10.冒険者、減るってよ
ヴァネはあれからパタリと姿を見せなくなった。
来たら来たでウザいが、立て続けに来てたヤツがいないと、ちょっとだけ寂しく思わないないこともない。
「ここんとこヴァネ来ないけど、ディオさんなんか聞いてる?」
お昼休みに事務所に顔を出したディオさんに聞いてみる。
「いえ。ディオもこのごろ会ってないです。
でも、さすがに気まずくて、顔を出しにくいんだと思うです」
「いや、そういうタマじゃないでしょ。
まあ、単に忙しいだけかな?
またなんか変なこと考えてないといいけど」
「考えたら、嬉しそうに言いにくると思うです」
「あー、だよねー。じゃあ、来ない方がいいかぁ」
あ、なんか今ゾワってきた。
「ディオさん、なんかやらかす気がしてきたから、今度見てきてくれる?」
「わかったです。明日行ってくるです」
「え? 明日は収穫祭だよ?」
「人がいっぱい集まるのは苦手なので、リムズデイルのおうちに避難するです。
ミリちゃんはディオの分まで楽しんでくるです」
「あ、そりゃ避難するするかあ。そうするよ」
お祭りのメイン会場は村の広場だけど、カレル村長の要請で、今年はうちの温泉でもひとつイベントを実施する。
夕方から翌日昼すぎまでの、女性限定の無料開放だ。
その日、温泉は夕方からの営業で、オープン後は男子禁制となる。
男たちはどうせ大騒ぎするに決まっていて、どうしても女性にそのしわ寄せがくる。
特に、祭りの終わりころになると収拾がつかなくなるので、その前に希望者は温泉に逃げ込んでもらって、そのまま疲れを癒してもらおうというのが趣旨だ。
ただし泥酔者は入場禁止。まとめて村に送り返すことになっている。
宿泊は快適設定の草原。うちがダンジョンだというのはもう公表しているので問題ない。
草原は、今回が初の一般開放になる。
外の季節は秋だけど、うちの草原は快適な常春設定だ。
春眠暁を覚えないで昼までごゆっくり――あ、特別に時間だけ真冬設定にして、暁も遅らせておこう。
おっさんども、あとで話を聞いて悔しがるがいい。
父さんは家族だからしょうがないけど、その他の男を我が家に招く予定は一切ない。
収穫祭当日。
朝のうちに準備を終えて、家族といっしょに村に出かける。
ネーさんもあとから合流する予定だ。
馬車はお休みだけど、デビリン号だからそれより早く村に着く。
顔見知りだらけの村人たちと挨拶を交わしながら、村の家に向かう。
父さんとお姉ちゃんの猟師父娘は、猟の時期はこっちの家が生活の中心になる。
お姉ちゃんは冬になったらダンジョンの家に帰ってくるけど、父さんは天敵のディオさんがいるので、もしかしたら冬もこっちかもしれない。
でもまあ、昔ほどじゃないから、ちょこちょこは戻ってくるかな。
みんな合流して、村の広場で屋台をはしごする。
デビリンとリリへの貢物がすごいので、お金が減らない。
渡される肉はもちろん魔物肉だ。
今は魔鹿が一番好きだけど、初めて食べた魔猪の衝撃は今でも覚えている。
あまりよく知らない人は、だいたい冒険者だ。
温泉には来るので、顔は知っている人はいるけど、名前まで知っている人は多くない。
知らないお客さんが増えるってことは、すそ野が広がったということだから、次の改装は少し前倒しで考え方がいいかもしれない。
冒険者は、早めの時間に祭りを楽しんで、そのあとは、物音につられて近づいて来る魔物に備えて、警備に入ってくれるそうだ。
ギルド出張所を仕切るアーノルドさんのおかげで、リムズデイルから流れてきたテンプレ下級冒険者はほとんど見当たらなくなったので、治安はすごくいい。
いやあ、自然とそんなことを考えるってことは、私もすっかり村の一員だなあ。
初めて村祭りに来た頃は、転生したばっかりで、まだ家族にさえなり切れていなかった感じだったのが、まさか家族だけじゃなく、村にまでこんなに馴染むとは思わなかった。
あの頃より建物も増え、村の人口も増え……、ってあれ?
「父さんさあ、冒険者の人を除くと、村の人ってそんなに増えてなくない?」
「あ? 宿も店もできたんだから、そんなことねえだろ。
いいか? 新しいやつは、ビレントの雑貨屋の支店やってるロビンだろ? あとでっかい宿屋建てたのがリムズデイルの、なんだっけな、なんとかいうやつで、あとはホーカスと仲良い農家が何軒か越してきただろ?」
「うん。あとは?」
「あとは……、冒険者向けの店始めたのは、採取人やめたランディのジジイだし、薬屋はよろず屋の婆さんが雑貨売んのやめただけだし……、ほんとだわ、ロクに増えてねえな。
ジャンゴとか、アーノルドとか、なんか馴染んでて、元から村に住んでたみてえな気がすっけど、よく考えたら、村に新しく来たのってだいたい冒険者だわ」
父さんが指折り数えながらじっくり確認したけど、やっぱしほとんど増えていなかった。
どうりで顔見知りばっかだと思ったよ!
え? それ、マズくない?
冒険者は基本根無し草だから、いついなくなるかわかんない。
そしたら、ニーニャ村は、あっという間に元の物々交換に戻る。
私も、お客さん増えそうだから次の改装を考えなきゃとか言って、のんきに串焼き食ってる場合じゃないじゃん。
気づいて良かった!
冬とか、冒険者どうすんだろ?
一斉にどっか南の方とか行ったりしないよね?
とりあえず、それだけ確認しとこう。
じゃないと、気になってお祭り楽しめない。
「ちょっとギルド行ってくる!」
私は、言い残して、村はずれの出張所に走った。
「アーノルドさん!」
「お、どうしたミリ。ジャンゴがまたなんかやったか?」
「いや、そっちは知らない。
一個確認したいことがあってさ、冒険者の人って冬の間どうすんの?」
「ああ、それなあ……。どうすっかなあ……。
って何でそんなこと聞くんだ?」
「いや、だって、冒険者の人いなくなったら、うちのお客さん減るじゃん」
「あ、そっか。そういう問題もあるか」
「そうじゃない問題もあるの?」
「まあな。
そうだ。せっかく来たんだから、ちょっと知恵かしてくんない?」
「うん、そんなに知恵ないけどいい?」
アーノルドさんの話は、結構深刻だった。
まさにさっき私が危惧したことが起こるかもって話。
問題はいくつかあって、第一は季節の問題。
冬は魔物の活動が鈍くなって、西の森のそこそこ奥に入っても、狩りの成果が上がりにくくなること。
これだと、ここを離れる冒険者が多くなる。
第二は、立地的な問題で、依頼がものすごく少ないこと。
討伐依頼であれば、依頼料が出るのだが、さっき確認した数十人しかいない村では、そんな依頼など出るはずはなく、冒険者は勝手に森に入って獲物を狩り、それをギルドに売り払って生計を立てることになる。
ギルドが、それを他の地域の依頼にあわせて送り、つじつまを合わせているのが現状だ。
それではギルドの手数料が少なくなって、このままでは出張所の存続が難しくなるかもしれないという。
盆地の情報を公表すれば、そんなのは一発で解決するだろうが、アーノルドさんも「ケット・シーは神」の面々も、「恩人のネー様にご迷惑をかけるわけにはいかない」というスタンスだから、その手を使うはずがない。
「俺らはもう、ネー様のうろこのおかげで安泰だけどさ、『黒龍の盆地』を守るのは俺らの使命だから、ギルドを無くすわけにはいかないんだよ。
あとは、その盆地への挑戦者が少なすぎるのも問題だなあ。
西の森だと、あのワイバーンの相手ができるほど強くなんのは、だいぶ大変なんだよ」
「そうなんだ……」
冬とかいう話じゃなく、根本的な問題だった……。
「せめて、もっと強い魔物が出ればなあ」
……あ。
「アーノルドさん、その強い魔物って、森じゃなきゃダメ?」
「いや、別に森じゃなくてもいいが、草原じゃもっと弱いだろ」
「じゃなくて、ダンジョンは?」
「ダンジョンでもいいけど、そんなのこの辺にないだろ? ミリんとこもダンジョンだけど、温泉だけだし。あ、温泉がダメっつってじゃないからな? あれはいい温泉だ」
慌ててフォローするアーノルドさんだけど、うちは本気出してないだけで、やろうと思えばやれるんだよ。
「ありがとう。
じゃあさ、私がそれ作れるって言ったらどうする?」
「作れんのか?」
「うん。私ダンマスだから」
「は? 何言ってんだ?
……マジか?」
「マジ」
いいよね、言っちゃっても。
てか、もう言っちゃったし。
どうせ発表するつもりだったし。
ヴァネのせいで、タイミング逃しただけだから。
「……お前なあ、そういうのは、ちゃんと考えてから言えよ。
こんな話の中で思いついて喋ることじゃないだろが……」
「いや、せっかく思いついたんだから、喋った方がいいでしょ?
黙ってたら、気持ち悪くてお祭り楽しめないじゃん」
「……ああ、そういうヤツだったわ、お前……。
わかった。話してくれて感謝する。
詳しい話は祭りが終わったら話そう」
「うん」
「じゃあ、ミリは楽しんで来い」
「そうする。じゃあ後でね!」
超すっきりした!
これで、冒険者引き止めの可能性が出てきた!
あとは、ダンジョンに冒険者が温泉以外の目的で来るかもっていうのが画期的。
苦節ウン年。
ようやくうちにも、ダンジョンの王道に足を踏み出す時が来たのかもしれない。




