日菜の家凸
オレが玄関を開けると、制服状態の日菜が立っていた。
隣の家なんだから着替えてくりゃいいのに。
「どうした?」
「上がってもいいかしら?」
「今ちょっと彩夜の体調がよくねーんだ。だからまた──」
「そうなの!?彩夜ちゃん大丈夫なの!?」
「ああ。朝よりはだいぶ良くなったと思うけど……」
「会わせて」
「え、でも……」
「合わせて」
「……はい」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言うと、日菜は一度自分の家に帰り、鞄の代わりに果物を持って戻ってくる。
ただの夏風邪の見舞いの品に果物は受け取るのに気が引けるんだが……。
まぁ、果物で確実に足りないであろう栄養を少しでも補えるだろうしいいか。
オレは圧に負けて日菜を自宅へ上げる。
「彩夜~日菜がお見舞いに来てくれたぞー」
「……」
「彩夜?……入るぞ?」
オレはそーっとドアを開けると静かに部屋に入る。
「寝ちゃってるわね」
彩夜はスースーと寝息をを立てて寝ていた。
かわいい。
オレが彩夜の寝顔を眺めていると、日菜が肩を指でトントンと叩いてくる。
「これ、冷蔵庫で冷やしておいた方がいいと思うんだけど?」
「置いてきていいぞ」
「家主でしょ、あんたも来なさい!」
日菜に襟を引っ張られてオレはリビングへ連行される。
「別にオレがいない時でも勝手に冷蔵庫開けてんだろ?いちいちオレに確認取らなくていいぞ?」
「鏡夜がいない時も彩夜ちゃんにちゃんと許可取って開けてるわよ。当たり前でしょ!」
「あっ、そうなの。で、なんの用?彩夜の見舞いに来たわけじゃなかったんだろ?」
「そうだった、そうだった。ねえ鏡夜、あの噂どういうこと?」
ああー、その件か……。
「正直オレも詳しくは知らないんだ。聞いた話だとオレらが幼なじみのこと付き合ってると勘違いしたとかなんとか」
「そうじゃなくて、その噂を鏡夜が必死で否定してたって聞いたんだけど?なに?わたしとカップルだって思われることがそんなに嫌だったってこと?」
え!?そっち?
しかし、どう答えたもんか……。
確か女子とっての男は、好きなタイプの野郎以外道端のクソ以下だって聞いたことがある。
恋人の噂をこっちが否定するとプライドが傷つく。かと言って、恋愛対象外の相手から恋人になって欲しいとか言われると嫌悪の対象となるという話だ。
どうすりゃいいんだよ!詰んでね?
女子も男子みたいに異性からの告白はストライクゾーンから外れていても、ちょっと心が躍るみたいなチョロい存在になってくんねーかな!
「いや、えーっと……」
オレが言い淀んでいると、日菜のスイッチが入ってしまったようだ。
「あーそう嫌ってことね?なに?必死に否定するほど勘違いされたくなかったんだ。ふーん。
……ねえ、もしかして好きな人いるとか?そうなんでしょ!だから勘違いされたくなかったんだ!誰!?どこのどいつ!?」
「ちょちょちょ、ちょっと落ち着けって!」
「わたしは落ち着いてるよ。焦ってるのは鏡夜の方でしょ?
で、鏡夜の好きな人って誰?
噂に出てきた阿雲姉妹のどっちか?それとも陰浦とかいう子?もしかして隣の席の村雨って人?あー、桔梗さんってこともあるのか……」
ちょっと!推理しながら自分の世界に入るのやめってもらっていいですか?
「あの~日菜さん?」
「なに?」
「あの噂を否定したのは日菜の迷惑になるかと思ったからだよ」
「はあ?意味わかんない?どういう──」
再びエキサイトしそうな日菜の頭に手を置き、オレは日菜を落ち着かせる。
頭に手を置くと静かになるの昔から変わってないな。
「ちゃんと説明するから、一旦座れ」
オレはソファーに腰かけると、ポンポンと手で叩き横に座るように促す。
落ちつきを取り戻した日菜は素直にオレの指示に従ってくれた。
「前に日菜が好きな人がいるって教えてくれただろ?
だからさ、ここでオレと日菜が付き合ってるとかいう噂が流れちまうと日菜の恋が実らなくなっちまうと思ったんだ。オレ、日菜の恋まじで応援してるからさ!だから、日菜が嫌とかそういうんじゃないから!」
「ほんとに?」
「ほんとに。オレまじで日菜の恋叶って欲しいと思ってるから!」
これはウソじゃない。
日菜の初恋が実ればミッションが更に進むわけだしな!
「……じゃあ、鏡夜。今からするわたしの質問にウソ偽りなく答えてね?」
「え?」
「いい?」
「はい」
え?なに?怖いんですけど……。
「そろそろ定期テストよね?今回も桔梗さんから誘われたりした?」
「してないけど」
あーそうだー。テスト勉強しないと!
今回も赤点なんてなったら本格的にオレの評価がやばい。
「じゃあ約束通りわたしと勉強するってことでいい?」
「はい」
「ふんふん。陰浦さんは……まぁいいや。阿雲風歌とどういう関係?」
「え?風歌先輩?」
「目逸らさないで!」
「はい!」
なんかよくわからないけど、ウソはつかない方がよさそうだ……。
「先輩後輩だけど」
「仲いいの?」
「それなりに」
「ふーん。それなりねぇ……ねえ、鏡夜。なんで鏡夜の家から阿雲風歌の匂いがしたことがあったのかな?」
え?匂い?
「阿雲風歌、ここに来たことあるよね?なんで?」
「風歌先輩と彩夜が体育祭の時に連絡先を交換したとかでそれで……」
「彩夜ちゃんと……鏡夜も連絡先交換したの?」
「いや、してないけど……同じ学校で連絡先知ってんの日菜だけだし……」
「え!?そうなの!?」
「え、あ、うん」
「ふーん。そっか……わたしだけ……うふふ。質問おしまい!ウソつかずに答えてくれてありがとね!」
「お、おう」
急に終わったな……なんだったんだ?
『いや~、誰か殺されるんじゃないかとひやひやしたよー』
そこまでではないだろ?
すごい圧ではあったけど……。
「鏡夜、さっそくテスト勉強しない?」
「悪いが彩夜の夕食を用意しないといけないんだ」
「そうだったね!ごめんね!」
「いや、こっちこそ」
日菜の用が終わったので、オレは台所に立つ。
「夕飯?なに作るの?」
「プリン」
「へーいいなー」
「日菜も食べるか?」
「いいの!?」
「一人分増えたところで手間は変わらないからな」
『アタシも食べてみたいな……』
トーカの分は……考えておいてやろう。
オレは手早くプリンを作る。
その間、日菜はずっとオレの作業を見ていた。
「これで完成?」
「後は冷蔵庫で冷やして完成」
プリンを冷蔵庫に入れたオレはヨーグルトを買いに行く準備をする。
ほんとはヨーグルトもオレが作ってやりたいんだが、さすがに発酵させるには夕食までだと時間が足りない。
「どっか行くの?」
「買い物」
「一緒に行ってもいい?」
「いいけど、面白くないぞ?」
「うん」
その後の日菜はものすごい圧を放っていた時と一転、非常に機嫌がよさそうに終始ニコニコとしていた。
オレの作ったプリンや日菜が持ってきてくれた果物を彩夜と一緒に嬉しそうに食べ、皿洗いも手伝っていってくれた。
子どもの頃から知ってるが、相変わらず日菜のことはよくわからんな。
日菜が帰った後、昼間に寝すぎたから眠くないと駄々をこねる彩夜をベットに寝かしつけ、オレはリビングで一人ソファーに体を預ける。
『せっかくの空き時間なのにゲームしないの?』
「今日は疲れたからな。少し落ち着きたい」
彩夜の風邪に、学校での噂の対処、日菜の相手と気を張りっぱなしで今日は特に疲れた。
「そうだ」
オレは冷蔵庫からプリンを取り出す。
「トーカ、これ。食べたいって言ってたろ?」
『え!?三つしか作ってなかったでしょ!?どうして?』
「彩夜と日菜とトーカの分だからな」
『鏡夜の分は?』
「オレはいいんだよ。どうせ食べたくなったらいつでも作れるし」
『鏡夜!』
「ん?」
『大好きだよ!』
「……早く食べろ」
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の58話です!!
今回は彩夜による家凸回!!
※全ての女性がタイプ以外の男性をクソ以下だと思ってないし、全ての男性が女性からの告白を嬉しく思うわけではありません!
わかってると思うけど、一応ね(^_-)-☆
次回は友達のために新たな部活を発足!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




