歪んだ性格
風歌先輩に仲良くなって欲しいと頼まれた翌日から、オレは見事に面倒ごとに巻き込まれる羽目となった。
「あれ、阿雲先輩だよね?」
「誰かに用事なのかな?」
「俺話しかけてみようかな」
朝から教室内が何やら騒がしくなる。
だが、教室の窓側かつ端っこのオレの席からでは、ざわざわの原因がよくわからない。
「トーカ、頼めるか?」
『しょうがないわね!』
チラッと阿雲先輩って聞こえた気がしたけど……。
どうか、オレと関係ありませんように!!
しかし、オレの願いが天に届くことはなかった。
『風歌先輩が教室の前でウロウロしてたみたい。注目が集まって逃げていっちゃたけど』
「そう。ありがと」
昨日の今日ってことはオレに関係あるよな。
面倒になりそうだ……。
悪い予想とは得てして当たるもんだ。
『なんかデジャヴじゃない?』
「そうだな」
朝から休み時間のたびに、行く先行く先オレは風歌先輩に周りをウロつかれていた。
鬱陶しい。
日菜ほどマヌケな監視の仕方じゃないから、周囲の視線はさほど気にならないが、それでも監視されてる身としてはどうしても気になる。
しかも、今オレはトイレに行きたいのである。
「はあー。しゃーねぇーな」
オレは意を決して風歌先輩の下へ向かう。
オレが近づいて来ることに気付いた風歌先輩は「どこかに隠れなきゃー!」って感じで慌てた後、隠れる場所を見つけられず、話しかけられるのが自分じゃないことを祈るように、ギュッと目を瞑ってその場に固まってしまう。
捕食される小動物か!
「あの。なんか用ですか?」
「え!?あっ!えーと、ごめんなさい!な、なんでもないですううううぅぅぅぅぅぅぅ!」
「あっ!?」
オレが声を掛けると、風歌先輩は走り去ってしまった。
「逃げられた……」
『逃げられたわね』
なにこのオレが悪いことしたみたいな感じ?
まぁ、これで監視をやめてもらえるってなら全然いいんだけど。
オレが勝手に納得して、トイレに向かおうとしたその時──
「ちょっと待って!」
手を握られると同時に、悪夢のアナウンスが流れる。
<ターゲット登録完了。リセットポイントが設定されました>
オレが振り返ると、阿雲雷歌の姿がそこにあった。
オレは今にも漏れそうなどデカいため息を押し殺して、返事をする。
「なんすか?」
「さっき風歌となに話してたの?」
なに?
もしかして、オレが風歌先輩を脅したとか勘違いされてる?
にこやかな表情してますけど、目が笑ってないですよ、雷歌先輩!
「特に何も。風歌先輩がウロウロしていたので、なんか用があるのかと思って聞いただけですけど」
「そぅ……。ごめんね!足止めしちゃって!じゃあまた放課後、体育祭実行委員でね!」
「はあ」
最後はいつも通りの笑顔だったな!
どうやら、納得してもらえたようだ!────じゃねーよ!!
また一人勝手にターゲットが増えちまったじゃねーか!!
てか、なんであの感じで風歌先輩に初恋マーカーがなくて、雷歌先輩に初恋マーカーがあるんだよ!!
傾向的に逆じゃねーの!?
しかも、学年が違うせいで接点が委員会しかねーし!まぁ、接点があるだけマシなんだけど!
接点があるうちになんとかいい感じのところまで持って行かねば!
はあー……。
問題を抱えつつあるらしい桔梗も気にはなるが、これはまた後回しかな……。
──放課後、効率を掴み補習を早々に終わらせたオレは久しぶりに図書室へと戻ってきた。
図書室にはいつも通り、陰浦とオレの二人しかいない。
どうやら、あの日桔梗が図書室にいたのはたまたまだったようだ。
オレは鞄からゲームを取り出すと、静かにプレイし始める。
図書室は他の教室から少し距離があるため、学校にいながら学校生活の喧騒から離れられる唯一の場所である。
聞こえるのは、オレがカチカチとゲームをプレイする音と陰浦が本をめくる音のみ。
この静けさ、やはりここは落ち着くな~。
『鏡ー夜ー!』
……静けさが崩壊したか。
『ただいまー!!』
「おかえり」
『阿雲姉妹の情報集めてきてあげたわよ!感謝しなさい!』
「へいへい。ありがとうございます。それで?」
『まず、基本的に二人とも前に鏡夜が集めた情報で間違いなかったわ!
雷歌先輩は明るくて人当たりが良くて学校の人気者って感じね。
逆に風歌先輩は人見知り強めでオドオドしてるから周囲が気を使ってるって感じ?
クラスはそれぞれ違うけど、それ以外の時とかは一年生の時から常に一緒にいるそうよ。
ただ、もしかしたらあの二人、仲がいいのは表面上で本当は仲良くないのかも』
「どういうことだ?」
『風歌先輩が好きになった人は今まで全員、雷歌先輩に先に取られてるみたいなのよ!
しかも、風歌先輩が引っ込み思案なのをいいことに、自分は積極的にアタックして百発百中!
それでいながら、雷歌先輩は結局1ヶ月も続いたことがないって!
雷歌先輩に好きな人を取られちゃうから、風歌先輩は誰とも付き合ったこともないわ!最低じゃない!?』
「阿雲風歌が阿雲雷歌を嫌っているなら、なんでいつも一緒に行動してるんだよ?」
『さあ?雷歌先輩の命令とかじゃない?』
つまり、風歌先輩は雷歌先輩には表立って逆らえないってことか。
確かにその情報が事実なら風歌先輩は面白くないだろう。
自分が好きになった相手を取られた挙句、ほんの数日でポイなんだからな。しかも、何回も。
だが──
「これで合点がいった」
『なにが?』
「風歌先輩がオレに近づいてきた理由だよ」
『どういうこと?』
「自慢じゃないが、オレは生まれてこの方告白されたのは瀬流津からもらった一回のみだ。それもオレの方から仕掛けての一回だ。つまり、オレはモテる方じゃない」
『言ってて悲しくなんないの?』
めちゃくちゃ惨めだよ!!ちくしょう!!
「なんでそんなオレに風歌先輩は近づいてきたと思う?」
『風歌先輩はB専!?』
「ちげーよ!」
B専ってなんだよ!
オレはモテねーけど別に不細工ではねーよ!……たぶん。
「そうじゃなくて、オレは学校では不良ってことになってるだろ?
んで、初恋マーカーが出てる以上、まず間違いなく阿雲雷歌は今まで好きでもないのに、阿雲風歌が好きになった人を奪ってる。
恐らく人のもの、阿雲雷歌の場合は妹のものが欲しい性格ってことなんだろうな?」
『あーあ!わかった!
風歌先輩の好きな人を雷歌先輩が必ず奪おうとするってことは、風歌先輩が好きな振りをしている鏡夜に対しても、好きでもないのにアピールするってことね!
それで、もし告白してOKが出ちゃったら付き合わないといけないから、不良の鏡夜なら憎き雷歌先輩に痛い目を見せられるかもしれないし、別れられず関係が長引いてくれればその間に本当に好きな人と付き合えるかもしれない!
だから、鏡夜に近づいたってことでしょ!!』
「正解」
『ふふーん!』
正解なんだが、他人言われると気分悪いな……。
「それと、オレが阿雲風歌を選んだとしても、それはそれで姉に勝ったということになるからな」
『たしかに!』
「ただ。厄介だな」
『なにが?』
「阿雲雷歌の攻略」
『このまま待っていれば、向こうから食いついてくれるんじゃないの?』
「そうなんだけど、それじゃダメだ。
さっきも言ったが、阿雲雷歌は別に好きだから奪うわけじゃない。単に妹が好きな相手だから奪うだけだ。
だから、ただ阿雲雷歌を受け入れるだけじゃミッション達成にならない。
ミッション達成のためには、雷歌先輩には初恋してもらう必要がある」
『そうね。何か考えがあるの?』
「ない」
さて、他人の好きな人を奪う性根の腐ったヒロインとか恋愛ゲームで見たことないし、なんとかなるのだろうか?
まぁ、そもそも風歌先輩がオレに気がある振りをしているってのが、的外れの可能性もあるんだが……。
とりあえず、いろいろ確かめるか。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の28話です!!
今回は阿雲姉妹の情報整理回!!
新たなターゲットの阿雲雷歌は歪んだ性格!
そして、妹である阿雲風歌が鏡夜に近づいてきた訳は!?
次回は再び参考になる恋愛ゲーム探し!!それと、チラッと桔梗律も登場!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




