3.くっちゃべる私たち
ネーさんが迎えに来たので、塩の山を後にする。
「おじいちゃん、また来るね!」
『おお、待っとるぞ?』
「うん!」
「ま、あたしも暇だったら顔出すよ」
『お前は来んでいい』
「じゃあ、リリも来ないけどいいよね?」
『ぐっ……』
同情はするけど、積極的に話したい爺さんではない。
ただ、一時はレベルⅣまで進化したコアの話は貴重だ。
さっきのダンジョン分割のデメリットとか、マニュアルにも書いてなかった。
多分コアちゃんも知らない。
リリがいれば、大きくへそを曲げることもないだろうから、おちょくりかたがた昔話を聞いてあげようと思う。
古龍の背に乗ってネーさんの洞窟に帰る。
これですよ、このファンタジー感!
くさくさした気分も回復するってもんです。
「どうだったです?」
ディオさんが興味津々で訊いてくる。
「うーん。長くなるからあとで話すけど、ざっくり言うと、なんかかわいそうだった。
たまに顔出して話し相手をしてもいいかなって思った」
「かわいそうだったですか……。
あ、ところで、リリちゃんどうしてコアと話せるです?」
「リリもコアだからだよ?」
あっ! ……まあ、今さらか。
「家族だけの秘密だったんだけど、ディオさんはもう家族みたいなもんだから話すね。もうリリが自分で言っちゃったし。
あのね……」
私は、リリがダンジョンコアの分体であること、分体とダンマスの関係、ダンジョンコアの本体は別の場所にあること、そっちは家族にも秘密なこと、でもネーさんは見つけて勝手に入ってきちゃったこと、など一通りの情報を話した。
ディオさんは驚きつつも、研究者らしい冷静さで、真剣にその話を聞いていた。
そして、聞き終わった第一声が言葉がこれだ。
「ミリちゃんが子持ちだったです!」
そこ?
事実っちゃ事実だけど、驚くこと他にあるでしょ。
……。いや、考えてみたらあんまないな。他は、ディオさんなら、知ってるか想像つくかのどっちかだった。
まあ、変に重く受け止められても困るから、私の隠し子(笑)に食いつくらいが丁度いいのかもしれない。
ひとしきり追及した後、ディオさんは魔法契約を申し出てくれたけど、そこまでする必要はないよ。
「あ、そうだ。
私がダンマスっていうこと、ホーさんが近々発表するはず。
ダンジョンことを国に報告しちゃったんなら、もう知名度上げてお客さん呼んだ方がいいかって話になった。
ユードラさんも言ってたけど、ダンマスが表に出るのって珍しいらしいから、こんなド田舎のことでも話題にはなると思うんだ」
「珍しいとかいう話しじゃないです! その話で持ちきりになるレベルです!」
「へえ。まあ、お客さん増えれば何でもいいや」
「温泉また拡張するですか?」
ああ、そうなるか……。
この前拡張したばっかなのに、もう一回はやだなあ。
ダンジョン分割して村にもうひとつ温泉作れればいいんだけど、爺さんの話聞いちゃったら、そんなの怖くてできないし。
そもそも、もう分割するお金ないし。
「やっぱし、発表時期ずらしてもらおう」
「ディオもそれがいいと思うです」
「あ、でも、仲のいい村の人になら話してもいいよ。そっちなら今と変わんないし」
「いえ、秘密は広めない方がいいです。
その点ディオは、親しいのはミリちゃんの家族と村長とネー師匠だけなので、広める心配はないです!」
どやっ!
それでいいかのはともかく、その言葉は信用に足る。
「あれ? ホーさんは?」
「バカ兄弟子は、親しくないです!」
「ごめん」
思いっきり嫌な顔をしたので素直に謝って、ダンジョンに戻った。
デビリンがまだ見てなかったので、帰りは幻想階段。
温泉で汗を流し、お姉ちゃんははしゃぎ疲れたリリを連れて、デビリンとお家に帰った。
残った3人で、軽食堂でお茶する。
爺さんダンジョンについて、ディオさんに少し詳しく説明した。
「潰さないですよね?」
「うん、偏屈だけど、別に悪さすわけじゃないし、とりあえず放置するしかないよね」
まあ、念のため、後でホーさんには報告しておくか。
ってなったところに、ホーさんがトボトボやってきた。
遅れて参加しようとしたら、受付でもう私たちは戻ってるって教えられたそうだ。
待っててくれてもって言うけど、もう夕方だよ?
ちょうどいいので、今日の諸々を報告する。
予想通り、ダンジョンには興味なし。
ただ、みんなが古龍の背中に乗ったことにはギャースカ怒った。
「じゃあ、おいらはもう一回乗せてもらわないといけない!」
何がじゃあなのかわからないし、回数競うようなもんでもないでしょ?
ほら、ネーさん引いてるし。
「なんであたしが一号の足にならなあかんねん。
好きで土掘っとるんやから、自力で行け」
「うっ……!」
ホーさんは泣きながら、食堂を出ていった。
その背中を呆れ顔で見送り、ネーさんも席を立った。
さて私たちも帰るか、と思ったら、ディオさんに袖を引っ張られる。
「もうちょっとお話してていいです?」
「うん、別にいいけど」
「実は、ミリちゃんに相談があるです」
ちょっと改まった顔ってことはマジ話かな。
「いいよ、この頃ふたりで話す機会もあんまりないから、いいタイミングじゃない?」
「です。
ええと、この前、在庫確認しながら考えたですが……、 魔道具の工房、ヴァネッサさんに売却しようと思ったです。ミリちゃんはどう思うです?」
「んー、いいんじゃない? ディオさんがそうしたいんでしょ?」
「はい、ダイエットの魔道具製造は今も堅調ですが、ああいう大量生産は、本来うちの商会のスタイルではないのです。
オーダーメイドか準オーダーメイドで、少人数でコツコツ高級品を作る方が、設計するディオも、外注の職人さんたちも、性に合っているです」
確かに、街の人向けのものを除けば、一般向けの商品作ってないもんな。
ファーレン魔道具産業の始祖ではあるけど、量産品作ってるのは別の商会だし。
「向こうにはもう話した?」
「はい。ひとつ条件をクリアすれば、喜んで買い取るそうです。
でも、その条件は、ミリちゃんへのマージンの支払条件の見直しだったです」
「ああ、なるほど」
うん。買い取る側からすれば、それは当然やるだろう。特に驚くことじゃない。
いや、それならついでにマージンを受け取るこっちから条件つけるか。
「いいよ。じゃあ、逆にこっちからも条件出すから、それをあっちの商会長に伝えて?」
「はい。どんな条件です?」
「マージン料率は0%しか認めないって」
「魔石入らなくなっちゃうです!」
「だから、それが希望なんだってば。
うちのダンジョンが何とか生き延びて来られたのは、ディオさんからの魔石がなければ無理だった。ダンジョン分割もできなかった。それはほんとに感謝してる」
あれで5万DP持ってかれたのには、ほんとビビった。
分割費は、ダンジョン規模に関わらず切り離すのはどこか一ヵ所だから、定額。
お金持ちダンジョンならどうってことないのかもしれないけど、小規模ダンジョンがおいそれと払える数字ではない。
レベルⅡでできるようにはなったけど、やっていいものじゃなかったみたいだ。
施設改装で散財した直後だったし、残ったDPも、分割先のサロンダンジョンと意地でカッチリふたつに分けたから、一時は10万を超えていたDPも、今は2万ちょっとしかない。
ギリ2万DPは残ったのと、温泉改装で露天風呂と大サウナを別階層扱いで増設したため、階層数も5つになってたからよかったけど、そうじゃなければレベルⅠに逆戻りすところだったんだよ。
身の丈に合わないことはするもんじゃない。
だからね、ディオさん。
「ここまで来たんだから、あとはそういうのに頼らずやっていきたいの。
ディオさんの気持ちは嬉しいけど、あれはディオさんが考えた魔道具でしょ?
そもそも、ヒントをちょこっと出した私がもらうようなものじゃないんだよ」
テーブルに目を落としてしばらく考えた後、ディオさんは顔を上げた。
「――わかったです。
その条件でヴァネッサさんと話してくるです」
「よろしくお願いします」
私は交渉をディオさんに一任した。
相手は新人ダンマスのヴァネではなく、商会長ヴァネッサ・ファーレン氏。
私の出る幕はない。
向こうにはメリットしかないのだから、断られることはないだろう。
それでも何か言ってくるようなら、しょうがない、ヴァネッサ氏を強引にヴァネに引きずり下ろし、ミリちゃん先輩が成敗してくれよう。
なんかすっきりした!
その後も、いつかのバカ冒険者のように食堂に居座り、私たちの話は弾んだ。
「ディオたちが乗せてもらったのは、ネー師匠から言っていただいてのことなのです。
自分で言い出すなんて、弟子の風上にも置けないのです!」
「まさか泣いて帰るとは思わなかったよ。子供かっちゅーの!」
「カレル村長かわいそ過ぎるです!」
「そういえば、ミーシャ元気かな?」
「靴のセンスが最悪だと思うです!」
「いや、靴っていうか全部だよね?」
主な内容は、バカ兄弟子兼身勝手領主、ホーカス・ビレンの悪口だった。




