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【読了3〜5分】宇宙船キッチンは今日も無重力(短編連作)  作者: 遠藤 世羅須


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6/10

第6話 包丁、大量回遊(ホラー回?)

ついに「あいつら」が浮遊します。

無重力の恐怖極まれり!

宇宙船《アルデバラン号》の厨房には、包丁がやたら多い。

三徳、菜切り、ペティ、出刃、骨スキまで壁一面。

多いだけならまだいい。

問題は、その全部が飛べる環境にあることだった。


「予備ありすぎじゃない」と料理長マキ。

「割引だったんで、大量購入しときました」と補給係ゴロウ。

調理担当ミサキは野菜を洗っている。

仕込み開始。リョウ(若手)が玉ねぎに刃を入れた、

衛生担当ユイは無言で胃薬を握りしめている。


その瞬間。


『重力制御、定期再起動。三、二、一――』

挿絵(By みてみん)


「今!?」

床が消えた。身体がふわりと浮く。野菜が宙に舞う。

ここまでは、もう慣れた。


問題は壁だった。

“カチッ”という気持ちいい音とともに、マグネットラックが全解放した。


ゴロウが定期再起動の時間を入力し忘れて、

マグネットロックをし忘れていたのだ。

挿絵(By みてみん)


包丁が、いっせいに浮いた。

銀色の刃が厨房中央に群れを作り、天の川みたいに流れたり、

ゆっくり旋回したりする。包丁のオービット…。

刃先が照明を拾って、反射する光が壁と天井に散った。

まるで――包丁のミラーボールだ。

綺麗だと思ってしまうのがなお最悪だった。

挿絵(By みてみん)


ユイが、ほんの一瞬だけ息を呑んだ。

「……きれ……」

自分で気づいて慌てて言い直す。

「キレ味の問題です!危険です!」

リョウが小声で言う。

「今、“きれい”って言いかけましたよね」

「言ってません。決して言ってません!」

ユイが即座に

「泳がせない。動かない。全員その場」


ミサキが野菜を抱えたまま、包丁の群れを見上げて震えた。

「……もうやだ……!なんで包丁が飛ぶの……!」

全員が振り返る。

マキが優しく言う。

「ミサキ、落ち着いて」

「落ち着けません!今日だけは落ち着けません!」

ユイが小声で言う。

「ミサキさんが声を荒げるの、初めて見ました……」


ゴロウが手を挙げた。

「回収します!割引の鍋つかみで!」

「却下。素手で近づくな。手順を開いて!」


ユイが端末を叩く。表示された見出しが妙に具体的だ。

《緊急手順:刃物が大量に浮遊した場合》

「手順あるんだ…」

「あなた達が読まないだけです」


ユイの指示は淡々としていた。

「空調最低。出入口封鎖。磁力で“壁に集める”。防刃手袋装着してから回収」

マキが頷く。

「空調止めろ」

気流が落ちると、包丁の動きが鈍くなる。オービット銀河が、しぶしぶ静止する。

ミラーボールが整列し直して、今度は整然と横に並んでいく。


「キレイ。包丁のラインダンスだ」

「見とれないで」

挿絵(By みてみん)


「磁力、用意」とマキ。

ゴロウが黒いU 字型の物体を取り出す。

「強力磁石です。割引で」

ユイが睨む。

「今だけ許可します。今だけ」

挿絵(By みてみん)

磁石をかざすと、包丁が一本、また一本と“カチ…カチ…”と

吸い寄せられて整列していく。

それと、マキも大きな磁石で個別に回収してゆく。

リョウは息を止めたまま見守る。


磁石に包丁が吸い寄せられるたび、ゴロウの顔が曇っていく。

「……割引って、怖いですね……」

ユイが驚いたように振り返る。

「あなたが反省してる……!」

「いや、あの……ちょっとだけ……」

マキが肩を叩く。

「成長だよ、ゴロウ」

「でも次のセールは見逃せません!」

「戻った!」


最後の一本だけが、磁石に付かずに残る――そう思った瞬間。


『重力制御、復旧します』


ずん、と床が戻る。最後の包丁が落ちる。

今日はマニュアルと磁石が勝った。


沈黙ののち、マキがホワイトボードに太字で書いた。

「新ルール。包丁は必要本数だけ出す」

ユイが追記する。

「刃物保管棚に“全解放”機能を付けない」

ゴロウが抵抗する。

「清掃しやすいかなって!」

「刃物を解放して掃除する厨房はありません」


食堂から通信が入った。

『今日のメニュー、どうなりました?』

マキは一拍置き、答えた。

「切らない料理だ。冷凍庫にあるカット野菜で」

リョウが小声で言う。

「玉ねぎ…切りかけ…」

ユイがにこりと笑った。

「今日は、ちぎります。宇宙は柔軟性が命です」


その日の夕食は、不揃いにちぎられた玉ねぎがたっぷり入った

「ワイルド・スープ」だった。

船員たちは「いつもより味が前衛的だ」と喜んだ。

その“前衛”が何を意味するか、誰も深く考えなかったが。


リョウは心から思った。宇宙で一番怖いのは無重力じゃない。

“割引で大量に包丁を買う人”だ。


(つづく)

浮遊しても、「マニュアル」がある!・・・ということは、今まで何度も浮遊しているということ。やはり、「お約束」なのですね、宇宙では(笑)

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