スキンシップ
オレと風歌先輩が放課後の遅い時間まで応援合戦の練習をしていることを、雷歌先輩は信じていなかった様子だったが……さて、本当に来るのだろうか?
雷歌先輩にとってはこの練習はなに一つやることのない退屈なものだと思うが。
オレは今日も律儀にゲームをしながら屋上で待つ。
『鏡夜、風歌先輩たち来るわよ!』
「ああ」
風歌先輩たち?
てことは、やっぱり雷歌先輩も来たのか。
「お待たせ」
「私初めて屋上に来たかも!」
風歌先輩の後ろに雷歌先輩がついてきている。
妙だな。
風歌先輩の表情は雷歌先輩にあまりついて来てほしくなかったような表情に映る。
オレとしても風歌先輩としても雷歌先輩がいる方が都合がいいはずでは?
「じゃあ、練習始めましょうか。雷歌先輩はどうします?」
「ふーん。本当に練習してたのね。とりあえず、私は邪魔にならないように見てるわ。いつも通り練習してくれていいわよ」
「じゃあ、風歌先輩やりましょ。はい。」
オレはいつも通り風歌先輩の前に手を差し出す。
「え!?でも……」
しかし、風歌先輩はオレの手を握らない。
ん?
「どうしました?風歌先輩?」
「えッ!?その雷歌ちゃんいるし……」
いや、雷歌先輩がいるからこそ、スキンシップによる仲良しアピールは略奪欲を煽れるのでは?
風歌先輩も狙い通りのはず──まさか!?
あえて、ここで普段と違う意味深な発言と行動をとることで、雷歌先輩に違和感を持たせ、より雷歌先輩の略奪欲を煽る作戦!?
いつもぽやっとしているが、風歌先輩は策士だな!!
ここは風歌先輩に乗っかろう!
「まぁ、風歌先輩がそう言うなら……」
「ちょっと!いつも通りにしてくれない!?隠し事ないんでしょ!?」
おお!食いついてきた!
さすが風歌先輩!雷歌先輩の性格に関してはオレよりもずっとよく理解してるな!
それで、ここからどうする?
「ないけど……今日はいいかなって……?」
「よくない!いつも通りにして!!」
「……わかった」
風歌先輩は渋々といった表情でこちらに向き直る。
「鏡夜くん、もう一回お願い……」
「は、はい」
これは風歌先輩の指示に従っていんだよな?
やばい。風歌先輩の駆け引きについて行けてない。
オレは風歌先輩に言われるがままに再度手を差し出す。
その手を風歌先輩がいつもより強く握る。
「なにそれ?」
「鏡夜くんが考えてくれた私の緊張をほぐすおまじない的なやつ……」
「毎回やってんの?」
「……うん」
「ふーん。効果あんの?それやると落ち着くとか?」
「……うん」
「じゃあ、私もやってみよ!」
「え!?でも……」
「なに?」
「私は緊張しいだから効果があるけど、雷歌ちゃんは緊張とかしないし……」
「はぁ?なにそれ、やって見なきゃわかんないじゃない!」
そう言うと雷歌先輩はオレの前に歩み出て、オレに向かって手を差し出す。
オレはノータイムでその手を握り返す。
ここで、躊躇したら風歌先輩への示しがつかないからな。
まぁ──
「意味ないと思うけどな……」
『ちょっと!心の声漏れてるわよ!』
「なに?鏡夜もみんなと同じで私が緊張しないと思ってるってこと!?」
おっと!この辺に地雷があるのか?
初めてオレに対して強めの態度になったな。
「いえ、そうじゃなくて。これ差し出された手を握り返すことに意味があって、雷歌先輩の方から手を出してもあまり効果がないと思うんですよね」
「そうなの?」
「はい。それと、握る覚悟ができた状態で握り返すというより、急に差し出された手を反射的に握れることに意味があるので、今の雷歌先輩の状態だとあんまり効果がないと思いますよ」
「あっ、そうなのね!それなら最初にそう言ってよね!」
「すんません」
まぁ、全部ウソだけど。
どっちが手を差し出すとか、どっちが握るとかは別に一切関係ない。
スキンシップの効果は、警戒心を解きパーソナルスペースを破壊すると同時に、幸福感を与え信頼感を得るというもの。
実際、オレは風歌先輩にとって気安く話しかけることの出来る家族以外の唯一の存在となり、明らかに周りの人間よりも近い距離で接することができている。
一応、不安の解消と自己肯定感上昇という効果もあり、それが応援合戦の練習に活かされないこともないが、こんなものぶっちゃけ風歌先輩に近づくための副産物に過ぎない。
ここまでは順調。
後はここからどうやって雷歌先輩のお眼鏡にかなう存在になるかだな。
「じゃ、じゃあ、練習しよ!」
「そうですね。やりましょうか、風歌先輩」
オレたちはいつも通り応援合戦の練習を始める。違うのは雷歌先輩がいること。
一度通しでやったところでオレは止める。
「さっきの合同練習より動き固いですよ、風歌先輩。緊張してます?」
「えッ!?いや、その~……」
風歌先輩はチラリと雷歌先輩の方を見る。
「なに?私のせいだって言いたいの?」
「それはダメですよ。本番はもっといろんな人に見られるんですから。これくらいでは動じないようにならないと」
「そ、そうだね……」
やるか。
「じゃあ、もう一回ですね」
手拍子で太鼓を再現しながら、オレは風歌先輩に近づく。
近づいてくるオレにびっくりしながらも、手拍子が始まってしまったので風歌先輩は踊り始める。
「ここ、腕の角度が低いです」
「へ!?うん」
オレは雷歌先輩に見せつけるように風歌先輩の体に触れながら動きを修正していく。
いままでしてこなかった行動だ。
緊張しいの風歌先輩の緊張は最高潮だろう。完全に体が固まってしまっている。
できるなら雷歌先輩の反応を確認したいところだが、確実にこちらを見ているであろう以上、不用意に反応を確認しようとして不自然に目が合うなんてマヌケを晒すわけにはいかない。
「ほら、もっと力抜いて?」
「でも……」
「やっぱり、いつもより緊張してます?」
「だって……」
あまりにも動けてない風歌先輩に雷歌先輩も呆れる。
「なによ、練習してるって言ってる割に全然ダメダメじゃない!これじゃあ、かなり周りの人に迷惑かけてるんじゃない?」
「……それは……」
「まぁ、でも理解したわ!たしかにこれは練習が必要ね。でも……ちょっと二人の距離近くない!?」
「いや、そうでもないと思いますけど……気にし過ぎなんじゃないですか?ていうか、雷歌先輩もオレに対してこんなもんですよね?」
「そ、そうかしら……」
オレも雷歌先輩も相手も堕とそうとしてるんだから、一般的に見たら相手に対する距離感は異常に近いだろうな。
それは雷歌先輩だってわかってるはずだ。でも、自分もやってる以上いい返しのしようがないわな。
結局、今日の風歌先輩は緊張で常にガチがちであり、いつもの動きが全くできなかった。
『ねえ、なんで今日はあんなに風歌先輩の体に触れたり、耳元でしゃべったりしたの?』
「理由は二つ。
一つは、予定通り阿雲雷歌の略奪欲を煽るため。
スキンシップは親密な関係の指標になるからな。それに、阿雲風歌が多少なりオレに照れてくれれば、阿雲雷歌視点では阿雲風歌はオレに惚れているのでは?と勘違いしてくれ可能性が上がる」
『それは、わかるけど……もう一つは?』
「もう一つは、阿雲風歌のパフォーマンスを落とすためだ」
『パフォーマンスを落とす?なんでそんなこと?』
「簡単だ。阿雲雷歌の前で十分すぎるパフォーマンスをしてしまった場合、もう練習が必要ないとなりかねないだろう?
阿雲風歌は予想外の事態に対応する能力が低い、だから普段と違うことをしてパフォーマンスを落とすように誘導した」
『でも、あんなことしたら引かれたり、最悪嫌われる可能性だってあったわよね?』
「大丈夫だろ。普段のスキンシップを通して、あの程度なら問題ないレベルまで信頼感や安心感を植え付けてたからな」
『てことは今のところ順調ってこと?』
「そうだな」
風歌先輩も雷歌先輩がオレを狙うように誘導してるだろうし、そろそろ雷歌先輩の攻略対象としてお眼鏡にかなってるといいのだが……。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の36話です!!
今回は練習に雷歌先輩参戦回!!
鏡夜はここぞとばかり攻める!!
それに対して風歌先輩はアップアップ!
次回はいつもと違う図書室!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




