覚悟の勝負
『瀬流津さんの攻略達成ね!!この調子でガンガン行きましょ!!』
「そうだな……」
唇にまだほんのりと温かく柔らかい感触が残っている。
キスってこんな感じなのか……なんか…変な感覚だな。
リセットによって瀬流津にはこの感覚も感情も残らないのか……。
「そう言えば、リセットっていつされるんだ?キスした瞬間にリセットされたって感じじゃなかったけど?」
『午前0時よ!魔法は日付が変わると解けるって言うでしょ?』
なるほど。ってことは、その時間帯はターゲットと接触してない方がいいってことだな。
トーカの奴、また説明不足か……。危ねーな!
そういや、初恋ポイントってのが貯まるんだったよな?
オレは脇腹に刻まれたマークを確認するために、服をまくる。
『キャァー。
いきなり脱いでどうしたの!?もしかして、瀬流津さんとキスしたことで欲望が抑えきれなくなっちゃたの?
でもダメよ!瀬流津さんの代わりになんて、相手してあげないんだからね!!』
「なんだその臭い演技。ってか、いつも着替えや風呂を覗こうとしてくるくせに、どの口が言ってんだ?」
オレはトーカのおふざけをテキトーにいなして、脇腹を覗き込む。
は?
初恋ポイントが貯まってない!?
オレの脇腹に刻まれた忌々しいマークにはなんの変化もない。
「おい!どうなってんだ!?ポイント貯まってねーじゃん!!」
『初恋ポイントが貯まるのも午前0時よ。当たり前じゃない!あれ?言ってなかったっけ?』
こいつまじで……。
つまり、成功させた後0時になる前に失敗したらポイント変動が起こらないから、地獄へのタイムリミットが加速し続けるってことじゃねーか!!
命に関わることなんだからちゃんと説明しろよな!!
オレはトーカを睨みつける。
『なっ!忘れてたんだから、しょうがないでしょ!!わざとじゃないわ!!』
「……」
『……ごめんなさい……』
「はあ~、まぁいい。問題になる前に発覚したからな。今後オレが気を付ければいい話だ」
トーカの説明不足は注意しても治らんしな。
『それより次はどうするの?一人完了したからって、のんびりはしてられないわよ?』
それよりじゃんねんだけど……それもまぁいいや。
「今、ターゲット設定されているのは、日菜と桔梗律の二人だな。日菜は初恋の相手がいて、その人物を教えてもらえていないから、現状は自然成就待ちかな」
『じゃあ、桔梗さんね』
「桔梗律は初恋相手がまだいないっぽいから、出来るだけ早めに攻略していかないとな」
『あっ、そうだった!桔梗さんについて情報のアップデートがあるわよ!』
「なに!?どんなだ!?もしかして、初恋の相手ができたとか?」
『違う違う!そうじゃなくって、桔梗さんってドが付くほど真面目でしょ?そのせいで色んなところで問題を抱えてるみたいなの』
「フワッとしてんな……具体的には?」
『口うるさいとか面倒くさいとか言われて、クラスでも委員会でも除け者状態って感じかしら。この前なんて先生にもやんわり注意されてたわよ』
桔梗は自分にも他人にも厳しい、お堅い性格してるからな。
しかも正論かつ、桔梗自身には決して問題点がないともなれば、注意された方としては反論のしようがない。
ラフに学生生活を送りたい人間からすれば、目の上のたんぶになってしまうのも致し方ないだろう。
攻略対象のヒロインに悩みの種があるというのは、懐に潜り込むチャンスでもあるんだが……どうも人の不幸を喜ぶ気にはなれんな。
「このままだと楽なんだが……」
『なにが?』
「桔梗律はオレが勉強に困っていると、不良として嫌っているにもかかわらず手を貸してしまうくらい面倒見のいい子だ。そのせいで、いろいろと首を突っ込んで鬱陶しがられているんだろ?
でも、他の奴から鬱陶しがられてる世話焼きな性格が、ここまでオレに味方していた。不良生徒としての認識されているオレは、桔梗律からしたら要注意対象かつお節介対象だろう。オレとしては接点になるからこのままでいてくれた方が都合がいい。
ただ、桔梗律が周りが鬱陶しがってることを気にして、オレからも距離を取るようになったら面倒だなと」
『ここでも不良がいい方に働いていたのね。そう考えると、最初のやらかしも悪くなかったわね!』
「そうだな」
目に見えないデメリットもかなりありそうだがな。
まぁ、過ぎたことを気にするよりも、今ある手札でどうするかが重要だし気にしないでおこう。
オレは初恋ポイントがちゃんと貯まるのか確認するために、夜中の0時まで待つ。
「そろそろだな」
『なんかアタシまで緊張してきたわ!』
リーン
午前0時の鐘とともにマークがピンク色に光り出す。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
暑さも痛みも特にない。
ただただ、ものすごく眩しい。
光はものの数秒で納まった。
「は?こんだけ!?」
マークを見たオレは思わず声を漏らす。
初恋ポイントがハートマークの五分の一程度しか貯まっていないのである。
『結構貯まったわね!』
「いやいや!どこがだ!!五分の一程度じゃねーか!!
なに!?あと五人も六人も攻略しないといけないってことか!?きつ過ぎるだろ!?」
瀬流津を攻略するのにどんだけの神経と体力をすり減らしたと思ってんだ!?
それをあと複数人……しんど過ぎる……。
何人もパートナーを取っ替え引っ替えしてる奴らバケモンだろ!
「アニキ、うるさい!!何時だと思ってんの!?」
「ご、ごめん」
オレは落胆と絶望の中で眠りについた。
──翌日の昼休み。
校内がやけにそわそわしてるな。
「おい!始まるぞ!!」
校内に響いた声を引き金に、複数の生徒が移動し始めた。
「なにが始まるんだ?」
「なんかね、二組の瀬流津さんが昼休みに三年の先輩とバスケで勝負するんだって!」
瀬流津が!?
「場所は!?」
「外の体育館って聞いたけど……」
オレは即座に教室を飛び出す。
「おい!本当にリセットされてんだよな!?」
『されてるはずよ!』
どうなってんだ!?
バスケ部が使用するなら屋内体育館だろ普通?なんで外の体育館なんだ?
それに──
「オレと出会う前の瀬流津がこんな大胆なことすると思えないんだが、どういうことだ?」
『鏡夜との記憶はリセットされているはずよ!ただ、記憶はリセットされても、鏡夜に影響された自信や考え方は残ってるのかも』
「かもってどういうことだ!?」
『アタシだって詳しく知らないんだから、しょうがないでしょ!!』
「まじかよ。ったく!」
体育館には二階のギャラリーも埋まるほど、大勢の生徒が集まっている。
顧問の先生の姿も見えるな。
『もう始まってるみたいよ!』
あれは、確か瀬流津をイジメてた主犯格のアンズ先輩だったかな?
オレは近く生徒に状況を聞く。
知らん奴とかしらん!
「今どういう状況です?」
「え?」
「ルールと状況は!?」
「えーと、1on1で先に三本取った方が勝ちってルールで三年生の方が先行。今四本目が終わったとこ」
「状況は?」
「2-0で一年生が勝ってる。正直、完封だよ」
状況を確認しているうちに大きな歓声が上がり、5本目、アンズ先輩のオフェンスが始まる。
アンズ先輩だって決して下手ではない。オレが相手なら楽勝できるだろう。
だが、瀬流津相手ではまるで子どもだ。何もできていない。
シュートすら打たせてもらえず、ボールは瀬流津のものになった。
『……すごくない?』
「ああ……」
瀬流津のオフェンスが始まる。
「……きれいだ」
オレは思わず声が漏れた。
オレとは比べ物にならない美しいターンアラウンドフェイダウェイ。
ボールは放物線を描いて、ネットへと吸い込まれた。
「「すげーーー!!」」
「完封じゃん!!」
「「ヤバすぎだろ!!」」
歓喜に沸く体育館をオレは後にする。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の26話です!!
今回は瀬流津麗華攻略のその後回!!
やっぱり、トーカは説明不足。
そして、瀬流津麗華覚悟の反逆!
次回から体育祭の準備本格化!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




