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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第6章 辺境弱小ダンジョンの収穫

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2.不機嫌なふたり

 今年のように夏が暑かった年には、王都近辺で渡りの魔物が多く現れるらしい。

 冒険者にとっては数年に一度の書き入れ時だ。

 割のいい依頼をつかむため彼らの動き出しは去年より早く、冬に入ると村に滞在する冒険者はピーク時の3割くらいになった。


 ただ、去年と違うのは、それと入れ替わるように、冬場を修行に充てる冒険者がやってきたことだ。

 獲物の少ない冬を修行に充てられる彼らは、懐に多少余裕のある高位冒険者で、当然高魔力持ちが多い。

 おかげで、訓練施設は、利用者が減った割には獲得DPは減らず、去年のように赤字を出さずに済んでいる。


 温泉の方は、農閑期に入ったファーレン領の人たちが来てくれるため、冒険者が減った分をカバーできている。


 つまり、営業は至って順調である。

 しかし、営業じゃない方は全く順調とは言えない。


「ミリちゃん、どうしたの難しい顔して。

 ……ああ、そうよねえ。ここじゃあ出会いがないもんねえ。

 ディオちゃんは、実家でお見合いしょ?

 そりゃ焦るわよねえ。

 誰か紹介してあげようか? えっと、誰がいいかしらね……」

「あ、お気遣いなく。そこは全く焦ってないんで」

「そうなの? 困ったら何でも相談に乗るわよ?

 ミリちゃんはちょっと陰気なとこがあるから、落ち込む前に言うのよ?」

「ありがとうございます。私のことはいいですから、お風呂行ってきてください。

 今、割と空いてますから。はい、急いで急いで」

 

 陰気で悪うございましたね!

 ポーラさんの無神経はもはや味だと認識しているので、腹も立たない。


 それに、ディオさんが実家に帰ってるのはお見合いじゃないし、仮にお見合いだったとしても、私は、男は前世のクソモラハラDV野郎で懲りている。焦るはずなどないのだ。


 まあ、顔に出ちゃってたのは気をつけなきゃだけど。

 だが、それはそれとしてジジイは絶対に許さん。

 リリが悲しむのでやらないが、そうでなければ、雪を搔き分けて塩山に行って、歪んだクリスタルを叩き割っているところだ。


 ジジイが何をやったかというと、うちのリリを、私に断りもなく自分のダンマスにしやがったのだ。

 いや、リリは秋の半ばに相談していたらしい。

 その頃の私は冒険者の行列をさばくのに必死で、相談されたことすら覚えていなかった。

 それについては私が悪い。

 だが、だからと言ってジジイが許されることにはならない。

 

『マスター、嬉しいお知らせがあります。

 リリが、先輩のダンジョンマスターになりました』


 コアちゃんからそう聞かされた時、私は意味が理解できなかった。

 「どういうこと?」と聞き返した私に、コアちゃんが言った。


『リリが、盆地ダンジョンのダンジョンマスターになりました』

「……それのどこが嬉しいことなのよ!」


 声を荒らげる私に、コアちゃんは、少し困ったような声で、リリがダンマスになるメリットを話した。


 それは確かに、コアちゃんにとって「嬉しいこと」、つまりダンジョンにとっていいことだった。


 リリとジジイのパスが繋がることにで、本体であるコアちゃんは、ジジイとの念話が可能になり、ジジイからレベルⅣの知識を直接学べるようになっていた。

 レベルⅡダンジョンが、進化せずにレベルⅣの知識を知ることなど本来不可能なのに、それが実現したのである。


 コア同士が直接話すことが普通にあることかどうかは、コアちゃんにもジジイも知らなかったが、ジジイが知らないということは、珍しいことなんだろう。

 

 感情面を別にすれば、ダンマスして歓迎すべきことだった。

 コア分体のリリの場合は、ジジイが壊れてもコアちゃんが無事なら死ぬことはないらしいから、ダンマス最大のリスクも回避できている。


 そのあと、コアちゃんから経緯を聞かなければ、私も渋々ながら納得しただろう。


 だが、その経緯を聞いて私の怒りはMAXに達した。


 ジジイは、リリにこう話を持ちかけたのだ。


『リリ、じいちゃんのダンマスになってくれんか?

 じいちゃんの最後の頼みじゃ。

 リリがダンマスになってくれれば、じいちゃんのケガが治るかもしれんのじゃ。

 ケガが治れば、分体を作っていっしょに外に行けるようになるかもしれん』


 私たちのダンジョンにとっての「嬉しいこと」は、結果的にそうなっただけであり、ジジイの目的は、それとは全く関係がなかった。


 甘えてんじゃねえよ。

 ジジイの行動の結果である「ケガ」、つまりコアの歪みなど、こっちの知ったこっちゃない。

 こちらのメリットを提示して取引を持ちかけたのならば、まだわかる。

 けど、純粋なリリの同情を利用するようなやり方は、絶対に認めん。


 「じいちゃん寒いんじゃ」とリリに小温泉を設置させたのも許せん。

 リリはコアでダンマスだから、パーツの設置くらいできるんだってさ!

 あんまりムカつくので、リリに色々吹き込んで思いっきり高温にさせた。

 ジジイなんぞ煮えてしまえばいい。


 私は怒りをぶつけたが、コアちゃんはなぜ私が怒っているのかよく理解できなかった。

 ジジイのコアの歪みが結局治らなかったという話を聞いても、私の怒りは収まらなかった。

 「私がジジイのコアを破壊すれば、リリはダンマスじゃなくなるよね?」って言ったら、すごくうろたえて、悲しそうに押し黙った。


「大丈夫、やらないから。ただそのくらい怒っているってことは覚えておいて」

 

 私はそう言って、コア部屋を出た。

 しばらくしてさすがに言い過ぎたと思い、コアちゃんとリリに謝って、今は普通に話せている。


 ダンジョンコアは人間ではない。

 感情によってその実利主義が揺らぐことはない。

 私が謝ったことで、コアちゃんとリリの中では、あの一件は過去のこととなった。

 だが、私はダンマスという謎生物であっても、考え方も感情も人間のままだ。

 現状が変わらないことはわかっていても、感情は簡単には収まらない。


 ダンジョン内のことだから、ネーさんに相談するのも違う気がして、私は一人で抱え込んだ。

 

 春になったら、リリはジジイのダンジョンに行くのだろう。

 その時にはちゃんと笑顔で送り出さなければ。

 娘を嫁に出す父親のようなことを、私は自分に言い聞かせた。


 私は、時々湧き上がる怒りをなだめつつ、なんとか日々をこなしていった。

 そんな中で、珍しく気持ちが少し上がったのは、アーノルドさんからモーガンさんのその後の話を聞いた時だった。


 モーガンさんは、手に入れた2枚の古龍のうろこを、一枚はガロヌ侯爵領のギルドに直接売り、もう一枚は王都のオークション出したそうだ。

 別々の場所で、別々の方法で。

 出所を隠すための、モーガンさんらしい配慮が嬉しい。


 オークションではすごい高値がついて、モーガンさんは一生安泰以上のお金を手にしたらしい。

 よかった。嫁取りがんばれ。


 ちなみに競り落としたのは、エルフの男で、競り負けた第3王子は、悔しがって泣き叫んだそうだ。

 競り負けたくらいで泣き叫ぶとか、なんとなくどんな人物なのか想像がつく。

 公爵が愚かって言ってたのも納得だ。ざまぁ。

 競り落としたのがエルフってことは、ディオさんの実家関係者かもしれない。

 帰ってきたら聞いてみよう。


 とか思っていたら、ディオさんが予定よりだいぶ早く帰ってきた。

 故郷から友好的な招待を受けて嬉しそうに旅出っていった時と違い、プリプリ怒っている。


「ミリちゃん、ご飯食べに行くです!」


 私はやけ食いに引っ張り出された。


 リムズデイルのレストランの個室で、どんどんお皿を積み上げながら、ディオさんはエルフの里での出来事を怒涛の如く語った。


 驚いたことに、それにはモーガンさんがオークションに出したお宝が関わっていた。

 そして、オークションで競り負けた王子も。


 発端は、王子の望みを聞いた王が、傍仕えにエルフの娘を出せと、里に要求したことだった。

 形式上王国民ではあるが、完全な自治を認められているエルフが、そんな勝手な要求を呑むはずはなく、それは拒否された。

 エルフにとっては、つい最近サロン探索の貴族に無断で結界近くまで侵入されて抗議したばかり。その直後にこんな愚かな要求をするのか。と、里の長老の王国への評価は急落した。

 王は、森の素材の供給停止をほのめかされ、あっさり要求を引っ込めた。


 それで終われば良かったのだが、王子はそのうっぷんをオークションにぶつけた。

 いわゆるオークション荒しである。

 王子を溺愛する王がバックについているのだから、始末が悪い。

 不必要なものを次々落札し、競り負けた人の悔しがる顔を見て大笑いしていたそうだ。


 そして、問題のお宝、古龍のうろこの番となった。

 ドラゴンが王家の紋章に描かれていることもあり、王子はこれだけは絶対に競り落としたかったらしい。

 ところが、相手はエルフ。

 「エルフの機嫌を損ねるな」と王から釘を刺されていた王子は、一騎打ちとなったところで側近から止められ、目の前でそのお宝を諦めることとなった。


 エルフは、今回の理不尽な要求に腹を立て、人間とさらに距離を置くことを考えていた。

 古龍のうろこを求めたのは、そのために行う結界強化の準備だった。

 オークションでの行動がエルフの心証をさらに悪化させ、その決断を決定づけたことに、王子は気づいていなかった。


 そして、その結界強化こそが、ディオさんが里に呼ばれた理由だった。


「ひどいです!

 あれじゃ、王子と同じなのです!」


 祖父である里の長老から突きつけられた理不尽な要求を思い出し、ロリBBAエルフは小さな手でテーブルをパシパシ叩いた。

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