妹の看病
結局、気絶した陰浦は艶縞先生付き添いのもと病院へと運ばれていった。
オレは「陰浦さんが気絶したのはオレの責任だし、最後まで付き添わせてほしい」と言ったのだが、艶縞先生に却下され仕方なく帰宅することにした。
『鏡夜ー!なに、陰浦さんをターゲットにしたの!?急にターゲット設定の通知が来てビックリしたわよ!』
「まぁ成り行きでな……って、オレがターゲット設定したらトーカに通知がいくのか!?」
『そうだよ!あれ、言ってなかった?』
「初耳だよ」
『でもでも、ミッションにあんまり関係ないし、今までそれで困ったこともないでしょ?』
「はぁ~、まぁそうだけど……」
こいつの情報の後出しはいつもの事だし、とやかく言ってもしょうがないか。
「それで、そっちはなにか進展あったか?」
『うーん。噂の方は別に。今の藍川さんの状態じゃ、噂を鎮火するのは難しいんじゃない?』
「確かに……」
くっそ。なんてタイミングが悪いんだ!
『あっ、でも放課後あの三人仲良く話してたみたいだし、村雨さんと桜ノ宮さんの誤解は解けたんじゃない?それと、桔梗さんは残念ながら見かけなったわね』
「そうか……ありがとな!」
噂なんてそう簡単に収まるもんでもないし、時間が解決するのを待つしかないか……。
命が懸かってるからそう長くは待ってられないけどな!
一応、噂に無駄に尾びれ背びれが付かないように、日菜とは学校では出来るだけ接触しないように注意するか。
「トーカ、明日からは陰浦の調査を頼む。と言っても、陰浦に関してはある程度調査済みだけど、一応な。頼りにしてるから!」
『もう、しょうがないな!任せなさい!!』
陰浦の奴、なんともないといいんだが……。
不幸というものは、一度起こると次から次へと降りかかってくるものである。
オレはそれを身をもって体感することとなった。
陰浦がターゲットとなった翌朝。
オレがいつものように二人分のお弁当と朝食を作り、制服にアイロンをかけ学校へ行く準備を整えていると彩夜の部屋から目覚ましが鳴る。
いつもなら何コールかすると、彩夜が眠い目を擦りながら部屋から出てくるはずであるが、どういうわけか今日は一向に出てくる気配がない。
オレは彩夜の部屋のドアを叩く。
「彩夜~?彩夜~?朝だよー?」
「……」
『返事ないわね?』
おかしい。
いつもならオレが起こしに行くと「うっさい!」とか「わかってるって!」とか返ってくるはずである。
しかし、今日はまったく反応がない。
「彩夜?入るぞ?」
オレは一言声をかけると、彩夜の部屋の扉を開ける。
うわー、完全に掃除サボってるな……。
プリントは散らばり、服は脱ぎっぱなし、マンガやゲームも出しっぱなし。
まったくもう!──って、違う違う。
彩夜はまだベットの上で毛布に包まっている。
「彩夜?」
起きてる!?
彩夜は毛布に包まりながら、苦しそうに浅く荒い呼吸をしている。
「彩夜!?」
「……お兄ちゃん?」
「ちょっと触れるぞ?」
オレは彩夜の小さな額に手を乗せる。
すごい熱だ。
「いつから」
「朝」
「そうか。彩夜、とりあえず病院行こうな?」
「学校は?」
「今日は休み。学校には兄ちゃんが連絡しとくから」
「……うん」
オレは日菜の学校へ欠席の連絡をすると、彩夜を病院へ連れて行くため、彩夜の着替えを用意をし、家の前へタクシーを呼ぶ。
「彩夜、着替えられそうか?」
「……うん」
弱弱しく返事をする彩夜だが、毛布に包まったまま動きそうにない。
かなりきついんかな?
「彩夜、着替え手伝うからな?ほれ、毛布から出てきて」
「……うん」
かなり熱が高いのだろう。
大量の汗をかき、シャワーを浴びたかのようにパジャマがピッタリと体に張り付いている。
頭もあまり回っていないのだろう、顔は紅潮し、目はとろんとしている。
「ちょっと待ってろ」
オレは飲み物と体を拭くための水の入った洗面ボウルとタオルを持ってくる。
「むせないようにゆっくりな?」
オレが飲み物を差し出すと、彩夜は小さく頷きゆっくりと飲み始める。
相当水分を欲していたのだろう。かなりの量を一気に飲んだ。
「じゃあ、次は体拭くから服脱いで」
再びコクリと頷くと、彩夜は服のボタンを外す。
そして、上を脱ごうとしたところでピタリと止まる。
「彩夜?」
「……」
彩夜は特になにも言わずにオレに背を向けて服を脱いだ。
オレは彩夜の小さく、白く、そしてきめ細やかな背中、脇腹、腕、脇を決して傷つけることがないよう、赤子に触れるより丁寧に拭く。
「よし、次は前だな。彩夜、こっち向いて」
「……前はいい」
「え?」
「前はいい!」
「へ、あ、そう……じゃあ、足を……」
「足もいい!自分でできる!と言うか、着替えるから部屋から出てって!」
「は、はい!じゃあ、着替え終わったら呼んでな?兄ちゃん部屋の前で待ってるから」
彩夜に怒られ、オレは退散する。
どうやら、完全に目が覚め多少元気が戻ってきたようだ。
めちゃくちゃ心配したが、あれだけ元気があれば重病とかではないだろう。
「……よかったー……」
安堵から声が漏れる。
しばらく待っていると、部屋のドアが開き彩夜が出てくる。
「彩夜、大丈夫か?歩けるか?もしあれだったら兄ちゃんが負ぶってやるぞ!」
「いい。大丈夫だから」
「そうか」
オレと彩夜が玄関を出ると、すでにタクシーが停まっていた。
「は?タクシー呼んだの?歩いて行けるって」
「病人に無茶させるわけにはいかないだろ?今日は兄ちゃんの言うこと聞いてな?」
「もう、大袈裟なんだから……」
オレは彩夜を連れて病院へと向かった。
彩夜は普通の夏風邪だそうだ。
病院から薬を処方してもらい帰ってきたオレは張り詰めていた気が抜け、リビングのソファーに腰を落とす。
『夏風邪なら一先ず安心ね!』
「あ゛あ゛ー」
『鏡夜があまりにも心配するもんだからこっちまで心配になっちゃたじゃない!』
トーカが気分を晴らそうとオレに文句を言ってると、彩夜がオレの方へ寄ってきた。
「ねえ、アニキ。お粥食べたい」
「ああ、任せろ任せろ!作って持っててやるから、その間彩夜はベットで安静にしてるんだぞ」
「わかった」
オレはソファーから飛び起きると、さっそくお粥を作る。
『嬉しそうね』
「彩夜の無事がわかったからな!それに、彩夜から料理のオーダーがあるのは久しぶりだ!」
『本当に彩夜ちゃん大切なのね』
「当たり前だろ。オレは彩夜にアニキだからな」
お粥を作り終わるとオレは彩夜の部屋へと向かう。
「彩夜ー、入るぞー?」
「ん」
ちゃんと寝てたな、偉い偉い!
オレが部屋に入ってくると彩夜はベットの上で体を起こした。
オレはお粥を持ったまま彩夜のベットの上に腰かける。
「兄ちゃんが食べさせてやる。ほれ、あーん」
「自分で食べれるから。机の上置いといて」
「そう言わずに、ほら!」
「ベットに落ちたら汚れるでしょ!机に置いて!」
「はい」
オレはあーんを許されずショックを受けつつも、彩夜に言われた通りお粥を机の上に置く。
「そう言えば、アニキ学校は?」
「彩夜が心配だし兄ちゃんも休むよ」
「ダメ!ちゃんと行って」
「いや、でも──」
「行って!…………迷惑かけたくない……」
オレが彩夜を気にかけているように、彩夜もオレのことを気にかけてくれてるんだな……。
「わかった。じゃあ、兄ちゃん学校行ってくるから、その間ちゃんと大人しくしてるんだぞ?」
そう言いながらオレは彩夜の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「やめて!子ども扱いしないで!」
「ごめん、ごめん。出来るだけすぐ帰ってくるから、行ってきます」
「ん。……ありがと」
彩夜が最後にボソッと呟いた声はとても小さな声であったが、しっかりとオレの心まで届いた。
やっぱり、オレの妹は最かわだ!!
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の54話です!!
今回は妹の看病回!!
鏡夜にとっては妹の彩夜はなによりも大切な存在!
心配し過ぎて「彩夜」と何回言ったでしょう?
次回は遅れて学校へ登校!しかし、なにやら様子がおかしい!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




