きな臭い香り
瀬流津の勝負を見届けたオレは、その後特別なことはせずに普段通りの学校生活を送った。
今のところ、瀬流津がオレに会いに来る気配もなければ、オレと瀬流津の関係性に対する話も聞かない。
やはりリセットはちゃんと機能しているんだろうか?
「おーい!後輩くーん!」
オレは肩を叩かれ振り返る。
振り返ったオレの頬に指が食い込む。
「引っ掛かったー!」
「雷歌先輩か、久しぶりにそれやられましたよ」
「私も久しぶりにやったー」
「風歌先輩もこんにちはです」
「こんにちは」
放課後のオレは、今日も今日とて体育祭準備の手伝いである。
まぁ、昨日はサボったんだが……。
「ねえ?後輩くん、なんで昨日サボったの?」
「ああ、いや~」
瀬流津も体育祭実行委員だからな。
あの状況の後に会うのは、初恋マーカーの付いている雷歌先輩がいる以上、ちょっとな。
それに、キスした後に会うのってドギマギするし。経験がないから、どういう顔したらいいのかわからん。
「すんません。面倒くさかったもんで」
「ふふ。素直なのね。その素直さに免じて今回だけは許してあげる!けど、次はダメだからね!わかった!?」
「はい」
素直のすの字もないんだけどな。
オレと雷歌先輩が雑談していると、瀬流津がやってきた。
「あ!麗華ちゃん!今日は早いね!バスケ部は?」
「こんにちは!今日はお休みなんですよ!」
「そうなんだ!そう言えば見てたよー、アンズ先輩との勝負!!すごいかっこよくて、痺れちゃったよー!試合も絶対応援いくからね!!」
「ありがとうございます!頑張るんでぜひ来てください!」
雷歌先輩もあの場にいたのか。
と言うか、今のこの話をするってことは瀬流津の奴も昨日委員会サボったな。
「そう言えば、湾月くんも見てたのよね?来てたって話題になってたわよ!」
「まぁ、興味あったので」
「ふーん。で、麗華ちゃん応援してたって本当?見惚れてたって聞いたよ~」
「──見惚っ!?まぁ、実際すごかったですけど……」
この学校の不良はああいう場面で下手に目立つからよくねーな!!
「よかったな、勝てて。おめでと」
「ありがと!!湾月くん!!」
「おう」
湾月くんか……ちゃんとリセットされてるな。
「委員会始めるぞー!席についてくれ!!」
体育祭実行委員長の岩筋先輩が号令をかける。
オレは我先にと端の席に着く。
なぜなら、オレは不良生徒として忌避されているからである。
オレが先に席に着くことで、みんなはオレから離れた席に安全に座ることができる。
そして、オレもおずおずと近くに座っていいか聞いて、気まずい雰囲気を作らなくて済む。
まさに一石二鳥!!心が痛いぜ!!
まぁ、オレの周りが空席になる現象は慣れてるんだけどな。
そんな風にオレが心の中で自虐していると、予想だにしない出来事が起きる。
「ねえ?隣いい?」
なんと風歌先輩がオレの隣に座ると言い出したのである。
「へ?あっはい」
「え!?じゃあ、私も……」
雷歌先輩まで!?
なんだ!?どうなってんの!?
「ど、どうぞ」
「ありがと!一個ズレて!」
宣言通り風歌先輩がオレの隣に座り、オレを挟むように雷歌先輩も隣に座る。
教室内の視線が一斉にオレに集まり、静まり返る。
ついこの前まで委員会全体でオレのことを忌避してる雰囲気があったのに、いきなりに人気の阿雲姉妹がオレに接近したら、そら変な空気になるって!
「で、では今日は体育祭で行う種目について決めていきたいと思う!とりあえず、ガンガンと意見を出してほしい!ただし、常識の範囲内で!」
「「はーい!」」
「参考までに去年のプログラム表を配るぞ!」
へー。競技って生徒が決めんのか。知らんかった。
去年のプログラム表ねー。どれどれ?
玉入れに騎馬戦、綱引き、この辺は王道か。
てか、走る競技多くね?
100メートル走に障害物競走、学年対抗リレーと部活対抗リレー、ムカデ競争とかいうのもあるのか?
「なにか気になるものある?」
オレがまじまじと去年のプログラム表を見ていると、風歌先輩が話しかけてきた。
なんか調査より人見知りしないな。
「そうっすね。教員競技ってやつですかね?これなんすか?」
「あー。毎年恒例らしいのよねー!去年は確か、コスプレリレーだったはずよ!」
「へー。この応援合戦ってやつが実行委員がやるやつですよね?」
「うん」
「そうよ!」
「このエール交換ってやつは?」
「それも実行委員がやるやつね!紅組と白組の代表になった人がやるの!基本三年生よ!」
「はー」
いろいろやるんだな。
「去年のプログラム表を見てどんな感じかわかっただろうか!?それじゃあ、挙手して意見を出してくれ!雷歌くん、済まないが書記を頼めるだろうか?」
「はーい!」
雷歌先輩は岩筋先輩の指名で会議室の前へと移動する。
まぁ、美人で優秀かつ人望の厚い人間が取り仕切る側に立つのは無難だな。
しかし、退屈だな。ゲームしたい。
オレがあくびを我慢していると、風歌先輩がひそひそ声で話しかけてきた。
「湾月くん」
「はい?」
「ちょっと相談いいかな?」
相談!?いきなりだな!?
しかも、雷歌先輩がいなくなったタイミングで?
誰にも聞かれたくない相談ってことか?
「どうぞ」
「……」
「……」
沈黙が長い。
なに!?言いづらいこととか!?
ある程度のことなら体張ってもいいけど、犯罪関係とかならいくらターゲット候補の妹さんでも無理だからね!?
「私と仲良くして欲しんだけど……」
へ?
「えっとー、それは全然構わないというか、嬉しいくらいなんですが……。
なんでオレに?オレの評判とかは知ってますよね?」
「うん。知ってる。
その~、私、仲が良い人が少なくて……だからそういう人が欲しんだけど、基本的にもうグループが完成してて、それで……」
なるほど。要は完成されたグループには今からだと入りずらい、けど周囲から距離を取られているオレならまだどこにも所属してないでしょ?ってことね。
すごい失礼なこと言ってるんだが、天然さんってやつか?
まぁ、こちらとしても風歌先輩と仲良くなっておけば、雷歌先輩にも近づきやすくなるし、手札としてはおいしいからいいんだけど。
「ダメかな?」
「いえ。オレでよければいいですよ。よろしくお願いします」
「ありがと!よろしくね!」
雷歌先輩をターゲット設定するかどうか迷っていたが、こういう状況なら話は変わってくるな。
雷歌先輩がすでに好きな人がいるのかいないのか、早急にトーカに頑張って探ってもらわねば。
『なんか聞いてた話と随分違うわね、風歌先輩』
「そうだな。それに、いろいろと引っ掛かるんだよな~」
『なにが?』
「仲良くして欲しいって言い方。普通、同じ学校に通う生徒同士なら友達になって欲しいって頼むだろ?なんとなく含みを持たせた感じがした」
『気にし過ぎでしょ!』
「それと、阿雲雷歌。席に座る時、わざわざオレを移動させてまでオレの隣に座ろうとするか?」
『なにそれ?モテる自慢?』
「ちげーよ!むしろ逆。なんつうか、オレと同じ匂いがする」
『同じ匂い?』
「そう。なんか、二人してオレを攻略しにきてる感って言うのかな?そんな感じがした」
『それはさすがに考え過ぎよ!確証ないんでしょ!?』
「まあな」
トーカの言う通り確証はない。
ただ、ここ数ヶ月で研ぎ澄まされたオレの恋愛攻略センサーが、僅かな違和感にビンビンに反応しているのも確かだ。
それに、今回は特に厄介だ。
雷歌先輩と違って風歌先輩はリセットできないからな。
最悪撤退も視野に入れながら、細心の注意を払って慎重にことを進めよう。
「トーカ、早急に情報が欲しい」
『雷歌先輩に好きな人がいるかでしょ?任せなさい!」
「それだけじゃない。阿雲姉妹に関する情報全部だ。性格も、好き嫌いも、過去の情報も、それと姉妹関係もだ。特に、過去の情報と姉妹関係については詳しく頼む。」
『もう!注文が多いな!』
「頼りにしてんだよ」
『ふふん!やっぱアタシがサポートしてあげないとダメね!』
「そうだな」
お前がいなければこんなことに頭を悩ませずに済んだんだけどな!!
まぁ、やるしかない以上トーカに頼るしかないのも事実だ。
頼むぞ、トーカ!
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の27話です!!
今回から体育祭編開幕!!
新たなターゲットは二年生の阿雲雷歌!?
ただ、きな臭い香りが……。
次回は阿雲姉妹の情報開示!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




