選択肢は一つ、ではない 4
「そういえば……なんで夢なのよ?」
「……へ?」
「私達も一応幼馴染なんだけど、なんで夢なの?」
馬鹿にしたような調子で僕をおちょくるように話しかけてくる杏。
「え? な、何? どういうこと?」
「だから! 私、夢、翼、澪! その中でなんで夢を選んだのか聞いてんのよ!」
少し荒っぽい口調で杏はそういった。
選んだ、って……まだこの段階では告白の話も出ていないはずだったのだが。
「あ、杏ちゃん……ちょ、ちょっと……」
「あ? 何、夢?」
「は、恥ずかしいよ……そ、それに、タカ君も困っているよ。そういうこと聞くのはよくないんじゃないかな?」
「いいのよ! 大体、夢も夢よ? コイツはどう見たって夢のことが好きなんだから、さっさと告白しなさいよ」
そういって夢の髪をグリグリと撫でる杏。
「や、やめてよ~……杏ちゃん」
「ほれほれ~、早く告白しろ~」
じゃれついている夢と杏。
しかし、当の僕にとっては大問題だった。というか、完全に冷や汗ものだったのだ。
もし、ここで夢が何かを血迷って告白してきたら、間違いなく僕は断れない。
こんな幼馴染全員の中で、夢が告白してきたら、了承するしか道は残されていない。
だから、この時僕は笑顔だったが、内心心臓は飛び跳ねていたのだった。
「ほら。杏、もうやめろ」
「あ、ちょ、つ、翼……」
「夢が困っているだろ。それに、夢が隆哉に対してどのように接するかは、幼馴染の俺達でも強制はできない。夢の自由だ」
「そうですね。夢が思った通りにするのが一番です」
杏の暴走を押さえつけた翼と澪の二人はニッコリと夢に微笑みかけている。
夢も安心したように笑い返していた。
「……ふんっ。アンタ達だって、夢が隆哉に告白したら面白い、って思っている癖に」
「え? そ、そうなの? 二人とも?」
杏はさも意地悪そうな笑みを一人で浮かべていた。
「そ、そんなことはないぞ。お、俺は別に……どうなろうと、幼馴染が幸せならそれでいい」
翼はそう言って取繕った。
「私もそうです。特に面白い、とかは考えていませんね」
相変らずの笑顔で特に慌てた様子もなくそれに返答した。
「あ……杏だけじゃないのか? 面白いと思っているのは」
と、ここで僕はふと言葉を発した。
杏は驚いて僕の方を見る。
「な、何よそれ!? ま、まるで私だけ、性根が腐っている、みたいな言い方、やめてくれる!?」
杏は思わず顔を真っ赤にして僕に迫ってきた。
慌てて僕は杏を押し返す。
「そ、そういうつもりで言ったんじゃないから……落ち着いて」
「じゃあ、どういうつもりで言ったのよ!?」
返答に困る。
思いつきでつい言ってしまったが……よく考えれば杏に言うべきではなかった。
杏はジリジリと近付いてくる。思わず、杏の身体が僕に触れてしまうくらいに。
柔らかかった。なんというかマシュマロくらいに。
ああ。そうだよな。
男冥利に尽きるというか、こんなにもよく出来た幼馴染達に囲まれているというのはある意味奇跡なのかもしれない。
「ちょっと! 隆哉! 聞いているの?」
「え? な、何?」
「だから……はぁ……もういいわよ」
と、ちょうどチャイムが鳴った。
それと同時に杏はスタスタと自分の席に戻って行ってしまったのだった。




