浦の耳にも届くだろう。


「鏡夜、鏡夜!一年二組に愛のメッセージだって!」

「みたいだな」


 そういや詞もこういう話題好きだったな。


「誰が書いたんだろうねー?」

「さぁな?特定はむずいんじゃないか?」

「筆跡とかで特定とかできるんとちゃう?」

「ボク見てきたけどすごい字キレイだったよー。教科書の字みたいな」

「ほな、書道部とかなんやろうか?」


 字で特定はほぼ無理だ。

 なぜなら、今日のために黒板の大きさを測り、筆跡で特定されないよう型紙を用意したからな。

 その型紙もバラバラに断裁して水に濡らして丸めた後、校舎裏のゴミ捨て場に廃棄済みだ。

 陰浦がバラさない限り決してオレには辿り着くまい。

 まぁ、その陰浦も秘密を胸の内に大事に抱えるタイプだし、大丈夫だろ?


「わざわざ匿名でメッセージを書いたんだ。犯人捜しは無粋ってもんだろ。それに誰が誰に宛てたものなのかわからないからそう言うメッセージはいいんだろ、放っておいてやろうぜ」

「「……」」


 ぶっちゃけあのメッセージを書いた本人としては、広まって確実に陰浦の耳に入ることは望むところだけど、しつこく犯人捜しはされたくない。


「鏡夜ってロマンチストだよね?」

「意外にね」



 学校中を沸き立たせた謎のメッセージとその犯人捜しであるが、ことのほか早く収まりそうである。

 タイミングがよかったかな?

 今は学校が終われば夏休み突入という状況。ダラダラと一学期を延長したいと思う奴は少ないのだろう。

 数人はいまだに犯人捜しを継続しているようだが、ほとんどの奴らが部活へ遊びへと各々、晴れ晴れとした表情で夏休みに突入していった。


「ちょっと待ちなさい!」


 オレが図書室へ向かおうと教室を出たところで桜ノ宮に呼び止められた。


「一学期は終了よ!あなた自分の言ったことを記憶してないのかしら?」

「あー……なんだっけ?」

「一学期が終わったら部活に参加する。そう言ったわよね?」


 言ったけど……今この瞬間から参加ってこと?

 厳密すぎない?


「今日はみんなで部室に集合することになってるわ。来てもらえるかしら?」


 これは断れる雰囲気じゃないか。

 しょうがない。早めに切り上げてもらう方向で行くか。


「へいへい」


 オレは部室へと足を運ぶ。

 部室は夏休みの予定決めで非常に盛り上がっていた。


「あっ、鏡夜!鏡夜は山と海どっちが好き!?」

「え!?うーん……どっちもどっちだな……」

「意外と優柔不断なんだね」

「なー、やっぱプールにせーへん?」


 ん?


「ちょっと待て。これ何の話?」

「夏休みに思考情報部でどっか遊びに行かないかって!それで海か山どっちにしようかって話してるんだ」

「あとプールな」


 まじ!?

 高校生の男女で遊びに行くとかどんな青春だよ!?

 いいのか!?オレがバラ色の高校生活を謳歌してまじでいいのか!?

 と、危ない危ない。浮かれてる場合じゃなかった。


「あー……だったら村雨には悪いんだが、プールはパスで」

「なんでなん?」


 オレの脇腹に刺青にしか見えないハートマークが入ってるからだけど……。

 素直に言うわけにはいかねーよな。

 海とか山なら誤魔化せるかもだが、プールはさすがに無理だ。


「なんかほら、プールとかだと監視員の指示に従わないといけなかったりして自由に遊べないだろ?個人的にはあんまり指図されたくないというか……。

 あとはあれだ!更衣室のぬめっとした感じが好きじゃなくて……」

「あー、わからなくもないかも。こころんはなんでプールがいいの?」

「え!?……安全やし」

「「あー……」」


 わかる。

 安全面で言ったら管理が行き届いてる分ダントツだしな。


「でしたら、いい方法があるのですが……」

「なに?」

「その~、桜ノ宮家のプライベートビーチであればプール付きの別荘もあり好きな方を選んで遊べると思うのだけれど……」

「「プライベートビーチ!?」」


 おいおい。

 お手伝いさんがいるとも聞いてたしかなりの金持ちだとは思っていたが、プライベートビーチって……桜ノ宮って超がつくお嬢様か?


「そんなところいいの!?」

「な、なんか悪い気がして遠慮してまうな……」

「うん……」

「……やっぱりやめた方がいいかしら?」


 遠慮気味の詞たちを見て桜ノ宮がシュンと肩を落とす。

 珍しい……と言うか初めて見た。

 桜ノ宮もそういう姿を見せるんだな。


「いやいやいや、お言葉に甘えさせてもらうわ!せっかくの桜ノ宮さんの好意やしな!」

「そうだね!私も楽しみ!」

「よかったわ!じゃあ、お父様にお願いしておきますね!」

「いつにしよっか!」

「それはまた別の機会にしないか?予定もわかってないし」

「そうね!じゃあ、また今度」


 部活は思っていたよりもずっと早く終わった。

 それと予想外に有意義な時間になったな。

 どうやら、桜ノ宮は自身がお嬢様であることを隠す気はないが、それはそれとして友人に対して金持ちであるからと下手に出られることを好んでいないようだ。

 桜ノ宮もターゲットではあるからな。

 あとでゲームを参考に攻略方法を擦り合わせるとしよう。

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の62話です!!

今回は謎のメッセージ回!!

何度も何度も手紙を送り続けたのがここに来て効いてくる!

そして、思考情報部で遊びの計画!!もしかしたら詞の水着回が!?

次回の舞台は図書室!!果たして陰浦は来るのか!?お楽しみに!


忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。

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