二度の気絶
陰浦の様子がいつもと違う。
終始こちらにアピールするように咳払いをしたり、ごにょごにょとなにか呟いている。
ゲームに全然集中できない。
と言うか、どんだけ引っ込み思案なんだよ!
用があるなら普通に話しかけて来ればいいのに、なぜ必死に気付いてもらおうとするのか……努力の方向間違ってるだろ。
オレ別に嫌な顔とか表に出さないからね!目つきが悪いだけだから!
そもそも、大概の男子は女の子に話しかけられるの普通に嬉しいから!大歓迎かつ相談事ならやる気20%増しだから!オレもそうだし!
まぁ、これがコミュ障と言う奴なのだろう……しょうがない。
オレは覚悟を決めて、席を立つ。
オレが席を立つと陰浦は決して目を合わせないが、明らかにそわそわし始める。
やっぱり、オレに用なのね。
さて、なんと話しかけるべきか……。
コミュ障の子との会話は人一倍慎重に言葉を選ばなければならない。
なぜなら、コミュ障だから!!
強い口調やわかりにくい冗談は責められていると勘違いされる可能性がある。かと言って、弱い口調やストレート過ぎる言い方は嫌々対応している、面倒くさがっていると取られる可能性がある。
特に第一印象となる一言目は非常に大切だ。
「陰浦さん、なにか悩み事?オレでよかったら相談乗るよ?」
相手の名前を呼ぶことは必須!
「あなたに話しかけているんですよ」と伝えることができると同時に、「あなたのことを知っていますよ」と相手に興味があることを伝えることもできる。
そして、ただ質問をするだけではなく、その後こちらが相手のために動いてもいいと伝えることも重要!
じゃないと、せっかく出した頭をなぜか引っ込めて、遠慮し二度と出てこなくなってしまうから。
「あっ、えっと…………」
「……」
相手の発言を急かさず、待つことも大切!
会話に慣れてない人はすぐに言葉が出てこない上に、冗談など言った経験が少なく適切な言葉を選ぶのに時間がかかるからである。
それと適度な相槌!多すぎてもダメ!少なすぎてもダメ!
適度に相槌を打つことで、相手に「ちゃんとあなたの話を興味持って聞いてますよ」と言うアピールになり、安心感を与えることができる。
「もうすぐ一学期が終わるでしょ?」
「うん」
「それでその……一学期の間、私……一人も友達作れなくて……」
おいおい。声が震えて今にも泣き出しそうだけど大丈夫か?
泣かれた場合はどうしたらいいんだろうか?胸を貸すべきか?それともその場で見守る?
んーーーわからんが、とりあえず泣かずに頑張れ!
「……でも、親に学校で友達はできたのかって聞かれて……できたよって答えちゃって……」
「うん」
あーあ。見栄張っちゃったのかー!
気持ちわかるわー。特に友達がいないとか微妙に恥ずかしいし、親にも心配かけることになるもんな。
まぁオレはこの前、彩夜に友達がいないから努力してることぶっちゃけたんだけどな!
「そしたら私のお母さんが、今度の夏休みうちに友達連れてきなさいって…………」
「……」
「……」
「なるほど」
泣かずによく頑張った!
できれば、その後に繋がるべき「だから友達になってください!」まで頑張って欲しかったが、今の陰浦には難易度が高いというものだろう。
良しとしよう!!
と言うか、初めてできる友達が野郎でいいのだろうか?こういうのはやはり同性の女の子の方がいいのではなかろうか?
とか言うと確実に我慢してるであろう涙腺が崩壊して、取り返しのつかないことになるよな。……やめておこう。
「じゃあさ!もしよかったら、オレと友達になってくれないか、陰浦さん?実はオレも友達少なくてさ、このままだと夏休みはずっと家で引きこもる羽目になりそうなんだよ。どうかな?」
オレの質問に陰浦は何度もコクコクと頷く。
「よかった。じゃあ、これからよろしくね!」
「よ……よろ、よろよろよろ……よろしくお願いします……」
そんなにどもるか?
オレってそんなに話しづらいのだろうか?
それなのに、そんなオレに遠巻きにとはいえアピールしてくるとは、相当話せる相手がいないんだな……。
陰浦も上手く話せなかったことを自覚しているのだろう。
俯いて顔を見えないようにしてるのかもしれないけど、赤面状態なのバレバレだぞ。
「じゃ、じゃあ、夏休みに!」
「ちょっと待て!!」
場の空気に耐えきれなくなり逃げ出そうとする陰浦をオレは捕まえる。
しかし思った以上に陰浦の体重が軽かった。
体が浮きそうな勢いで陰浦の体が引き寄せられ、その反動で陰浦が受付に山のように積まれた本にぶつかり転倒する。
やばい!!
本は雪崩のように陰浦へ向けて崩れ落ちる。
オレは陰浦に覆いかぶさる。
本がバサバサと音を立てながら、オレの背中や後頭部に降り注ぐ。
本って結構痛いんだな……。
「すまん。怪我ないか?」
「……」
「陰浦さん?」
オレは陰浦に本がぶつからないようにゆっくり体を起こす。
オレが上から退いたというのに陰浦は動く気配がない。と言うか、固まったままピクリともしてない。
「陰浦さん?」
呼びかけても反応がない。
「陰浦さん?」
オレはぺちぺちと陰浦の頬を叩く。
気絶してる!?
まじか!?頭打ったのか!?ととと、とりあえず保健室!?
オレは陰浦を抱きかかえると、保健室へと急ぐ。
保健室に向かう間に何名かとすれ違ったが、今は周囲の目なんて気にしてられん!
後遺症や最悪死亡なんてことになったら……いや、悪い可能性を考えるのはやめよう!!
頼むから大事にはならんでおくれよ!!
「失礼します!!」
オレは足で乱暴に扉を開け、保健室に飛び込む。
「ビックリしたー。保健室では静かにしなさいね。もう!」
保健室には白衣を着た見たことない女性がいた。
「誰?」
「私?私は保健の艶縞よ」
この人がいつも保健室にいない艶縞先生か……噂通り美人だな……。
じゃなくて、今は陰浦だ。
「ちょっとベット借ります!」
オレは保健室のベットへ気絶している陰浦を寝かせる。
「こら!保健室をホテルの代わりに使っちゃダメよ!」
「いや、ちげーよ!」
「あら、そうなの?」
危機感のない先生だな。
普通、抱えられてる生徒がベットに寝かされたら重症かもって焦ったりするだろ?
うちの学校の保健教師は大丈夫か?
「陰浦の奴頭打って気絶しちゃったかもしれん。見てもらえます」
「ちょっと見せて!」
オレが陰浦の容体を伝えた瞬間、艶縞先生の目が真剣なものに変わった。
「この子の体支えてもらえる?」
「了解っす」
艶縞先生は陰浦の身体を確認する。
「血も出てないし、内出血している様子もないけれど、念のため病院に連れて行きましょ!」
艶縞先生はすぐに病院へ電話をかけ始める。
これはもしかしてかなりの大事になる可能性があるのでは?
最近、オレに対しての警戒心が学校全体で薄れつつあるかなーとか思っていたのに、ここにきて善良な図書委員に傷害を負わせたとなったら、オレの評価は以前にも増して地に落ちる……いや、最悪退学の可能性も……。
って、心配すべきはオレのことじゃなくて陰浦のことだろ!
オレは無事を祈るように陰浦の手を握る。
<ターゲット登録完了。リセットポイントが設定されました>
──しまった。
テンパってターゲット設定のこと完全に失念してた。
ずっと気を付けてて、ここ最近この悪魔のコール聞いてなかったのに……。
「う……う~ん……」
「陰浦!?」
オレが絶望していると陰浦の意識が戻る。
殺人犯にならずに済みそうだ!
そうだよ!陰浦が無事ならターゲット設定とか些細なことどうでもいいわ!
「よかった!気が付いたんだな!!」
「へ!?あ、え、湾月くん……」
「おう!平気そうか?」
「は、はい」
「まじでよかったー!!」
オレは安堵と喜びから陰浦を抱き寄せる。
「いやー、マジで無事でよかった!オレのせいで陰浦が死んじゃったりしたらどうしようかと思ったぜ!」
「あ、あ、あ」
「陰浦?」
抵抗することなくオレに抱き付かれていた陰浦が突如変な声で鳴き始める。
やばっ!あまりのことのつい抱擁してしまった。
仮に仲良くても男に急に抱き付かれるとか普通に嫌だよな。訴えられたらどうしよ……。
オレはスッと陰浦から離れようとする。
「うシュー……」
陰浦はオレに肩を掴まれたまま、声にもならない声を上げて再び気絶する。
「陰浦あああああ!!」
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の54話です!!
今回は図書委員の陰浦栞気絶回!!
陰浦栞は重度のコミュ障です。
そして、現在の鏡夜は3人から好かれたという事実と阿雲姉妹とのスキンシップで距離感が微妙にバグってます!
次回はまさかの彩夜の看病回!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




