壊れた鳥籠 4
「澪!」
神林神社の石階段を登りきるとそこには、赤と白の巫女服に身を包んだ一人の少女が境内の掃除をしていた。
驚いた顔で澪はこちらを見る。
「え……た、隆哉君?」
「はぁ……はぁ……や、やぁ」
「ど、どうしたんです? こんな時間に」
「あ、ああ……そ、その……澪に……どうしても話したい話があってね」
荒い息をなんとか整えながら僕は澪にそういう。
「そ、そうですか……ここではなんですから、私の家の中へ入りませんか?」
「あ、ああ……そ、そうさせてもらおうかな」
言われるがままに僕は澪の家にお邪魔することになった。
家の中はとても一人暮らしとは思えないほどに整然としていた。さすがは澪である。
「そこへ座ってください。今、お茶でもお出ししますから」
「ああ。ごめんね」
そのままテーブルの方へ案内される。
「……お主、どうなっても知らんからな」
「あ? どうなって、って……どうにもならないよ。放っておいてくれ」
神様の余計な言葉は無視し、僕は澪の方を見る。
そういえば、澪は家では巫女さんの姿なんだな。
なんだか、普段見ている幼馴染の意外な一面を見たようで新鮮だった。
「うふふ。珍しいですか。巫女服が」
僕の目線で悟ったのか、澪は少し恥ずかしそうに微笑む。
「あ、あはは……ま、まぁね」
「まぁ、私も好き好んで着ているわけではないのですが……やっぱりこの方が神社らしくて、参拝客の人にも示しがつくんですよ」
「あ、ああ。そうなんだ」
「ええ。はい。お茶です」
喉が渇いていた僕は、差し出されたお茶を一気に飲み干す。
澪はそれを確認してから僕の目の前の席についた。
「で、お話って、なんでしょうか?」
ニッコリといつも通りの優しそうな笑顔で僕を見る。
「あ、ああ。その……悩んでいることがあってね」
「うふふ。だと思いました。隆哉君が私に話しかけてくるときは大体、困ったことがあった時ですよね。翼と喧嘩した、とか、夢ちゃんを泣かしちゃった、とか」
「あ、あはは……そ、そうだったかな?」
「ええ。この十七年間、ずっとそうでしたよ?」
なんだか恥ずかしい思いだ。
ずっとこれまで澪に迷惑をかけてきたのだ。
なのに、この期に及んでまだ迷惑をかけるとなると……
僕は少し気が引けてしまったが続けるしかない。
「あ、あのね……その、困っているのは……あの三人のことなんだ」
「あの、三人?」
「あ、ああ。夢と杏と翼」
「ああ。なるほど。で、どうして困っているんです?」
「そ、その……どうやら、三人が三人、僕のことを……その……好き、みたいなんだよね」
頭の中でなぜか神様の溜息を聞こえた気がした。
確かに言い方には問題があったかもしれない。
だけど、言うなら簡潔に言った方がいい。
その方が澪にもわかってもらえるだろうし。
澪はキョトンとした顔で僕を見ていた。
「あ、ああ。ごめん。急に変なこと言っちゃって……」
「い、いえ。す、少し驚いただけですが」
「そ、そうか。で、でね……その、澪に相談したいんだ」
「相談? そのことについてですか?」
「ああ。その……僕はどうすればいいのかな?」
僕は真剣な顔で澪を見る。
もちろん、素で真剣なのだ。真剣な気持ちで僕は澪に質問している。
澪もびっくりはしていたが、その瞳は真剣だった。
黒い綺麗な宝石のような瞳が、まっすぐに僕を捉えている。
と、ふいにそんな真剣な顔の澪はニッコリと微笑んだ。
「隆哉君」
「は、はい」
澪は僕に向けてもう一度ニッコリと微笑んだ。
澪が僕の相談に対して答えを言ってくれる。
それは僕にとってはまさに神からの御託宣。
これから僕が進むべき、救済の道を示す言葉。
……僕は、ついに救われるのだ……!




