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CosMOS  作者: 螢音 芳
Chapter.2
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13. これから

 暫定的に作られた玉座に腰掛けていたイツキは不機嫌そうに表情をゆがめたままだった。

 ちなみに、黎明の旅団の面々は子どもたちのところへ向かわせたので、この建物内にはいない。

 エイジスに所属するフェアリス達全員に話をするためにここまで付き合ったが、そろそろ頃合いだろう。

 「ヤナギ、ここへ」

 「は」

 粛々とした態度でヤナギかイツキの前へ進みでる。

 すると、イツキは一息に言った。


 「それで、いつまで私たちにこのような茶番を続けさせるつもりだ?」


 その言葉にヤナギは目が点になる。

 「なんのことでございましょうか?」

 「とぼけるな、私と家族に行った精神束縛の件だ。おかげでまともに話すこともままならん」

 「これは異なことを、普通に話せているではないですか」

 「ヤナギ」

 ヤナギがとぼけたように言うと、イツキが語気を強める。

 「私は貴公とそなたたちで築いてきた信頼を崩したくはない。このような形で話をして、前と変わらず接していけると思うのか?」

 「ですが、これは私らの誠意、願いでございまする!こうでもしなければ、貴方がたは何も受け取ろうとはしない。だからでこそ、でございます」

 そう叫ぶと真剣な表情でイツキの目を見る。

「イツキ殿をはじめ、そのご家族が旗印として立つことにどれだけ我等の胸が打ち震えたか、わかりますまい。我等にとってもはやあなた方は希望そのものなのです。それに仕えることに何の抵抗がありましょうぞ」

 ヤナギの言葉をうけ、フェアリス達が同意するような視線をイツキ達に向ける。イツキは沈痛な表情で視線を受け止め、口を開く。

 「息子からキナイでのやり取りを私も聞いた。貴公の思いも知っている。貴公らの思いはとても優しいもので誠実なものだ、その思いは汲もう」

 しかし、とイツキは続ける。

 「それでは、他の勢力と何も変わらない。人類かフェアリスか、どちらかが上に立たねば成り立たない組織では現状は打開できない。このエイジスがケートスを奪還できたのは、人類とフェアリスが協力できた、その点があったからだというのに」

 その言葉にフェアリスたちがはっとした表情となり、全員沈黙する。

「私は、私たち家族の願いは人類がフェアリスに依存する世界でも、フェアリスが人類に依存する世界でもない。対等に歩む世界であってほしいのだ」

 イツキの言葉にヤナギがケイト、ハルカ、ナノのことを見るとしっかりと同意するようにうなずいていた。

 「だから、頼む。ヤナギ、解いてくれ」

 ヤナギは惜しそうに唇を噛む。その周囲にツバキ、ノイン、ノウェムも現れる。そして、4人とも何かを取り払うように手をふった。

 頭の中で何かが割れるような音が聞こえたかと思うと、ふっとイツキが尊大だった体勢を崩した。

 「ああ、疲れた。まったく、普段と異なることをすることほど疲れるものはないですね」

 その穏やかな口調は、いつものイツキ、そのままであった。

 はっとなったケイト、ハルカ、ナノも自分の身体を見回す。

「ああ、緊張がほぐれた。けど、全身凝ってる気がするわ」

「よかった、全然思い通りに動けないからこのままなのかと思った」

「うーん、心と行動が一致しないのってこんなに辛いことなんだね」

 ナノが実感するように言うと、家族3人が同意するようにうなずいた。

 つまるところ、一番しんどいのはそこであった。

 先ほどまでの凛々しさはどこへやら、普段に戻ってしまった様子を見て、フェアリスたちが勿体ないといわんばかりにため息をついた。

「これで、最初の議論に戻るのか…」

 そう言い、ヤナギがため息をついた。

「いえ、そうではありません」

 イツキが玉座から立ち上がる。

「今回、きちんと一つの組織である、と示さなかった僕が悪いんです。責任の重さ、面倒さから逃げ、そして世界の敵になることをためらったために、追い詰められ、攻め込まれる口実を与えてしまいました。本当に申し訳ありませんでした」

 イツキが頭を下げると続けた。

「だから、このままエイジスの代表を引き受けさせてください」

 その言葉に、ハルカとナノが驚いた表情を浮かべる。対して、そう言うのがわかっていたようにケイトは微笑んだ。

「いいの…ですか…?」

 ヤナギが戸惑いながらも問いかける。

「ええ。人類がそれぞれ代表に立っているなら、こちらも人類の顔役が必要でしょう」

 ただし、とイツキは続ける。

「しょうがないから公の場で皇というのは一歩譲ってしかたないとしましょう。ですが、身内でそんな呼び方するのは許しませんし、判断をすべて丸投げするのも却下です」

 ケイト、ハルカ、ナノがうなずく。

「皇妃って名乗ったけど、やっぱり柄じゃないし、ぴんとこないな」

「うん、言われたときはぞわっとさぶいぼが立った。何、皇子って」

「姫っていっても、やっぱりユイお姉ちゃんのような実例を見ると気が引けるし」

 それぞれ後ろでこそこそと話すのを聞いて、ええ…とフェアリス側がげんなりした声をあげる。

「それぞれとても似合っていたように思えるのだが」

「というより、ノリノリでやってましたよね、なんだかんだで4人とも」

 ウコンとノウェムが正直に思ったことを言う。

「こっぱずかしいのも柄じゃないのも、そうなんですが、今回の本題はそうじゃなくて…」

 話を戻しつつ、イツキが後ろ頭をかく。

「困ったら一緒に悩む、助けてほしかったら迷わず伝えられる、そんな関係のままでいたいんです。皇族なんてことになったら、そんなことができなくなるじゃないですか」

 ですから、とイツキは続けた。

「あがめたり、持ち上げようとしたりせず、同じ目線のままで。そんな調子でこれからもよろしくお願いします」

 イツキがそう締めくくると、ヤナギは体を震わせ、わかりました、と涙声で言った。


 世界の敵として、惑星オービスに産声を上げた一つの勢力。

 長い一日を終え、その勢力は内部の結束力が強固なものとなっていた。










 ○幕間

 ドームから戻ったワタセ家の4人は、自宅に着くなり、ふう、と息をつく。

 なんだかんだで様々な出来事のあった一日となってしまった。

「あー、疲れた…」

 着くなり、ハルカがソファにどかっと座って真っ先にぼやいた。話しながら、軍服の首元のボタンを緩める。

「今日は確かに一番疲れたのはハルですね」

「おにい、お疲れ様」

 イツキとナノがハルカを労った。

「うん、お疲れ様」

 ハルカも返事を返す。微笑んではいるものの、その表情にどことなく固さがあるのは、サザンにチームメンバーが数人もいて、決裂してしまったことにあるのだろう。

 たまらずがばっとハルカを後ろからケイトが抱きしめた。

「うわっ、母さん!?」

 驚いてハルカが声を上げる。構わず抱きしめた体勢のまま、ケイトがハルカの耳元でささやく。

「辛かったでしょ? チームメイトだった人たちに武器を向けるのは」

「……うん」

 イツキも、ケイトも、キナイでどのようにハルカが行動したのかを聞いていた。カナタたちとサザン側のチームメイトが争わないよう、武器を向けて警告したのだという。

 それは、イツキが願った行動ではあるものの、本当ならばやりたくない行為だっただろう。下手すれば、ハルカの方が2人を相手にしないといけない可能性もあった。

「タイミングが良かった、としか言いようがなかった。撃つべきものじゃないものを撃ってしまったけれど、結果的に傷つけずに済んだ。そして、ユイが即判断して退かせてくれたから……」

「そうだったんですね……」

 イツキは会議の前日にユイと話したことを思い出す。自分の政府高官としての立場や、危険性、影響力について話をしていた。その姿勢を考えれば、判断して部隊を退かせた行動はとても納得できる。

 しかし、同時にそのことを切なくも思う。

 おそらく、地球では普通にアイドルで、それこそ中学生の女の子のままでいれたはずだ。それがオービスに移動して、10年間戦乱の中で生きているうちに身に着いてしまったのだろう。

 それはおそらくユイだけではない、カナタやケンジ、黎明の旅団という集団に所属していると言っていたが、彼らも普通に地球では高校生だったはずだ。

「いろんなものが地球とは違うんだね、そのことがよくわかったよ」

 疲れた表情をしつつも、その瞳には昏い決意がハルカの目には宿っていた。

 言葉の重さにイツキ、ケイト、ナノがはっとした表情を浮かべつつも、今は何も言えず沈黙した。

「それにしても……」

「ん?」

「母さん、いつまでこの体勢でいるの?」

「あら、うれしくないの?」

 抱かれた体勢のままなのを指摘したのだが、指摘したらしたでケイトが胸を押し付けてきた。

 ハルカとしては、非常に心臓によろしくない。

「母親だからそれはちょっと…、というか思ったら問題な気も」

「えー」

 なかなか離してくれそうにない。まあ、心配だったのだろうとは、ハルカも予想はつく。けどさすがに限度がある。

「母さんの場合柔らかいというより、かた…」

 続けようとしたところでハルカの首が締まった。

「何が固いのかな? 言ってみてほしいかな?」

「い、いえな…、くる…」

「おにい、タオル投げてあげようか? それともカウント?」

 ナノが目をきらきらさせながら言う。いや、それより、この猛獣をどかしてほしい。

 そう思った瞬間、さらに締まった。

「だ、れ、が、猛獣かなー?」

 感応能力があるわけでも、思念伝達をしてるわけでもないのに、思考を読まれたことに戦慄しつつ、本気で首を絞められハルカの顔が青くなっていく。

「ケイトさん、そろそろその辺で。お風呂わいたみたいですよ?」

「はーい」

 くすくすと苦笑しながらイツキが言うと、ケイトがようやくハルカを解放した。

「い、今まで一番死を予感した気がする…」

 解放されたハルカがぜいぜいと息をついた。

「はいはい、お疲れ様。ハルが先に入ります?」

「いや、俺は汚いけど明日でいいよ。今日はもうとにかく寝たい」

 イツキに問いかけられたハルカが息を整えつつ、立ち上がった。

「じゃあ、私が入っちゃおうかな?ナノ一緒に入る?」

「私もパスで。眠いから」

 ケイトにナノが言うと、眠そうに目をこすった。

「じゃあ、おやすみー」

「おやすみー」

 ハルカとナノが言い、それぞれ自室に向かう。

「「おやすみなさい」」

 イツキとケイトが同時に返す。ケイトは浴室に向かい、手持ち無沙汰なイツキは書斎に向かった。


 4人それぞれ一人になったところでふう、と息をつく。

 そして、今日の一日を総括して

 皇となったイツキは書斎の机に突っ伏し、

 皇妃となったケイトは浴室の壁に額をつけ、

 皇子となったハルカはベッドに顔を押し付け、

 皇女となったナノは枕を抱えて顔をうずめ、

((((皇国って…うわああああああ…!))))

 それぞれ今日の恥ずかしい様子を思い返して悶絶したのだった。


Chapter.2、一区切りです。ここまでお読み頂きありがとうございます。

明日は登場人物の整理の日にさせていただき、

続きは3/27の投稿となります。

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