第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その34)
「やっぱり反対する?」
奈菜は伏目がちだった視線を上げてくる。
不安げである。
「気持は分からないことはないけれど、現実的にはねぇ・・・。」
そこまでは言えるものの、哲司も明確には「反対」と言えない。
どうしてなのかは、自分でも分らない。
「だって、…可哀想。・・・ここに居るんだよ。」
奈菜はまた自分の腹部に手を当てる。
「でも、まだそんな実感ってのはないんだろう?
動いたりするわけじゃないし。」」
「うん、・・・でも、ここに居るんだし、生きてるんだよ。」
「・・・・・・・・・・」
訴えるような奈菜の目に、とうとう哲司は黙ってしまう。
マスターが少し大きめのグラスで、オレンジジュースを運んできた。
「たった今絞ったところだから、少し酸っぱいかも知らんが・・・。」
そう言ってグラスを奈菜の前におく。
そして、一緒に運んできたストローの袋を破って、このジュースの中に差し込むようにする。
奈菜は、また自分の隣にマスターが座るのだろうと、身体を少しだけ窓側に寄せたが、マスターはまたそのままカウンターの向こうに戻っていった。
「若い2人の話に割り込みはしない」とその背中が言っているようだ。
「ここのマスターから聞いた話だと、僕と付き合いたいんだって?」
哲司は話の方向を切り替える。
店長やマスターからはその言葉を聞かされてはいたが、やはり本人の口から聞かないと納得できるものではない。
「うん。・・・・私じゃ駄目?」
「どうして?」
「前から・・・、初めて会ったときから・・・・。」
「あの釣銭を間違ったとき?」
「うん。・・・・だって、ちゃんと返しにきてくれたんだもの。
とっても、嬉しかったし・・・・。」
哲司は、「僕も最初会った時から可愛い子だなと思ったよ」と言いかけて、その全てを無理やり飲み込んだ。
確かにそれが実感なのだが、いま、この話をしているときに口にするべきではないと感じたのだ。
それは、多少は大人の狡賢い計算があったのかも知れないが、兎も角も、奈菜の本心を聞き出すことが先決のように思われる。
「そう思ったのに、どうして、子供が出来たっていうようなことを聞かせたの?」
哲司は、その点がどうしても合点がいかない。
「やっぱり、それを聞いたら、私のこと嫌いになる?軽蔑する?
そんな女って思う?」
(つづく)