表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/98

死の足音が聞こえる 4

「あ、ああ。翼。澪」


「なんだぁ? 隆哉、お前、今日は杏と一緒なのか? ははは、なんだよ、夢じゃなくて杏に乗り換えたのか?」


「な、ちょ、ちょっと……」


「うふふ。隆哉君。なかなかのプレイボーイぶりですね」


「み、澪まで……」


 僕は慌ててしまった。


 ああ。そうだ。この二人には話していないんだった。


 でも、この二人に話していいんだろうか。


 僕が夢の告白を断って杏の告白を了承したとなると、そんな奴とはもう口も利きたくないんじゃないだろうか?


 ……いや。でも実際その通りだしなぁ。


 僕は言わなければいけないのだ。


 翼と澪に。僕が杏と付き合っているということを。


「ふ、二人とも……実は――」


 そう言おうとしたときだった。


 僕は思いっきり後ろから引っ張られた。


「へ?」


 と、そのまま僕は引きずられるようにして後ろ向きに進んでいく。


 呆然としている僕のことを、同じく呆然として翼と澪が見ている。


 何がどうなっている?


 そう思って後ろを見る。


「あ、杏……?」


「ほら、隆哉。早くしないと学校始まっちゃうよ」


「え、ちょ……い、今、翼と澪と喋って……」


 すると杏が僕を引っ張る手を止めた。


 いきなり止めたので、僕はそのまま後ろ向きに倒れそうになってしまった。

「な、なんだよ……いきなり」


「……へぇ。他の子と喋るんだ」


「は?」


「隆哉の彼女は私なのに、他の女の子と喋るんだ」


 まただ。


 杏の瞳は焦点があっていない。


 まるで、光を失ったように、虚ろな瞳で僕を見ている。


 虚ろ、というか、ドス黒い。


 まるで、そのまま飲み込まれてしまうくらいに。


「え……?」


「だって、そうでしょ。私だけでいいじゃない? 隆哉と喋るのは」


「で、でも……翼も澪も幼馴染だろ? なのに――」


「そんなの関係ない」


 きっぱりと、そして、はっきりと杏はそう言った。


 明らかに怒りの表情で僕を見ている。


「え、で、でも……」


「何? 隆哉、私以外の女の子と話したいの? おかしいよね? 私は隆哉だけしか見ていないのに、隆哉は私だけを見てくれないんだ……おかしいよ。絶対おかしい。ううん。おかしいというか、あっちゃいけないことだよ、そんなの」


 会話、というかむしろ既に杏は一人でブツブツと呟いている。


 その呟きの節々に「消す」とか「殺す」とかいう単語が聞こえるのは気のせいであってほしい。


「あ、杏?」


 怖がりながら話しかけてみると杏は僕を見た。そのドス黒い瞳で。


「ねぇ、約束してよ。私以外の女の子とはしゃべらない、って」


「は、はぁ? お、おいおい……そんな――」


「約束しなさいよ!」


 学校中に響くような大きな声で、杏はそう言い放った。


 あまりの大声に周りを歩いていた生徒達が振り返って僕達を見る。


 僕は慌てるばかりで何もできなかった。


「あ、杏……」


 杏は黙ったままで僕を睨んでいる。


「……私、先、教室行ってるから」


 それだけ言い残して杏は歩いていってしまった。


 僕はその後姿をただ呆然と眺めていることしかできなかった。


 なんだ……今のは……


 あれが……杏?


 あまりにも恐ろしくて何もいえなかった。というか、呆然としてしまった。


 僕は周りから注がれる好奇の視線に萎縮しながら、教室へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ