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CosMOS  作者: 螢音 芳
Chapter.2
31/144

11. 意志を示す者

 イツキの宣言を受けて、天空会議場の参加者たちは泡をくったような様子でイツキのことを見つめている。

 まるで、時間が凍り付いたように互いに何も言えずにいる。

 参加者を冷ややかに見つめているイツキの中である声が響いた。

<イツ君、準備できたから、ケートスでそっちに行くよ。そして、撃つ>

 ケイトが心の中で話しかけてきた。おそらく、ナノの力を何かしらかの方法で増幅したのだろう。

 先ほどの宣言を理解し、動いてくれたのだ。

 そのことにイツキは自分にできすぎた妻だ、と内心で微笑む。

<ありがとうございます、ケイトさん>

<お互い辛いだろうけど、もう少し踊りましょう>

<そうですね、これ以上こちらが人類と争わなくていいように>

 そう言うと、心の中の通信を切った。

「そ、それで貴様はどうするというのだ!」

 威勢をはるクーリア帝に対してイツキが鋭い視線を向けた。精神束縛による影響により増幅した威圧がクーリア帝を捕え、押し黙らせる。


「報復を」


 一言、イツキは発した。

 その時、ガイナス首相の後ろで何かと通信していた高官がその表情を変えた。そして、ガイナスに話しかけると、ガイナスも表情を変える。

「何だと!?」

 驚く声がむなしく会議場に響く。

 イツキの後ろに映し出されたスクリーン、そこにはケートスが映し出されていた。

 そのケートスが、列島が、

 海面から離れた。


「ケートス、浮上」

 ケイトが、ケートスのブリッジで命じる。

 その命令を受けて、ケートスの航行を司るツバキが、ケートスの巨体を持ち上げた。

 すでに余計な虫は排除した。大事な家も人々も、もうしまった。

 だから、行こう。


 会議場に映し出されたスクリーンには全長3500kmの島が海面を離れ、空を飛ぶ、そのありえない様子が映し出されていた。


「貴方がたは、我々を怒らせた」

 驚愕の光景を背に、イツキは言う。


「心を踏みにじり、同朋を傷つけ、貶めた」

 ケートスが飛ぶ、それだけで、周囲を包囲していた海上艦隊が波にあおられる。その脇を、ケートスの重力操作によって、島から排除された数多のプロームが落ちていく。


「弁明の機会を奪い、慈悲をもとめる声をあげることも許さず、一方的に攻撃した」

 ケートスの高度が飛空艦隊と同じ高さに達する。島に衝突する前に、島から出現した火砲が飛空艇を貫き、墜落することすら許さず重力波で弾き飛ばす。


「その報いは受けてもらう」

 断罪するようにイツキが言い放った。

 ケートスがゆっくりと旋回する。そして、クジラの頭が天空会議場のある方角を向き、ゆっくりと上体を起こした。



「ケートス、主砲発射用意」

 ケイトは無慈悲に宣言する。

<ケイト、あなた!>

 ツバキが警告する。それは、ツバキが予想していたよりも、やりすぎとなる行為だからだ。

<わかっている>

 これを撃ったら各国との決裂は決定的となり、ワタセ家は孤立するだろう。

 ケートスの兵装については、事前にフェアリスから教えてもらったものをイツキと情報共有している。すでに、万が一のことはイツキと話していた。

<ツバキ、ありがとう。世界の敵になることを心配してくれて。私たちもそこで迷ってたの>

 そう、イツキもそこで悩み、ケイトはイツキの決断を支持することだけを決めて待っていた。だから、ここまで事態を悪化させてしまった。

 結局、背を押したのは、最初にフェアリスからこの惑星と人類の状況について説明を受けたあの日の夜に家族で話したことだった。

<私たちね、家族でもう決めてたんだ。世界の敵になっても、走るって。だから、撃つよ>

<あなたたちは……>

 心の中でそう言ったケイトからツバキは輝きを感じ取る。

(ああ、ヤナギ、あなた、何という人たちと出会ってしまったのでしょうか)

 だが、ケイトの言葉を受けてツバキの心も震えていた。

<うん、やっぱり私たちは似てるんだね>

 ツバキの共感する心の震えを感じ取り、ケイトが心の中で苦笑した。

 戦いたくない、という気持ちと共に家族を傷つけられた怒りがある。

 このまま、何もしないということで済ますことはできない。

「ケイト皇妃、準備整いました!」

 火器管制を担当するフェアリスから報告を受け、ケイトがうなずいた。

(どうか、これを人類に向けて撃つのが最後でありますように)

 怒りとともに矛盾した祈りを抱えながら。

「主砲、撃てーーー!」

 ケイトが号令を発した。


「双方、止めよ!」

 ハルカの制止を呼びかける声にウコン、サコンが止まった。

「僕は、ワタセ・ハルカ、エイジス諸島連合皇国、皇子である!」

 演技じみた口調であるが、滑らかにその言葉は出てきた。

「僕は、エイジスに漂着したそちらの姫を送り届けるために、この島に立ち寄った、それだけのことだ! そちらと争う意思はない!」

 その言葉を受けて、黒曜が構えていた大刀を地面に突き刺した。

「なるほど。しかし、そちらは戦闘態勢に入っているが、それはどう説明する?」

 面白がるようにシュウが問いかける。

 まるで、禅問答だ。そう思いながら、どう言うべきかハルカは考えを巡らせる。

「ウコン、サコンは他国の警告に対して僕が危険にさらされると思って庇おうとしたまでのこと。他意はない」

「ふん」

 詭弁も詭弁だ、先程まで戦闘する気満々だったのだから。

 だが、今はそれを通す。父が名乗りを上げたことで、それを通せるだけの後ろ盾ができたのだから。

「先程、そちらは、こちらの事を賊だと言ったが、先程の布告は受けているはずだ。我らはエイジス諸島連合皇国、我が国が所有する武力は本来ケイオス駆逐のためにある」

 無言で、サザン側のプロームは佇んでいる。警戒する意思は消えていない。

「だが、もしも、それでもこちらを訝しみ、疑わしき者を排除すると言うなら、全力でこちらも応えるまで。先ほどの父の警告は聞いていたはずだ」

 そう言うと、ハルカは剣を構えた。

 威圧をする気も、ウコン、サコンを巻き込んで戦闘したいとも本当は思わない、ましてや昔の戦友たちとなんて戦いたいたくもない。

 だが、もし、うまくいけば。

 その時、キナイ島に巨大な影がよぎる。

(ケートス……!)

 ハルカは、ケートスが戦闘状態に入っていることに気づいた。

 そして、姿を現した直後、その巨大なクジラの腹部から主砲が発射された。

 世界を揺るがす一射が。


 宇宙から惑星を見たら、それはほんの数センチの線だっただろう。

 実際は、惑星オービスの上空を、エイジス海域からノトス・サザン大陸に向けて幅50km、長さにして2万kmの三連重力砲が走った。

 その軌跡は夕暮れに染まった空を割き、余波が天空会議場を掠め、天空会議場の1000km先にいた飛行型ケイオスの群れを塵も残さず消滅させた。

 空に紫の軌跡が走ったあと、重力砲によって、振動した空気の圧が島を襲い、周囲を包囲していたユエルビア共和国の海上艦隊の武装を使用不能に追い込む。数キロ先を掠めた天空会議場の電子機器の大半を故障させた。

 そして、世界にケートスの力と畏怖を恐怖をもって知らしめた。

 ケートスが放った主砲による影響はそんなところだった。


今回、短くなってしまってすいません。

次の投稿は、早ければ今日、最悪3/25にあげさせていただきます。

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