選択肢は一つ、ではない 2
そこには長い髪をツインテールにまとめた、可愛らしい女の子が立っていた。
鋭い目つきで僕と夢を交互に見ている。
「あ、杏ちゃん……」
夢が驚いたように杏を見た。
「全く……アンタらねぇ、仲がいいのはいいけど、朝っぱらからイチャつくのはどうかと思うわよ?」
「い、イチャついてなんかいないよ! お、お話してただけだよ……」
「どうだか……隆哉。アンタのほうはどうなのよ」
そう言って僕を睨みつける杏。
僕は曖昧に微笑むことしか出来なかった。
逢沢杏。僕の「他の幼馴染」の一人だ。
小さい頃から気が強くて、よく僕なんかは苛められたりもした。
今でもそれは続いている。僕は未だに杏に強く物事を言えない。
「し、してないよ。一緒に登校しているだけ。いつも通りでしょ?」
「ふん。全く……ほら。さっさと行くわよ」
そういって僕と夢の少し先を歩く杏。
僕と夢はお互いに顔を見合わせて苦笑いした。
杏も僕達と同じ方向に家がある。だから、学校に行く時にはたまに杏と一緒になるのだ。
無論、一緒になればいつものように、こんな風に登校させられるわけなのである。
「この女子は気が強いの。確か……逢沢杏じゃったか?」
「あ、ああ。そうだよ。よく知っているね」
「ま、神様じゃからな。で、この女子もお主のことを好き、と」
「は、はぁ? そんなわけないだろ? 杏が僕のこと好きなわけない」
「でも、お主は好きじゃろ?」
もちろん、嫌いではない。好きだ。
だが、それは果たして恋愛感情的なものかといわれると……そもそも、夢に対してもそれは同じことが言える。
僕にとっては幼馴染の二人は、まだ幼馴染なのだ。
「はっきりしないのぉ。そんなんじゃから女に刺されるんじゃろうが」
「なっ……しょ、しょうがないだろ。元々、そういう性分なんだから」
「性分か……しかし、決断の時は刻一刻と迫っているようじゃぞ?」
頭に響いた声で僕は気付いた。
学校には既に到着していた。
僕は自然と心臓の鼓動が早まるのを感じる。
「ちょっと! 隆哉! 早く来なさい!」
昇降口で、杏が叫んでいるのが聞こえる。
僕は慌ててそちらに向かったのであった。




