友人へのアドバイス
調理実習以降、一度も友達どころかクラスメイトのことについても話したことのなかった村雨が楽しそうに友達について話すようになった。
なんでも、桜ノ宮と藍川の三人で話をするようになったらしい。
なぜ、「らしい」と言う伝聞系なのかと言うと、実際にオレが村雨、桜ノ宮、藍川の三人で会話をしている姿を見たことがないからだ。
教室では村雨も桜ノ宮もほとんど自分の席から動くことはなく、藍川も相変わらずカースト一軍に所属している。
ただ最近は──
「なあ!?聞いとる?」
「え!?ああ、すまん。なんだっけ?」
「やから藍川さんのこと。最近、姫路さんとの折り合いがあんまりよーないみたいやから、なんとかしてあげられんやろかっちゅう話」
「うーん。そう言われてもな……オレ、お前らと違って藍川さんと仲いいわけでもないし、姫路さんとも接点ないからな~。と言うか、調理実習以降オレだけ一言も喋ってないし……」
そう、最近クラス内で藍川は姫路に理不尽な対応をされている姿をたびたび見るようになったのだ。
別に無視されたり、仲間外れにされたりといったことが行われているわけではなく、他のメンバーよりも当たりが強い程度のものであり、イジメとまでは判断しかねる。そもそも姫路が惚れている櫟井がイジメのような行為を嫌っているため、ラインを超えることは恐らくないだろう。
それでも、藍川に対しよそよそしい雰囲気があるのも事実だ。
しかも、それがクラス内でも影響力の強い一軍のいざこざとあって、その動向に注目が集まり、クラス全体になんとも言えない微妙な空気が流れている。
「なんやの?喋ってないから関係なってゆうとんの?」
「いや、そうじゃないって。もちろんオレだって、あの様子はあんまりいい気分はしなかったりするけどさ……ただなー」
「ただ、なんやの?」
「そもそも藍川の奴があのグループに固執している以上、部外者がむやみやたらに引っ掻き回さない方がいいだろ?」
「でも……」
まぁ、村雨にとっては一学期も終わりそうというこの時期にようやくできた同性の友達なわけだしな、なんとかしてやりたいという思いが強いのもわからんでもない。
ちなみにオレとしては、村雨、桜ノ宮、藍川の三人が仲がいいというのはあまり好ましくない。
なぜなら、三人の距離が離れていれば離れているほど、情報共有とかの心配もないし、別々に攻略しやすいからだ。だから調理実習では、オレは自分のアピールをするよりも三人が仲良くならないように妨害するべきだったのだ。いい気はしないからそのことを把握していたとしても、実際にやったかはわからんけど……。
まぁ、そんなわけで、オレとしては村雨の依頼に正直応えたくはないのだが……このまま隣の席で不貞腐れられてもかなわないし、なにより藍川が困っている時になにもせず見捨てたヘタレとして村雨はもちろん仲の良い桜ノ宮や藍川の好感度まで急落する危険は避けなくてはならない。
はあ~……しょうがない、ここは協力してやるか。
「そうだな~。村雨が新しい居場所を藍川さんに提供してあげればいいんだと思うんだよね」
「どういうことや?」
「藍川さんの居場所があのグループしかないから、あのグループにしがみつくしかなくて苦しい状態になってるんじゃないかと思うわけよ。なら他の居場所があれば、逃げることができるわけだろ?
別にクラスメイト全員と仲良くしなきゃいけないわけじゃないし、ダメだと思ったらそいつからは離れればいい。ただ、藍川さんは村雨や桜ノ宮さんと違って一人を耐えられるような人間じゃないんだろう。だから、あのグループに固執する。だったら、その必要をなくしてやればいいってわけ」
藍川は人間関係において非常に憶病な女の子だ。
誰からも嫌われたくないのだろう。だから、常に周囲の顔色を窺いほとんど自分の意見を言わないし、話を合わせるために必死に流行りものを勉強している。そして、誰かの悪口を言っているところを見たことがない。
そして、誰かと一緒にいたいのだろう。クラスメイトどころか他クラスの生徒たち全員と打ち解けようとしており、沈黙が苦手なのだろうか?グループのメンバーがいなかろうと常に誰かと会話している。でも、浅く広くの交友関係は深い繋がりを持つのに向いていない。だから、藍川の居場所は交友関係の割に一ヶ所しかない。
そんな性格もあり、傍から見れば抜ければいいじゃんと思うグループでも抜け出せないんだろう。
「なるほど……」
「仲良くしようと言われて嫌な気持ちになる人間はほとんどいないだろうか、気楽に頑張れ」
「そやな。気張ってみるわ!
それと、一つ訂正しとくで。うちかて一人は淋しいんやからな。ただ、あんたと瑠璃花がおったから問題なかっただけや、ボケ!」
そう言うと、村雨は早速桜ノ宮の席へと向かっていった。
『あの三人の距離が近いとミッション達成が大変になりそうだけど、よかったの?』
「……よくはないな」
『もう!これからどうするの?初恋ゲージの貯まり方的にあと三人は初恋成就させなきゃよ?』
「そうだな~。とりあえず、オレと日菜が付き合ってるって言う噂が解消されているかの調査だな。あとは、放置してた桔梗律の様子も見ておくか……」
つってももうじき夏休みだし、本格的な攻略は二学期からだな。
あーあ。夏の暑さで恋心も熱くなって、夏休み明けには日菜と桔梗の初恋が成功しちゃってましたとかならないかな~。
オレはいつも通り、図書室へと足を運ぶ。
ターゲット設定はしてないが、一応陰浦栞の様子は確認しておきたい。
もしかしたら、どこぞの男子といい感じになってるかもしれないからな!そん時はしれーっと握手さえできれば手間なくミッション達成だ。
「じゃあ、噂解消の調査頼むぞ!ついでに桔梗律がいたらその様子も見といてくれ」
『ねえ、コンビニに買い物行って来てーみたいな感じで頼んでるけど、アタシにちゃんと感謝してくれてる?』
「してるに決まってるだろ?」
『ほんとに?』
「ほんと、ほんと」
『言葉にしてくれないと伝わらないんだけど?』
ん~なんなんだ?
そんなにテキトーに頼んだように聞こえたんだろうか?
まぁ、たまにはちゃんと感謝を伝えた方がいいか。
「いつもいつもありがとうな!すごく助かってるよ!」
『愛してる?』
「……愛してるよ、トーカ」
『ふふん!』
満足してくれたのだろうか?トーカは機嫌良さそうに調査に行った。
なんだったんだ?
トーカの調査待ちのオレはいつもの如く図書室でゲームを取り出す。
今回プレイするゲームはヒロインがイジメを受けている描写があるという話の恋愛ゲーム『華クサレタ心』である。
桔梗も藍川もその手の状況に陥りそうな状態だから参考になるかもしれない。
……と思ったんだが、ちょっとテイストがホラーゲームのような恐ろしいパッケージなのだが、大丈夫だろうか?
オレは静かにゲームをし始める。
が、今日は図書室がいつもと違い静寂に包まれていない。
「ウッ、うん。ど、どうしようかな~……ウッ、うん。ケホケホケホ」
陰浦がずっと咳払いをしている。
最初は風邪なのかとも思ったのが、どうも咳払いが嘘くさい。
ゲームしてるオレを遠巻きに注意している……ってわけでもないよな?一学期の間ずっと図書室でゲームをやり続けてたわけだし、今更注意と言うのも……。
ゲームの音がイヤホンから漏れているわけでもない。
と言うか、陰浦はなにやらこちらの様子をチラチラと見ている。
いつも通り目が合うとサッと目を逸らすのだが、いつもと違い目を逸らした後に読書に集中するのではなく、「う~ん、う~ん」と唸ったり、「どうしようかな~」とぶつぶつと呟いている。
普段と変わらず、図書室にはオレと陰浦以外に人はいないし、もしかしてだが、オレに向かってなにやらアピールしてる?
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の53話です!!
今回は困っている藍川楚麻理を助けたい村雨心和へのアドバイス回!!
村雨心和はこの後どうするのか?
そして、なにやら陰浦栞の様子が!?
次回は陰浦栞回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




