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転生ダンジョンマスターですが、弱小だし、辺境だし、どうやって生き残れと?  作者: 膝関節の痛み
第5章 辺境ダンジョンのやかましい周辺

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1.古龍の盆地は春の雪

 サロン階層は1億タシュで売れた。

 1億!

 白金貨という異世界マンガ定番の最高額硬貨は、このダダリアでも存在が確認された。

 そして、さっさとホーさん手渡された。


 だって、ダンジョンにとってのお金は金貨じゃなくてDPだから、入浴料収入で回っているうちが持っていても使い道がないの。

 もちろん寄付じゃない。

 領主様、商人税の前納でございます。


 うちは公式にもビレン領所属となったので、この国の地方税にあたる商人税を払う義務が生じる。

 税率は利益の5%。貴族税がないため、その税率は他領に比べて圧倒的に低い。

 しかも帳簿もろくにつけない個人商店しかないから、「今年は儲がったから多めに出すべー」みたいな納め方で、受け取る方も「んだかー、だば貰っとぐー」みたいにチェックすらしない有様。らしい。

 この世界のSNSである冒険者情報だから、前世同様フェイクの可能性もあるけど、概ね当たっている気がする。


 まあ、それも徐々に変わっていくんだろうけど。


 そんなわけだから、前納っていっても、計算基準も極めてあいまいで、何年分を想定するかもわかならい。


 そこで私は、領主様にこう言ったのだよ。


「足りなくなったら言って?」


 奥さん、聞きました? 「足りなくなったら言って?」ですって!


 ああ、気持ちよかった! 

 あの時のホーさんの顔!


 美女化ネーさんの噂もだいたい消えたし、警備のおかげでトラブルもないし、お客さんは「ちょい混み」くらいで安定したし、これでアレさえいなかったら、最高なんだけどな。


 ユードラさんとの黒歴史儀式を最後に、もうめったに会うこともない。

 そう思ってたアレ。


「いらっしゃいませー。5タシュになりますー。大サウナのご利用は別途3タシュですー」


 しかも、なんで受付に座ってんだろう?

 しゃーない、面倒だけど排除に行くか。


「おい、ヴァネ。勝手に中に入んな。てか、来んな」

「あ、ミリちゃん先輩、おはよーございますー。

 お仕事たのしいですー」


 話、聞きやしねえ。

 仕事を取られたラーラさんが、困り顔をこっちを見てる。


「ラーラさん、ごめんね。すぐ連れてくから」


 ラーラさんは警備担当だけど、その仕事が楽すぎて、お腹周りのリスクが復活したため、温泉トレを目的に、非番の日には時々うちでバイトしてくれている。

 元祖モニタの時からの付き合いで、責任感も強いから、そのうち就職してくれないかなって、密かに狙っているのだ。


 それなのに!


「ちょっとこっち来て!」

「えー?」


 ペーペーダンマスのくせに、抵抗すんなや!

 

 ――そうなの!

 ヴァネことヴァネッサは、分割したサロンダンジョンのダンマスになりやがったのだ。


 初めてその話を聞いたとき、

「ヴァネッサさんがダンマスになったら、次期領主は誰がなるんですか?」

って言ったら、

「えー? 私ですよー? ダンジョンマスターが領主になったらダメなんですかあ?」

ってキョトンとした顔で答えた。


 発想が柔軟!


 親の顔が見たくなって横を見たら、ユードラさんは満足そうに頷いていた。

 いや、なんならちょっと悔しそうまである。

 ダンマス幻想が強すぎるとしても、そこは止めなさいよ。


 でも、分割コアはファーレンに設置され、ここからサロン階層への転移も不可能になるし、他所様の人事に首を突っ込むわけにもいかないので、それ以上何も言わなかった。


 そしたらさあ、「先輩ダンマスに教えを乞う」とか言って、しょっちゅう来やがんの。

 サロンの方をちゃんとやれよって言ったら、あっちは何もしなくて大丈夫だとさ。

 あっちのコアに関しても、人格は初期化したてのまっさらで、すぐにダンマスがついたため、苦労知らず。

 DPごはんを与えれば、口うるさく言ってくることもないらしい。


 ダンマスは子爵令嬢で、業界最大手、いや独占の商会長だから、DP足りなくなったら好きなだけ魔石を買ってくればいい。潰れる心配は皆無だ。

 私のダンマス就任の時とのあまりの違いに震える。


 今、おっとりした笑顔でユードラさんを宥めてくれた「ヴァネッサさん」さんはもういない。

 いるのは、偶然加入した新業界で唯一の顔見りに絡む、「ヴァネ」というウザキャラである。


 小一時間説教して、ヴァネを追い払った。

 ウザ返しで、「そもそも、私がダンマスになった時はなあ……」って、思いっきり先輩語りをしてたら、ダンジョンパンに興味を示したので、「多分そっちのダンジョンでも作れると思うから、調べてみなさい」って言ったら、「ミリちゃん先生の初めての宿題ですねー。レポート書いてきますー」って嬉しそうに帰っていった。

 レポート提出不要です。


 なんとか次の予定に間に合った。

 待ち合わせの受付前に、ディオさん、リリ、お姉ちゃん、ホーさんの4人がいる。

 私も含めて5人で、冬前にギリ終了したホーさんの調査を踏まえて、今日から二日に渡って、「古龍の盆地」の見学ツアーを行うのだ。


 もうすぐ到着予定の「ケット・シーは神」を待とうかという話も出たけど、ビレン領の内政にも関わるのでまずは内々で、ということになった。


 名称については、一応ネーさんに確認したけど、「知らん。ボンチでもパンチでも好きにしたらええがな」と興味なしだったので、「古龍の盆地」呼びが確定した。


 お姉ちゃんを誘ったのは、未開の土地を見たら、猟師の血が騒いで、猟師復帰を言い出してくれないかなあって思ったから。

 狩猟シーズンはもうすぐそこまで来ている。温泉仕事をダラダラ続けている場合じゃないのだ。


 幻想階段を上り、盆地に到着する。


「わあ……」


 お姉ちゃんが思わず声を漏らした。

 初めてここに来た時期よりもちょっと前だからか、盆地を囲む山々の緑はまだ淡く、その中に点在する木の花の白と溶け合っている。


 盆地にはところどころに融け残った雪があって、その隙間を、ホーさんが去年作った細い黒土の道が、蒼い湖に向かって伸びている。

 

 雪解け水からうっすら立ち上る蒸気で少しかすむ空気の中を、まずネーさんの洞窟を目指す。

 私たちの護衛をお願いしたので、ネーさんは今日、仕事はお休み。あとでお風呂だけ入りに行くそうだ。


 洞窟入口でネーさんが待っていた。


「おお、来たか。チビもよう頑張ったな」


 ネーさんが飛びついてきたリリを受け止める。


「うん! ミリねえがダメッていうから来られなかった!」

「ごめんね。危なくないの確認しないと連れて来られないからね」

「来たからだいじょうぶ!」


 ずっとうずうずしてたリリも、ようやく来られてご機嫌。


「ほな、弟子一号、行こか?」

「はい、師匠!」


 張り切るホーさんに先導されて、少し戻ったところから土の道を歩き出す。

 道は湖の方に向かい、そこから湖を回り込むように対岸へ方へ続いている。

 その途中に見える少し大きな土の小屋は、ホーさんの調査拠点だろう。


 先頭のホーさんが、上達した土魔法で道を整備しながら進むので、後続の私たちはぬかるみを気にする必要もない。


「あっこが、ゴミ捨てたあたりやな。

 捨てるついでに、軽く土かぶせといたわ」


 ネーさんが指さす崖の下は、確かに土に覆われている。

 拾えばOKだったのが、発掘が必要になった?

 土が浅いことを祈ろう。


 「ゴミ」は、ホーさんが土魔法で洞窟の外まで運び、古龍形態のネーさんが捨てたそうだ。

 冬前に急いでいたのはそのせいで、「師匠のうろこを他人に触されたくない」という変態のおかげで、予定していた私たちの仕事はなくなっていた。キモありがたい。


 道を少し外れて、湖の傍まで進む。

 

 ネーさんの水浴び池こと中央の湖の名前は「蒼のうみ」。もちろん、ホーさんの命名だ。割といい。

 すんごい透明度でため息が出るくらいきれいだけど、魚はほとんど棲んでいないみたい。


 この土地の魔力で育ったニジマスの魔物みたいなのを期待していたんだけど、流れ込んでいる川もないし、遡ってもこれない場所だから仕方がない。

 でも、ダンジョン近くの湖――いやサイズ的にはあっちが池だな――から、魔魚を運んでくれば、養殖できるんじゃないかな?

 できたらデビリンが喜びそうなので、誰かやってほしい。

 私はやらない。だってあいつら齧るもん。


 湖を覗き込んでいると、頭に冷たいものが当たる。


「雪です」


 ディオさんが手を伸ばして、そのひとひらを受け止める。

 気が付けば肌寒さも増している。


「小屋行こか?

 あたしは平気やけど、おまえら寒いやろ」

「師匠、どうぞ!

 お茶もお出しできます!」


 古龍ファーストのホーさんが、バタバタと小屋へ走ってゆく。


「雲一個分やから、すぐ止むやろ」


 それでも少し勢いを増した春の雪が、あたりを白く染めていった。

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