デビリン閑話⑤ 魔石の効果と湖の魚
主は小さいけれど、その知識はすごい。
元々の知識に加え、盆地の老コアの上位レベルのダンジョン知識や、「転生者」である妹の異世界知識も学んでいるので、私がどんなことを尋ねても答えが返ってくる。
私にもわかるように話してくれるのだが、以前の私はそれでも理解できないことがあった。
いや、今もそうではあるのだが、当時よりは少しマシになってるという自信はある。
私の理解力が少し上がったのは、巨大魔魚の魔石を食べたためだ。
しばらく前、主との散歩の途中、ダンジョン近くの池で、普段食べるの魚の数倍ほどの大きさの魔魚を獲った。
きっと長い間、この池で生きてきたのだろう。
その頭にある魔石はとても大きく、他の魔魚に比べて黄色も濃く深かった。
長い間生きた魔物の魔石は、色が濃いと主が教えてくれた。
主は魔石が好物で、昔食べたミノタウロスの魔石はとても美味しかったそうだ。
魔魚の魔石を主に差しだしたら、今は盆地の魔力で満足しているので、これはデビリンが食べた方がいいよと言った。
主がネー様から聞いた話では、長く生きた魔物の魔石は、私のような魔物にとっては体や知能を大きく成長させてくれる魔法のような食べ物らしい。
その時の私には少し難しい話だったが、食べた方が良いということはわかったので、その場でゴクンと飲み込んだ。
翌日から、主の話す内容が前よりよく分かるようになったので、魔石を食べて良かった。
次にそのような魔石が獲れたら、妹に食べさせようと思ったのだが、妹は魔物ではないので、特に頭が良くなることはないらしい。
少し残念だ。
妹も少しずつ成長はしてる。
ただ、元々の理解力が低いので、私が少し難しいことを話すと、「何言ってるかわかんないけど許す!」と言って笑ってごまかす。
許す許さないという話ではないのだが、妹の成長に時間がかかることはわかっているので、なるべく簡単な言葉で話すように心がけながら、特に叱ることはせずに見守っている。
頭は良くなくても、毎日しっかり仕事をしているのは、妹の良いところだ。
私は今まで、ダンジョンを守るという意識はあったけれど、仕事がどういうものかよくわかっていなかった。
皆が「仕事をする」と言うので、それぞれがやっていることが「仕事」なんだろうと漠然と思っていただけだ。
私はこれまで、ほとんど仕事をしていなかったことに気づいた。
毛づくろいをする気のない妹の父でさえ、皆のために森で魔物や獣を獲ってくる。
ダンジョンで暮らす家族の中で、仕事をしていないのは私だけだった。
私は反省をした。
主は「デビリンはみんなの人気者だから、ちゃんとお仕事してるよ」と言ってくれたが、人気があったとしてもそれは仕事とは言えないと思う。
新しい冒険者用の階層では、冒険者と戦うという仕事があるそうだが、冒険者は弱いため、いつ仕事が入るかわからない。
それに私が考える仕事というのは、戦うのではなく、何か美味しいものを獲ってくることだ。
毛づくろいをする気のない妹の父が獲物を持ってくるのに、私が何も持ってこないというのは、私の序列が妹の父より下になってしまう。
それを認めるわけにはいかない。
何を獲ったらいいか考えて、私が得意なのは魚を獲ることなので、妹の母に獲ってきた魚を渡した。
魚は美味しいから、みんなとても喜んだ。
ネー様は、池の水には魔力が溶けこんでいるから魔魚は美味しくなると言った。
そこで私はひらめいた。
盆地の湖は近くの池より魔力が濃いから、あそこで魔魚が獲れればもっと美味しくなるはずだ。
主に相談したら、湖には魚はいないそうだ。
私ががっかりしたら、主が「わかった! 池のお魚を湖に運べばいいんだよ!」と言った。
さすがは私の主。素晴らしい考えだ。
私と主は、みんなには内緒で、湖で魚を育てることにした。
そこで、私は主に手伝ってもらって、池で獲った魚を池の水の入った袋に入れて、何回も盆地の湖に運んだ。
初めのうちはいっぱい死んでしまったけど、そのうちに袋にギューギューに詰めなければ死なないとわかったので、今ではめったに失敗することはない。
もし失敗しても、食べるので問題はない。
湖には、龍脈の魔力とネー様が長い間水浴びをした魔力が溶けこんでいて、ネー様は「底には魔石がたくさん転がっているやろな」って言ってたので、その魔石を食べれば魔魚はすごく大きくなって、すごく美味しくなるに違いない。
一匹だけ獲って食べてみたら、池の魚よりずっと美味しかった。
特に卵はとろけるくらい美味しかった。
もっと食べたかったけど、まだ魚の数があまり多くないので我慢した。
あと何回か冬が来て、湖が魚でいっぱいになったら、卵のところだけたくさん食べてみたい。
お残しはいけないことだけど、これは私が育てた魚なので、もし私を生んだお母さんが知ってもきっと叱られない。




