空気読み
オレが洗い物をしている間に、女子三人は仲良く先生に調理実習完了の報告をしに行った。
『一緒に行かなくてよかったの?』
「いいだろ、別に。それに、報告にくっついて来られるより、洗い物してもらえる方がいいだろ」
『わかってないな!洗い物をした方がいいのは鏡夜的に効率がいいからでしょ?こういう時、女の子は効率じゃなくて一緒に行動したいものなのよ!』
「え、そうなの!?」
洗い物やってくれる方が嬉しいと思うんだが……。
まぁ、確かにオレも好感度を稼ぐために簡単なホイル焼きじゃなくて、手間のかかる照り焼きにしたもんな。効率のいい方が好まれるというわけではないか……今度から気を付けよう。
「先生に報告してきたよー!報告用の写真を取ったら、自由に食べていいって!」
「早く食べましょ!」
「オレ飲み物持ってくるわ!先食べててもいいぞ!」
「なに言ってるの?あなたがメインで作ったんでしょ?わたしが取ってきてあげるわ。それと、せっかくみんなで作ったのだからみんなで一緒に食べた方がいいに決まってるでしょ!待ってなさい!」
「お、おう」
これがトーカが言ってた女子は一緒に行動したがるってやつか……。
「うち、飲み物手伝うわ」
「お願いするわ」
桜ノ宮の計らいによってオレと藍川は待機することになった。
せっかくだしこの機会に藍川と仲良くなりたいのだが……藍川のことほとんど知らねんだよな……。
何を話せばいいのやら。
オレが悩んでいると藍川の方から話しかけてきてくれた。
「湾月くんてさ、思ってた人と違うね?」
「そうなの?まぁ、藍川さんがオレのことどう思ってたか知らないんだけど」
「怒らないでね?怖くて不真面目でチャラい人だと思ってたの。だけど、怖くないし真面目だし、しかも料理までできるしでビックリしちゃった!」
「待て待て、チャラい?てか、チャラいは修正されてなくない!?」
なんでチャラい!?
怖いとか不真面目とかは、目つきやら授業態度やら理解できるんだけど……。
「だって、一組の英さんと付き合ってるのに、阿雲先輩たち両方を手籠めにしてるとか聞いたし、実際阿雲先輩と教室でイチャイチャしてたし」
は?
「いや、ちょっと待て!なんだその話!?」
「え、違うの?一年生の中で噂になってるけど」
「まじ……」
まずい、まずい、まずい。
それは、まずいだろ!!
そんな噂が広まったら攻略に支障をきたすどころの話じゃない!!
それに、オレの攻略が行き詰まるのもそうだが、日菜の初恋の方にも影響が出ちまう!
なんとかここでその噂は修正しないと!
「その噂、全然違うぞ。まずオレと日菜は幼なじみであって、恋人ではないからな!」
「へー幼なじみなんだー!だから仲いいんだね!」
「いや、仲も別によくないと思うんだが……中学ん時はまったく会話なかったし、高校になってまたちょっと話すようになっただけだぞ。それと、阿雲先輩たちを手籠めにしてるってなに?オレそんなことしてないんだが……」
「体育祭実行委員の人からずっと両手に華状態だったって聞いたし、それに教室でもイチャイチャしてたじゃん」
「あれはオレが体育祭実行委員の手伝いしてたから後輩としてからかわれてただけで、事実体育祭終わってからは来てないだろ?」
「……確かに」
「な!その噂違うんだって!オレはさっき藍川さんが言ってくれた通り至って真面目だし、出来る限り波風立てることなく静かに学校生活送りたいのよ。だから、その~噂をさり気なく訂正してくれないか?」
「ええー。自分でやってよ」
「いやいや、噂の本人が噂を訂正しようとすると、なんか必死に誤魔化そうとして逆に怪しいじゃん?
それに、オレと日菜が付き合ってるって噂が流れてんだろ?それなのに、オレがその噂を訂正してたら日菜の奴をオレが嫌ってるみたいになって向こうもモヤッとするだろ?」
「それはそうだけど……」
「な!」
「わかった。じゃあ、噂が違うってことはみんなに伝えてあげる」
「ありがとー!!」
助かったーーー!
藍川は人脈も広いし、コミュニケーション能力の高いからな!これで、謎の噂は落ち着くだろ。
ったく、誰だか知らんが厄介な噂を流しやがって、こっちは命が懸かってんだぞ!勘弁してくれ!!
「楚麻理、あんた不良の湾月と楽しそうにやってんじゃん!」
オレが噂の解消を約束してもらい安堵していると、藍川に客がやってきた。
「あっ、透ちゃん。どうしたの?」
「どうしたのってさー。あんた、透と同じ班になりたがってたくせに、結局一回もこっちの班に顔出しに来なかったじゃん?やっぱ口だけってこと?」
うわー、めんどくせー。
仲良し女子グループってこんな感じなのか?
彩夜は学校で大丈夫なんだろうか……結構我が強いからな……心配だ。
「そんなことないよ、ごめんね。料理に集中しちゃってて……そうだよね、顔出せばよかったよね!?」
「まぁ、別にいんだけど。てか、透たちのこと忘れて料理に没頭してただけあって、めっちゃ美味そうじゃん!ちょっとちょうだいよ!」
そう言うと、姫路が藍川の前に置かれている焼き味噌の入った小鉢を取り上げる。
小鉢を取られた藍川は慌てた様子で取り返そうとする。
「ちょっと!それはみんなと一緒に食べる約束をしてるやつだからダメ!」
「は?なに?ちょっとちょうだいって言っただけじゃん。なに必死になってんの?意味わかんないんですけど!?」
「ご、ごめん。でも、それはまっきーとこころん、あと湾月くんと一緒に作ったやつだから……」
「あっそ!」
「なにやっているのかしら?」
最悪のタイミングで桜ノ宮の奴が戻ってきやがった。
桜ノ宮と姫路って理由は知らんが仲が良くねんだよな……嫌な予感しかしない。
「それ、藍川さんのよね?なぜ、姫路さんが持っているのかしら?」
「は?別にあんたに関係なくない!?」
姫路が桜ノ宮を睨みつけるのに対し、桜ノ宮は見下したような態度である。
いや、正確には涼しげな表情をしているだけで、別に相手を見下してるわけじゃないんだろうが、傍から見るとどうしてもね。
あの~お二人とも、注目の的になってるのでやめてもらっていいですかね?
二人の間に剣呑な雰囲気が流れ、周囲が行く末を見守っている。
色増先生は……ダメだな。どうしたらいいかわからず、一人あわあわしている。
すると、この二人を止めることの出来る勇者が現れた。
「どうしたんだい?」
「正義!」
「姫路さんが藍川さんの料理を持っていたから質問しただけよ」
「だから、見せてもらっただけだって言ってるでしょ!」
「あなたには関係ないとしか聞いてないのだけれど?あなた、自分の発言を覚えていないのかしら?自身の発言があやふやだと信用を失うから気を付けた方がいいわよ?」
「なに?喧嘩売ってんの?」
二人の間に一触即発のピリッとした空気が流れる。
おいおい。これが本当に女子同士なのか?すごい迫力だけど……。
と、とりあえず、ここは男であるオレがバシッと仲裁するか。
「まぁまぁ、落ち着きなよ。要は作った料理が美味しそうだったから味見したくなっちゃったってだけだろ?嬉しいことじゃないか!」
「あら。見てただけじゃなかったの?姫路さん、食い意地がはってるじゃない?」
あ!しまった!
「そういう意味で言ったんじゃないから!オレの発言を悪印象に変えるのやめてくれない?あっ、オレのでよかったらどうぞ」
「いらないわよ!!」
あーあ。行っちゃったよ!
これじゃ、オレが最後に怒らせたみたいじゃん!
「湾月くん、君に悪意がないのはわかるけど、もう少しデリカシーを持った方がいい」
「……はい」
櫟井もオレにそれだけ注意すると、自分の班へと帰っていた。
同級生に普通に怒られたんだが……ショックだ……。
てか、オレの発言怒られるほどデリカシーなかったか?結構気を使ったと思うんだが……。
「よくやったわ、湾月くん」
「オレは普通に仲裁しようとしただけで、姫路さんが食い意地がはってるとか思ってねーからな?」
「あら、そうなの?」
白々しくとぼけやがって……桜ノ宮の奴、若干性格に難あるよな。
これ以上、クラスで嫌われたらどうしてくれるんだ!
「ごめんね、私のせいで……」
「別に藍川さんのせいじゃないのだから、謝る必要ないわ。ただ、藍川さんもきちんと主張した方がいいわ」
「私、まっきーほど強くないから……」
「だったら強くなりなさい」
鬼教官か!
「なあ、解決したんやったら食べへん?」
「そうね、いただきましょ」
せっかくみんなで作った調理実習の飯であったが、オレにはまったく味がしなかった。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の52話です!!
今回はクラスのバランスがグラつく回!!
桜ノ宮真姫と姫路透の仲がより険悪に!!
そして、鏡夜は櫟井正義にデリカシーがないと怒られてしまった!
次回は友達ができた村雨が動く!?そして、陰浦も!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




