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CosMOS  作者: 螢音 芳
Chapter.7
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3. 国際会議、再び

 アナンに国際会議の開催を相談してから数日後、天空会議場以来、久しぶりに国際会議が行われることとなった。

 各国首脳には公的に、そしてフェアリスを通して話が届いており、会議場前には、すでに各国のスタッフが忙しそうに行き交っている。

 そんな会場前で、イツキがいつぞやの軍服を着た状態で不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 私服がだめなのは前回学んだので、ならばせめてスーツを、と言ったら、アナンを始め、ケイトやらヤナギやら挙句には出入りしているプローム乗り(主に女性の面々)から軍服にしろ、と力説されたのである。

 まあ、一歩譲ってそれはいい。自分にそういう服装面で機微が足りないのは自覚している。

 ただ不機嫌なのにはもう一つ理由があった。

「で、なんで今回、ケートスでやるんですか? アナンさんに主催を依頼しましたが」

「そんなの、最新鋭の機器が使えるからに決まってるだろう?」

 イツキがぼやくと、隣で各国スタッフの応対をしていたアナンが苦笑しながら答えた。

「けど、海上に集合って不便じゃないですか」

「それを言うなら前回の天空会議場の時もそうだろう。別に構いやしないさ」

「だったら、何もエイジスのタイタス周辺じゃなくてもいいはずです。何です、このうちが脅しているみたいな設営は?」

「まあまあ、いいじゃないか。会議の主催は私にしているし」

 指摘に対してアナンはのらりくらりと躱していく。その様子にイツキが半眼になった。

「アナンさん、はっきり聞きますが、今度は何を企んでるんですか?」

「特に何も?相手がどう受け取るなんてそれこそ自由だし、知ったことではないじゃないか」

 アナンが胡散臭くにこにこと笑顔を浮かべながら答える。

 開き直っている時点で、威圧的な会場設営にしている自覚があるということだ。

 疑っているイツキを後目にアナンは内心ほくそ笑む。

 アナンの考えとしては、今回4か国で協力体制をとるという、合意を取り付けるというものだが、3か国とも散々エイジスに迷惑をかけてきたため、力関係をはっきりさせよう、あわよくば、4か国合意の盟主にイツキを据えようとしていた。

(そうしたら、エイジス主権で動きやすくなるし、イツキ君の意見を引き出しやすくなるからな)

 話してみてわかったが、ケイオス討伐関連だけでなく、他にもいろんな分野で発展的な考えをイツキは持っている。それを活用しない手はない。

 そう言えば、と一つ気になったことを思い出し、アナンが口を開く。

「ところで、イツキ君、もしもの話なのだが」

「はい?」

「もしも、ケイオスを討伐したあと、何かの手違いでこの惑星で生きることとなったらどうする?」

 突拍子もない質問に対して一瞬イツキが面食らうが、即座に口を開く。

「え?そんなの考えてませんよ。帰る方法を何としてでも探す、それのみです」

「だから、もしもの話だ。でも、そこまで断言するなら、一つ賭けをしないか? もし君が帰るという選択肢をなくした場合、エイジスの代表を続ける。いかがかな?」

 そう言われてイツキは思案する。帰れなくなるとしたら、フェアリスの方で送り届ける力を喪失してしまうことだが、それなら航行できるものを開発するまで。そして、それに近いものなら合間に開発を進めていた。

「構いませんよ」

 イツキがうなずくと、アナンは微笑んだ。

「その言葉、忘れるなよ」

 ぽん、と肩に手を置かれてイツキはぞわり、と背中に悪寒が走った。

 何と言うか、悪魔と契約でもしたかのような嫌な予感がする。

 いやいや、気のせいだ、と無理矢理気持ちを振り払うと会議場へと向かった。



 ケートスの表面に設けられた急造の会議場。前回の天空会議場ほどではないが、内装もある程度見栄えのする作りになっており、飛空艇発着場と、各国に合わせて専用の控室も作られていた。

 事前にその辺はヤナギからアナンに対して問い合わせがあったので、要望どおりに作っていた。イツキは基本的に機能性が保持できていればシンプルが一番という考えなので見栄とかは気にしない傾向がある。そのことをヤナギも不安に思ってアナンに相談したのだろう。

 イツキの要望も聞いてないわけではなく、記録設備やモニタースクリーンなどはケートスのブリッジに準拠したものが設置されていた。

 メインの会議室に代表者が席についたところで、さて、とアナンは顔ぶれと背景を確認する。

 今回の参加者は、

 シーナ大帝国からは女帝のクーリアと正式に議長となったオウゼン。

 ユエルビア共和国からは首相のガイナスと先日の演説の際にガイナスの補助をしたという高官のミゲル。

 ノトス・サザン合衆国からは貴族院主席のアナンと、共和院の主席がまだ埋まっていないので軍部総長のゲン。

 エイジス諸島連合皇国からは皇であるイツキとフェアリス首長のヤナギ。

 他にも、各勢力の護衛や、プローム部隊のメンバーなど各勢力が信頼を寄せるものが会議場に参列していた。

 ただ、あまり人数が多いと会議もまとまらないので発言権は各勢力代表の8名になるだろう。

 アナンは各勢力の様子を見つつ、自分がもっている情報を思い返す。

 ユエルビアのガイナスは感染型ケイオス発生による混乱の後の演説から少し吹っ切れた様子であり、以前のような好戦さはない。むしろ、参加する前から今回の混乱に際し、意見と情報を得たいと自分から発言していた。今までの態度から考えると、何があったのかは疑問だが今回の会議を引っ掻き回すような真似はしないと思っている。

 シーナのクーリアは今回エイジスの意見を受けつつ、オウゼンと判断を相談していくことになる。オウゼンは古参の為政者であり、発言力がある。アナンが聞いた限りではオウゼンはイツキのことを過小評価しているような印象だった。シーナはエイジスへの攻撃について責められていないものの、破壊兵器への関与が疑われている。シーナが発言力を得るためにオウゼンは会議の主導権を握りにくるはずだ。そのことをアナンは危惧していた。

 アナンはイツキをちらりと見た。イツキの方は緊張している様子もなくすずしげですらあり、見方によっては各国に任せようとしているようにすら思えた。オウゼンが主導権を握ったら、間違いなくイツキは意見しなくなるだろう。そうなったら、アナンの目論見は外れる。

 ここは、自分のコントロール次第だな、と気持ちを引き締めるとアナンは口を開いた。

「混乱に際し、皆さん、お集りいただき感謝する。それではこれより会議を始めたいと思う。まずは、エイジスのイツキ陛下から今回発生したケイオスについて詳しく説明いただきたい」

 一つうなずくと、イツキが立ち上がり、モニターを用いて説明を始めた。

 人から人への感染の可能性は低く、ほとんどの感染源は大気中に浮遊している小型のケイオスのコアからであることなどが説明された。

 ユエルビアは聞いていない情報も多く、ミゲルが背後の政府高官と相談しつつメモをとっていく。

「ちなみに、今回のウイルス型の発生についてイツキ皇は予測はしていたのかね?」

 オウゼンが質問すると、イツキがうなずいた。

「はい。前回の会議の時には」

「ならば、対抗策を考えていたのではないのかね?」

 オウゼンの責めるような質問が飛ぶ。

 それに対してイツキは正直に答えた。

「いえ、考えていませんでした。というのも、発生するまであと2年は先と思っていたので」

「ほう?なぜ早まったのかね」

 ちらりとイツキはアナンの方を申し訳なさそうに見たあと、答えた。

「ノトス側でケイオスに関する研究を行っていたためです。それも、ケイオスの軍事利用を目的として」

「ほう、では今回の責任はノトス・サザン側にあると?」

「そうではありません。むしろ、それを抑えたのはサザンの貴族院による功績です。研究施設からの情報を早めに教えていただいたために、自分のウイルス型の発生の予測に確信が持てました。この進化の形態に移行するまでに止めたかったのが本音ですが」

 その件に関しては事実であり、ノトス研究所ではすでに人への感染を目的としたケイオスの進化形態のコントロールに着手しようとしていた。その情報から、進化が早まる危険性を危惧し、イツキはシーナの宣戦布告を受けた後もケイオスの駆除の行動を止めなかったのだ。

 オウゼンがさらに口を開く前に一つの声が遮った。

「それが事実ならば、つい最近まで執拗にエイジスに攻撃をしかけていたシーナ側にも責任があるのではないか?それによって、エイジスの行動がかなり妨害されたはずだ」

 ガイナスが責めるような視線をオウゼンに向けると、オウゼンが黙り込んだ。

 ここでアナンが意外に思った。基本的にガイナスは自分の国の利益、不利益になるようなことでなければ発言しないはずだった。

 それがまさかかばうような発言をするとは思わなかったのだ。

 ガイナスは言葉を続けていく。

「まず最初にエイジスに対して矛をむけた自分が言うのもおこがましいが、エイジスの行動を阻害し、ここまでの事態を招いてしまった責任が各国あるのではないだろうか。それは、私にも当然責任はあるし、私の首一つでよければいくらでも誹りは受けよう。だが、ここで辞めても責任放棄にしかならない。だから、様々な人物から非難を受けても、恥知らずと言われようともこの場に来た」

 顔を上げて参加者の顔を見つめながらガイナスが訴えかける。

「今回の会議はウイルス型のケイオスに対して建設的な対策を話し合い、自分のすべきこと、国に対して行うべきこと見出したいと思ったからだ。その話し合いをしたい」

 ガイナスの言っていることは、自分の罪は置いといて助けてほしい、もしくは今までのことは水に流して助け合おうという都合のよいものではない。自分の罪は承知の上で自国を救うために足掻く、そのために少しでも手がかりが欲しいと切望する言葉だった。

 熱意を受けて、会議場が沈黙する。

 ガイナスの人柄をよく知っている古参の政治家、フェアリスほどガイナスの変化は驚くべきものだった。だからでこそ、その言葉に圧倒されたと言えた。

 イツキは静かにガイナスの発言に傾けていたが、直後にふっと微笑むと、口を開いた。

「同意見です。今回の会議はそのようなものだったと聞いています。そして、エイジスはどこの勢力にも責を問うつもりはありませんし、報償を受け取るつもりもありません。それを明言しておきます」

 代わりに、と言うとイツキは立ち上がった。

「今回のウイルス型発生の件を受けていくつか提案させてください。まず一つ、各勢力の政府がダイレクトに通信のやり取りができるようにエイジスの衛星通信を活用してほしいです。すでにノトス・サザン、シーナとはやり取りできるようにしていましたが、それもうちを介してです。そうではなく、自由にやり取りができるようであってほしいです。通信の遅れが救援の遅れにつながることがありますから」

 サザン大陸が通信設備をやられたことにより、ケイオスの手に落ちかけたことは記憶に新しい。

「それは願ってもないことだ。是非お願いしたい」

 ガイナス首相がイツキからの提案に同意する。

「シーナも同じだ。通信設備の大事さはよくわかっている」

 クーリアがオウゼンの返事を待たずにうなずく。

「賛成だ。というより、こちらは今更という気もするが」

 アナンが苦笑しつつ、賛成する。もともと衛星通信の使用については延長を申し出ようとしていたところであった。

 全員が賛成したのを見てイツキがうなずく。

「では、会議のあとで使用に関する説明と設備を配備させるようにします。それで、二つ目の提案なのですが」

 一度言葉を切ると、イツキははっきりと言った。


「各勢力間で協力体制を取らずに、自国の安定化に集中することを提案します」


 その言葉に全員の目が点になる。

 今回の会議は暗黙ながらも各勢力で協力する、その第一歩とそれぞれの勢力は認識していた。それに対して真逆の発言だったからだ。

「えーと、イツキ君、それはどういうことかな?」

 敬称を忘れてアナンがこめかみをおさえつつ問いかける。

「通信、情報のやり取りをすること、報告、連絡、相談を各勢力間ですることは推奨します。言いたいのは、各勢力で人、フェアリス、物質の救援を要請することは極力避ける、ということです」

 ますますもって、イツキのしたいことがわからない全員が疑問符を浮かべる。

「おそらく、この先は各勢力どこも厳しくなります。自国の民衆の生活や治安を維持するのが精一杯。そんな中、救援を要請することは他国にとっても厳しく、そして断られた側も要請した相手になぜ断ったのかという憎しみを抱いてしまいます。あるいは救援を全体に呼びかけて救援を出せなかった国の発言力が落ちてしまうことも起こりうる。協力体制をとったと明示して、そんな状態になれば何のための協力体制なのかと民衆から問われかねない」

 そこでフェアリス側が、あ、と気づいた表情になった。救けを得られるからと期待して裏切られる、その感情は身に染みてよくわかっているからだ。

「しかし、こういう窮地だからでこそ協力しあうべきなのではないか?」

 クーリアが問いかけるとイツキは首を振った。

「それができれば理想的ですが、難しい。難しいからでこそ実行できたら美談になるんです。そもそも極限状態に追い込まれた人に助けに応じるだけの理性を求めるたり期待するのが無理な話なんです」

 散々演説で理想論を語ってきた人物から飛び出してきたシビアな意見に全員が唖然とする。

「今回のウイルス型のケイオスを対策するにあたり、大事なのは人のロストに伴う有機体の消費を抑えることにあります。人同士での争いを避け、事故や災害によるロストを避けること。そのために感染に対する偏見をなくして治安の維持に努めてもらうことが大事になってきます」

「それなら、意味はわかるが、肝心の感染型のケイオスへの対策ができないのでは根本的な解決にはならないのではないか?」

 オウゼンが首を傾げながら問いかけると、イツキはうなずく。

「今、エイジスに所属している医師に特効薬ができないか調べてもらっています。わかっているのは抵抗力が弱い人間から重症化しやすく呼吸器症状が悪化し始めたら結晶化が進み、最終的には各臓器も結晶化して最後には破散します。ですが、この症状は体調や抵抗力が回復すればある程度また活動できることもわかっています。ケイオス自体の毒性はまだそんなに強力なものではないので。できる対策は体調が悪い人を無理させないようにして、受診と休養を促すことですね」

 感染者の体調管理を徹底すること、ということなのだが、明確な対策はないことは確かなので、全員の表情が曇る。特効薬がないことはやはり不安だ。

「人の派遣はしないと言っていたが、そちらに医師を送るのはいいだろうか?そちらだけで抱えるのは難しいだろう」

 ガイナスの提案にイツキがうなずく。

 エイジスでこの件に携わっている医師はミナト一人なので、相当な負担をかけているのは確かだ。

「ならば、シーナからも送ろう。構わないな、オウゼン」

 クーリアの発言に、御意に、とオウゼンが返答する。

「では、こちらも。おそらくそちらの医師にあわせたスタッフを送れるだろう」

 アナンがゲンに目配せをしながら言った。

「ありがとうございます。支援はありがたいですが、各国影響のない程度にお願いします。こういう非常事態の場合には、いかにして普段の社会に近い状態を維持できるかがカギになるので」

 ありがたく思いつつ、イツキは釘を刺した。

 無理をしないようにしつつ、普段の社会を維持する。それは簡単なようで難しいものだ。

 一つ歯車が欠ければ、その歯車を別の歯車が補う。だが欠けたものが増えれば、いずれは全体に支障がでてしまう。一つのコミュニティでも、会社でも、社会でも同じこと。どこかが欠ければ大きく影響が出て、経済、物流に影響がおき、人の生活が混乱するのだ。混乱の先に待っているのは貧困とそれに伴う民衆のストレスの増大、そして治安の悪化だ。

 地球でも、戦争でなくとも、地震などの災害、経済不安や大企業の倒産などで大きく生活に影響が出ることはあった。ライフラインの復旧が前提、それ以外でも平常に近い状態を目指して復興していくことが大事なのだ。

「情報が必要なら共有し、互いに相談もします。しかし、基本的には各勢力で自治に努め、他者に期待しない。各勢力の代表には、その意識を強く持ってほしい、そう思います」

 イツキがひとしきり意見を言い終えると席につき、ふう、とため息をついた。

 会議室内が沈黙で支配される。それぞれ思案しているようだった。

 特に、困窮しているユエルビア勢力の表情は硬い。一番物質的な支援を欲しているのはユエルビアであっただろう。

 しばらく沈黙した後で、ガイナスは顔をあげた。

「互いに争わず、自国の内政に集中する、そういうことなのだな?」

 確認するようにガイナスが言うと、イツキはうなずく。

「なら、わかった。その方針にユエルビアは賛成する。相談に乗るという言葉、信じさせてもらう」

 ミゲルが首相、と驚いた表情で声をかけるが、ガイナスは決意を固めたようだった。

 オウゼンと何かと話しあおうとしたクーリアだったが、オウゼンは静かにクーリアを見つめる。すでにこの会議中にクーリアの意思でいくつかのことは決めたのだ。だから、任せるとの判断だった。

「では、シーナも自国の安定化を目指し、戦争に加担しないことを約束しよう」

 クーリアの言葉にオウゼンは満足するようにうなずいた。

 まさかの展開にアナンは苦笑した。最初はどうなることかと思いきや、だ。

 ゲンが目配せするが、答えはすでに決まっている。

「ノトス・サザンも戦争はせず自国の安定化に集中しょう」

 アナンが静かに宣言した。

 最後に各勢力の視線がイツキに向く。

「エイジスも、どの勢力にも攻めないことを約束します。ただ、ケイオスだけは引き続き駆除してまわります。少しでも感染型に移行するのを防ぐために。幸い、うちの勢力は人が少ないのでロストする戦力は少ないですから」

 この緊急事態の中で唯一各勢力の中で武力を行使することをエイジスだけが宣言する。それに対してどの勢力からも反対意見があがらないのは、エイジスの今までの行為から先んじて他の勢力に対して攻め込まないことを証明してきたためだ。ケイオス駆除は感染型の発生を抑えるためにも必要なことであり、それが可能なのもフェアリスが多いエイジス勢力だからでこそだった。

 その後の会議は各勢力で民衆への説明、情報をどこまで開示するかの話になり、今後の方針の再確認をして終わった。



 無事、各勢力会議が終わり、イツキとアナンのみが会議室に残っていた。護衛役は席を外して廊下で待機している。

「明確な協力体制を明言せず、それぞれの自治に集中する、か。今まで協力をうたってきた君からすると嘘のような発言だな」

 アナンの言葉にイツキはため息をつく。

「理由は先ほども言ったとおりです。要請をすれば要請をした方、された方どちらも危険になる」

 感染型のケイオスが広まっている現在、感染によるロストに備えて少しでも有機体の消費をおさえなくてはいけない。そのためには、事故や戦争によるロストを避けなくてはいけない。種族間のトラブルで殺しあうなどさらに論外だ。だから、法整備を整え、生産力の弱っているところ、人道的な支援が必要な箇所の補強を政府が行わなくてはいけない。他勢力を支える余裕などなくなる。そのため、先ほどの会議で各勢力で協力体制をとるのではなく、それぞれの自治に集中するよう呼びかけたのだ。

「その点、うちは実質的な国民が少人数なので気が楽なのですが」

 イツキが言っている国民は自分も含めたワタセ家4人とタイタスの領事をしているミナトと支援スタッフ、タイタス防衛部隊の人員のことだ。他は各勢力の支援者、タイタスに避難してきた住民は移民としている。それも皆極限まで虐げられた状況を理解しているので、感染が広まった後でも混乱なく過ごすことができていた。

「なので、そろそろ支援してもらっているプローム部隊の人たちを帰国させようと思うのですが…」

 イツキが切り出すとアナンが苦笑して首を振った。

「この先も、感染型に移行する可能性のあるケイオスを討伐しつづけるのだろう?だったら、うちの戦力はそのまま貸し出させてもらおう」

「ですが、それでは治安維持が…」

「最高戦力がいなくとも軍はまわせるし、ゲンがいればどうにかなる。それに、おいそれと暴動は起こさせないさ。甘く見ないでもらいたい」

 実際、ケイオス駆除は頑張ってもらわなければいけないので、戦力を預けておいたほうがいいという打算はある。

 同時によくイツキは一人、もしくは身内で抱え込もうとするくせがあるのをアナンはわかっていた。シュウからの報告を受けている通り、その辺は親子として似ているものがあるのだろう。各自、自治に務めるのも賛成だが、かといって、身軽に動くことができる勢力だからとまかせっきりにするつもりはない。

(息子のことをよく一人で突っ走って危なっかしいとぼやいているが、人のことは言えないな)

 申し訳なさそうに眉を寄せるイツキに対してアナンは苦笑した。



 ○幕間

 会議場を出て、傍の発着場をアナンとともにイツキは歩いていると、後ろから声をかけられた。

「イツキ陛下!」

 振り向くと、クーリアが息を切らせながら走ってきた。そのクーリアが隣にいたアナンを見てびくっと体をすくませる。数か月前に同盟を解消するときに強引に話を持っていこうとしたが断られたこともあり、苦手な相手と認識していた。

「クーリア帝、どうしたんですか?」

「その呼び方はやめてください。陛下の方が年上でしょう?」

「この会議では同列、でしたでしょう?同じ為政者で、クーリア帝が敬称で呼ばれるなら、自分も合わせるまでです」

 微笑むイツキにはあ、とクーリアはため息をつく。前回失礼をはたらき、つい先立っては戦争をして迷惑をかけ、さらに会議のメンバーでは最年少なのにイツキはクーリアのことを勢力の代表者の一人として扱っているのだ。

(器が大きい、さすがだな…ってそうではない、)

「その気持ちありがたく思います。その、それで本題なのですが、ハルカ皇子は今回こちらにはいらしてないのですか?」

「え?ハルですか? 今遠征任務に出てますが…」

 と、イツキが答えたところで、プロームの接近音が上空から聞こえた。

「父さん!」

 見上げると、ちょうどファーヴェルが会議場付近に降り立つところであった。

 それを見てアナンがちっ、と舌打ちする。

「父さん、ごめん報告したいことがあって。って、すいません、クーリア帝、アナン主席、お話していたところを失礼しました」

 父に話しかけた後で、クーリアとアナンのことに気づいて、プロームを解除した後でハルカが頭を下げる。

「べ、別にかまわない。それに、そんな他人行儀でなくとも…」

(ん?)

 会議のときとは違って、しどろもどろになるクーリアを見てイツキは違和感をおぼえる。

 隣を見ればあんまり表情には出さないが、アナンの機嫌がやや悪い。

 視線をハルカとクーリアに戻すと、そういうことか、とようやく合点がいった。

 エリア91でハルカがクーリアを救出したときの様子は本人たちから聞いているし、クーリアがその時どこか熱っぽく話をしていたのを覚えている。一方でユイの方もハルカに対して並々ならぬ気持ちを抱いているのはわかっており、アナンとしては娘の方を応援したい気持ちも察することができる。

 対して、本人はクーリアを前にしても無頓着である。

(タイミングがいいんだか悪いんだか……)

 息子の恋愛事情を垣間見て、イツキは複雑な心境になった。


次の投稿は5/20を予定しています。

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